32 / 53
資産家令嬢誘拐事件
資産家令嬢誘拐事件8『急転』
しおりを挟む捜査本部が慌ただしくなったのは、佐伯の失踪が報告された瞬間だった。
「捜査本部全員に緊急連絡!佐伯健二が失踪!」
佐伯家には警備が配置されていたはずだが、彼はその隙をついて姿を消してしまった。
警備に立っていた警察官も、まさか彼が消えるとは予想もしていなかったようだ。
「何としてでも捜せ!」
捜査一課長が厳しい表情で声を上げると、刑事たちはすぐに動き出した。
今や佐伯自身が誘拐事件に巻き込まれているのか、それとも自ら犯人の元へ向かっているのか、誰にもわからなかった。
---
佐伯邸に急行したのは、捜査一課の刑事たちだけではなかった。
山口麗子班も現場に駆けつけた。
「目撃者を探して! 防犯カメラ映像を直ちにチェック!いいわね!」
麗子が部下に指示を出し、刑事たちが散っていく。
麗子が佐伯邸に入ると、奥には崩れ落ちるように泣きじゃくる佐伯の妻がいた。
彼女は、夫が失踪したという事実に打ちのめされ、動揺を隠せなかった。
「どうして……どうしてこんなことに……」
麗子は妻に話を聞きながら、佐伯の行動について何か手掛かりがないか慎重に探った。
しかし、妻も何が起こっているのか、まったく分からない様子だった。
---
捜査本部内も騒然としていたが、優斗はそんな状況の中であることに気づいた。
騒ぎが続く中、リモートで捜査を進めている翔だけが、まるで別世界にいるかのように落ち着いていたのだ。
「翔さん、こんな状況なのに……なぜそんなに冷静なんですか?」
優斗は疑問を抱きつつも、その質問を投げかけた。
周囲が慌ただしく動き回る中、翔の指が静かにキーボードを叩き続けていた。
「優斗、佐伯が自ら消えた理由はもうわかっている。それに、彼がどこに向かったのかも見当がついている」
翔は画面から目を離さずに答えた。その声は静かだったが、どこか自信に満ちていた。
「どういうことですか?」
「佐伯はおそらく、犯人の指示で動いている。だが、彼が向かう先はもう特定できている。君が向かうべき場所もだ」
「俺が向かうべき場所……?」
優斗は翔の言葉に驚いた。
まだ手掛かりが見つかっていないはずだ。しかし、翔はすでに佐伯の行動を予測している。
「伊豆ダイヤモンドタウンに行け。そこに佐伯がいるはずだ」
「どうして……どうしてそんな場所に?」
優斗は困惑しながらも、翔の冷静な指示に従うしかなかった。
翔が何かを掴んでいるのは間違いない。
しかし、その根拠は何なのか、優斗にはまだ理解できていなかった。
---
その時、翔の部屋のパソコンに映し出されていたのは、Nシステムの画像だった。
画面には、顔面蒼白でハンドルを握りしめながら車を急ぐ佐伯の姿が映っていた。
Nシステムが捉えたその瞬間、翔は佐伯が自ら犯人の元へ向かっていると確信していた。
そして、もう一つの画面には、伊豆ダイヤモンドタウンの不動産登記記録が表示されている。
「やはり、ここだろうな……」
翔は呟いた。
佐伯が過去に所有していた別荘が、事件の舞台となることを示していたのだ。
---
「優斗、急げ。時間がないぞ」
翔の声が再び冷静に響いた。
優斗はその言葉に動かされ、すぐに出動の準備を整えた。
何が待ち受けているのか、今はわからない。
ただ、佐伯の命も娘の命も、この捜査にかかっているのは確かだった。
---
つづく
---
20
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
グリムの囁き
ふるは ゆう
ミステリー
7年前の児童惨殺事件から続く、猟奇殺人の真相を刑事たちが追う! そのグリムとは……。
7年前の児童惨殺事件での唯一の生き残りの女性が失踪した。当時、担当していた捜査一課の石川は新人の陣内と捜査を開始した矢先、事件は意外な結末を迎える。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
暗闇の中の囁き
葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる