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第十部

向井の彼女

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「そんなの、あの顔だけでも我慢できるじゃん。

おつりがくるよ。

私だったら離さなかったな」

「ふふふ………でも亡くなっちゃったのよね」

彼女はドリンクを手に窓の外を眺めた。

「私、最初はそれすら知らなかったのよ。

彼、友人は和泉さんだけで、

身内もいないじゃない。

その和泉さんともここ数年は、

連絡を取っていなかったらしいの。

それで会社の人が全部やったんですって。

後から私の住所が書かれた手帳を見つけて、

社員の人が連絡くれたけど………

和泉さんも驚いてたし、怒ってた。

こんなことになるなら、一緒にいればよかった」

由姫はそういうと、

涙を流してドリンクに口を付けた。

向井はゆっくり彼女に近づくと、

背後から抱きつき、

耳元で何かを呟いてカフェを出て行った。

由姫は何かを感じたのか、

振り返り辺りを見回す。

「なに? どうかした? 」

連れの女性が声をかけた。

「あ………な、なんでもない。

彼のこと思い出してたからかな。

今そばにいた気がして」

「やだ、向井君の幽霊? 」

「幽霊でもいい………もう一度だけ会いたい………」

彼女はそういうと泣きながら笑った。

安達はその女性を見つめながら、

向井を追ってカフェを出た。


向井はカフェの前のガードパイプに腰かけて、

安達を待っていた。

「安達君を驚かせちゃいましたね」

向井は静かに笑った。

「まさか、こんなところで会うとは思わなかったから、

ビックリしました」

「向井の好きだった人? 綺麗だね。

俺、ドキドキしちゃった」

「そう? 彼女が知ったら喜ぶな」

向井が笑った。

「ねえ、なんでごめんって謝ったの? 

向井が死んじゃったから? 」

「………そうだね。このごめんには、

色んな意味があるんだ。

生きているうちに伝えなきゃいけなかったことも。

死んで気づいても遅いんだけどね」

向井はそういうと、

「安達君も生きてたら、好きな人が出来て、

一緒に映画見たり、遊園地に行ったり、

楽しい事が出来たのにね」

と安達を見た。

「えっ? 彼女? 無理だよ~」

安達が真っ赤になって顔を振る姿に、

可愛いな~と向井は笑うと、

「おやつ買って帰ろうか」

と一緒に歩き出した。


安達は彼女の涙を見たので、

向井の今の気持ちをじ~っと見ながら、

一人考えていた。

ごめん………

ごめんの中には、

ありがとうも好きもあるという事を、

向井の顔を見て初めて知った。

「安達君どうしたの? 」

早紀がボ~ッとしている安達に声をかけた。

「なんでもない。これ、美味しいね」

安達はそういうと向井を見て笑った。


――――――――


「おっ、いいもん。食べてるな」

休憩室に入ってきて虎獅狼が言うと、

ぞろぞろと図書室組が入ってきた。

「疲れたでしょう。

おやつに和菓子を買ってきたので、どうぞ。

今お茶淹れますね」

向井と一緒に早紀も、

「手伝う」

と立ち上がった。
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