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その日、優月は短大の卒業式を迎えることになった。
式を終え、門を出たところで友人たちと写真を撮っているところに、いきなり声をかけられた。隆司だった。
警戒していたため、驚きはしなかったが、襲われかけた記憶に身が強ばる。
「優月ちゃん、俺のところに戻ってきてほしい。でも、そうしないなら、結納金一千万は返してもらう。式場のキャンセル料もね。慰謝料も請求する。でも、俺のところに戻ってくるのなら、それらは要らないよ」
「い、一千万……?! そ、そんなの、支払えないわ……」
「それはそっちの事情だ。払えないなら、俺に戻ってくるしかない」
「いやよ……!」
そこへ由紀也がすっと現われた。
由紀也はずっと付き添っていたが、優月たちの邪魔にならないように少し離れた場所から見守っていた。
由紀也を見ると、隆司は優月を指さし、急に大きな声を上げ始めた。
「優月ちゃんは、俺がいるのに、他の男と一緒にいるのか! 来週には俺との結婚式を控えているというのに!」
市太郎まで姿を現した。
「優月、由紀也と寝たのか。自分の叔父さんと寝るなんてふしだらに育って、パパは悲しいよ」
卒業式後の人だかりで優月に注目が集まった。
二人は優月を辱めて、優月の心を折るつもりらしい。
友人たちに守るように取り囲まれるも、優月へ好奇の目が突き刺さる。
「騒がれたくなければ、帰ってこい」
由紀也が割り込んで言う。
「ここであなたたちのやったことを打ち明けましょうか」
「なんのことだ」
「市太郎さん、あなたは優月の金を横領している。そして、隆司さんもそれに関与している。証拠は揃ってるんだ」
由紀也は優月に顔を向けると小声で説明してきた。
「優月には祖父母、つまり俺の両親から、多くの遺産が渡っているんだよ。5億はあったはずだ」
優月はそこで、7才と14才のときに由紀也が高遠家を訪れたのは、祖父と祖母の葬式後、まもなくだったことを思い出した。遺産を渡すために訪問していたのだと気づく。
由紀也は市太郎と隆司に顔を向けると、突き付けるように言った。
「市太郎さん、あなたの会社に優月の金を入れ込んだのはわかってる。弁護士として隆司さんもかかわってたのも」
市太郎が図太い顔で言った。
「俺は優月の父親だぞ」
「たとえ娘の金でも親が勝手に使ったら犯罪だ。市太郎さんと隆司さんは、横領がバレても優月が訴えないように、結婚を企んだんだ。夫婦なら訴えないと考えたからだ。だが、優月はもう成人し、親の管理下にはない。それに、隆司さんとも結婚しない」
そこで、由紀也は優月に顔を向けた。
「優月、どうする? 訴える?」
(パパは勝手に私のお金を使い込んでたの………? おじいちゃまとおばあちゃまからもらったお金を………?)
優月が市太郎に冷ややかな目を向ければ、市太郎は慌てた声を出してきた。
「ちょっと借りただけだ。すぐに返すつもりだ」
(ちょっと借りただけ? すぐに返す? まるで麗奈と同じ言い訳をするのね、この人は)
市太郎は優月に媚びるような顔を向けてきた。
「優月だってパパの会社が大きくなった方が嬉しいだろう。優月、パパは優月のためを思ってやってきたんだよ。パパはいつも優月のためを考えてる」
(私のためを考えてるだなんてよく平然と言えるわね)
「ごめんなさい、パパ。私は訴えるわ………。私は、我が儘で自分勝手な娘なんでしょう? 好きにさせてもらうわね」
式を終え、門を出たところで友人たちと写真を撮っているところに、いきなり声をかけられた。隆司だった。
警戒していたため、驚きはしなかったが、襲われかけた記憶に身が強ばる。
「優月ちゃん、俺のところに戻ってきてほしい。でも、そうしないなら、結納金一千万は返してもらう。式場のキャンセル料もね。慰謝料も請求する。でも、俺のところに戻ってくるのなら、それらは要らないよ」
「い、一千万……?! そ、そんなの、支払えないわ……」
「それはそっちの事情だ。払えないなら、俺に戻ってくるしかない」
「いやよ……!」
そこへ由紀也がすっと現われた。
由紀也はずっと付き添っていたが、優月たちの邪魔にならないように少し離れた場所から見守っていた。
由紀也を見ると、隆司は優月を指さし、急に大きな声を上げ始めた。
「優月ちゃんは、俺がいるのに、他の男と一緒にいるのか! 来週には俺との結婚式を控えているというのに!」
市太郎まで姿を現した。
「優月、由紀也と寝たのか。自分の叔父さんと寝るなんてふしだらに育って、パパは悲しいよ」
卒業式後の人だかりで優月に注目が集まった。
二人は優月を辱めて、優月の心を折るつもりらしい。
友人たちに守るように取り囲まれるも、優月へ好奇の目が突き刺さる。
「騒がれたくなければ、帰ってこい」
由紀也が割り込んで言う。
「ここであなたたちのやったことを打ち明けましょうか」
「なんのことだ」
「市太郎さん、あなたは優月の金を横領している。そして、隆司さんもそれに関与している。証拠は揃ってるんだ」
由紀也は優月に顔を向けると小声で説明してきた。
「優月には祖父母、つまり俺の両親から、多くの遺産が渡っているんだよ。5億はあったはずだ」
優月はそこで、7才と14才のときに由紀也が高遠家を訪れたのは、祖父と祖母の葬式後、まもなくだったことを思い出した。遺産を渡すために訪問していたのだと気づく。
由紀也は市太郎と隆司に顔を向けると、突き付けるように言った。
「市太郎さん、あなたの会社に優月の金を入れ込んだのはわかってる。弁護士として隆司さんもかかわってたのも」
市太郎が図太い顔で言った。
「俺は優月の父親だぞ」
「たとえ娘の金でも親が勝手に使ったら犯罪だ。市太郎さんと隆司さんは、横領がバレても優月が訴えないように、結婚を企んだんだ。夫婦なら訴えないと考えたからだ。だが、優月はもう成人し、親の管理下にはない。それに、隆司さんとも結婚しない」
そこで、由紀也は優月に顔を向けた。
「優月、どうする? 訴える?」
(パパは勝手に私のお金を使い込んでたの………? おじいちゃまとおばあちゃまからもらったお金を………?)
優月が市太郎に冷ややかな目を向ければ、市太郎は慌てた声を出してきた。
「ちょっと借りただけだ。すぐに返すつもりだ」
(ちょっと借りただけ? すぐに返す? まるで麗奈と同じ言い訳をするのね、この人は)
市太郎は優月に媚びるような顔を向けてきた。
「優月だってパパの会社が大きくなった方が嬉しいだろう。優月、パパは優月のためを思ってやってきたんだよ。パパはいつも優月のためを考えてる」
(私のためを考えてるだなんてよく平然と言えるわね)
「ごめんなさい、パパ。私は訴えるわ………。私は、我が儘で自分勝手な娘なんでしょう? 好きにさせてもらうわね」
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