リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴

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資産家令嬢誘拐事件

資産家令嬢誘拐事件8『急転』

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 捜査本部が慌ただしくなったのは、佐伯の失踪が報告された瞬間だった。

「捜査本部全員に緊急連絡!佐伯健二が失踪!」

 佐伯家には警備が配置されていたはずだが、彼はその隙をついて姿を消してしまった。

 警備に立っていた警察官も、まさか彼が消えるとは予想もしていなかったようだ。

「何としてでも捜せ!」

 捜査一課長が厳しい表情で声を上げると、刑事たちはすぐに動き出した。

 今や佐伯自身が誘拐事件に巻き込まれているのか、それとも自ら犯人の元へ向かっているのか、誰にもわからなかった。


 ---

 佐伯邸に急行したのは、捜査一課の刑事たちだけではなかった。

 山口麗子班も現場に駆けつけた。

「目撃者を探して! 防犯カメラ映像を直ちにチェック!いいわね!」

 麗子が部下に指示を出し、刑事たちが散っていく。

 麗子が佐伯邸に入ると、奥には崩れ落ちるように泣きじゃくる佐伯の妻がいた。

 彼女は、夫が失踪したという事実に打ちのめされ、動揺を隠せなかった。

「どうして……どうしてこんなことに……」

 麗子は妻に話を聞きながら、佐伯の行動について何か手掛かりがないか慎重に探った。

 しかし、妻も何が起こっているのか、まったく分からない様子だった。


 ---

 捜査本部内も騒然としていたが、優斗はそんな状況の中であることに気づいた。

 騒ぎが続く中、リモートで捜査を進めている翔だけが、まるで別世界にいるかのように落ち着いていたのだ。

「翔さん、こんな状況なのに……なぜそんなに冷静なんですか?」
 優斗は疑問を抱きつつも、その質問を投げかけた。

 周囲が慌ただしく動き回る中、翔の指が静かにキーボードを叩き続けていた。

「優斗、佐伯が自ら消えた理由はもうわかっている。それに、彼がどこに向かったのかも見当がついている」

 翔は画面から目を離さずに答えた。その声は静かだったが、どこか自信に満ちていた。

「どういうことですか?」

「佐伯はおそらく、犯人の指示で動いている。だが、彼が向かう先はもう特定できている。君が向かうべき場所もだ」

「俺が向かうべき場所……?」
 優斗は翔の言葉に驚いた。

 まだ手掛かりが見つかっていないはずだ。しかし、翔はすでに佐伯の行動を予測している。

「伊豆ダイヤモンドタウンに行け。そこに佐伯がいるはずだ」

「どうして……どうしてそんな場所に?」

 優斗は困惑しながらも、翔の冷静な指示に従うしかなかった。

 翔が何かを掴んでいるのは間違いない。

 しかし、その根拠は何なのか、優斗にはまだ理解できていなかった。


 ---

 その時、翔の部屋のパソコンに映し出されていたのは、Nシステムの画像だった。

 画面には、顔面蒼白でハンドルを握りしめながら車を急ぐ佐伯の姿が映っていた。

 Nシステムが捉えたその瞬間、翔は佐伯が自ら犯人の元へ向かっていると確信していた。

 そして、もう一つの画面には、伊豆ダイヤモンドタウンの不動産登記記録が表示されている。

「やはり、ここだろうな……」
 翔は呟いた。

 佐伯が過去に所有していた別荘が、事件の舞台となることを示していたのだ。


 ---

「優斗、急げ。時間がないぞ」
 翔の声が再び冷静に響いた。

 優斗はその言葉に動かされ、すぐに出動の準備を整えた。

 何が待ち受けているのか、今はわからない。

 ただ、佐伯の命も娘の命も、この捜査にかかっているのは確かだった。


 ---

 つづく


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