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ラクア国王を騙る賊

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ブルガン王宮に、一人の賊が現れた。

ズボンらしきものは穿いているが上は裸で、髪はボサボサだった。そして、汚らしく、異臭がする。

兵士らが槍を向ければ、するりと交わした。

馬上の賊は身のこなしが尋常ではなく、兵士らが寄ってたかってもするりと交わして捉えることができなかった。

そして、帝国語らしき言葉で何やら喚き始めたため、帝国語のわかる騎士たちが呼ばれた。

騎士によればラクア国王を騙っているという。

「こんな賊が国王のはずがないだろう」

「ラクア国王は美丈夫なはずだ」

しかし、そういう目で見れば、その男の態度は実に堂々としており、汚らしいくせに、威風が備わっている。

一人の騎士が思い出した。

(そういえば、婚姻使節団のラクア騎士が、ラクア国王は、いつも裸でごろついているとか自虐めいた冗談を言っていたが、まさか……)

報告を受けた宰相は言った。

「とりあえず風呂に入れろ」

「しかし、陛下に会わせろと言って聞かないんです」

「そんな汚いなりで陛下に会わせるわけにはいかんだろ」

そうこうしている間に、自称ラクア国王は、馬から降りて、勝手にずんずんと王宮に入っていく。しかし、途中で、よろめいた。

それは本物のラクア国王、ゲルハルトだった。

ゲルハルトは、馬車で一か月かかる道のりを、たった5日で到着した。石畳の王都に着いたとき、ゲルハルトに着いてこられた側近は一人もいなかった。

アレクスがいれば着いてこられたかもしれなかったが、あいにくアレクスはいなかった。

不眠不休の、ほぼ飲まず食わずで駆けてきたのだ。

さすがのゲルハルトでも消耗していた。

ゲルハルトが客間でひと眠りし、風呂に入り、食事を終えた頃には、一騎二騎とラクアからの騎士が到着し、それが軍勢と呼べるものになったので、やっと、ラクア国王だと認識された。

***

ブルガン国王はラクア国王がやってきたと聞いて、眉をしかめた。

(やはりあれでは不満が募ったか)

第三王女の突然の失踪で仕方なかったにせよ、塔に隠れ住んだ娘を身代わりにしたが、ブルガン王家の血であることは間違いないし、外見もすこぶる良かったはずだ。

文句を言われたら、今度こそ、第三王女を差し出せばいい。少々傷物だが、こちらもブルガン王家の血を引くのだ。そう思い腹をくくった。

第三王女のイザベラを呼び出した。

イザベラは護衛騎士と駆け落ちしたものの、平民の生活に耐えられなくなり、戻ってきた。駆け落ちのせいで、護衛騎士の末路は憐れなものとなったが、イザベラには知らせていない。

イザベラにとっては不満の募る生活で、護衛騎士とも毎日喧嘩ばかりのようだったから、もう興味もなさそうだし、知らせても良い気はしないだろう。

「イザベラ、ラクア王国への輿入れの心構えをしておけ」

「………」

戻ってきてより、随分しおらしくしているが、イザベラは返事をしなかった。

今回の話はイザベラにとっては良いものではなさそうだった。

(だって、汚くて臭い人なんでしょう? そんな人と結婚するのは嫌よ)

イザベラはやってきたラクア国王の風体を耳にして、駆け落ちしてよかった、と心の底から思ったばかりだった。

イザベラは父王に易々と従えなかった。

しかし、父王は無情に言い捨てる。

「とにかく、その心構えでおれ。今夜の歓迎式では、着飾ってくるように」

「………はい」

(もう一度、城から逃げちゃおうかしら)

イザベラはそんなことを考えていた。駆け落ちのせいで、侍女の数人の首が飛んだが、そのこともイザベラは知らされておらず、イザベラもまた世間知らずの常識知らずだった。

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