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第八部
感謝を忘れた人々
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『呪われた国』報道が続く中、
十九年前と同じような出来事も起こり始めた。
続く地震もあり、
階級制度の3Aより上の者たちは、
こぞって海外へと逃げて行った。
インバウンド消費も減り、
国会は機能してるのかしていないのか、
言い争う見苦しいヤジと議員の殴り合いが、
大画面に映し出され、
鬱陶しいと、
誰も街頭ビジョンを見ることもなかった。
TV局は国からの要請で、
流すのはバラエティーか歌番組。
重要なものは時折、
AIニュースで流れてきていた。
地震も収まらず倒壊はないものの、
国の支援も中途半端なため、
自分達で処理をしていた。
そこで見直されているのが、
中央から少し離れた都市部の存在だ。
大沢帝国から地域格差が大きくなり、
街でも独自の組織作りがなされており、
相互協力で成功していた。
中央の人間たちから、
姥捨て山と揶揄されていた場所に、
中央から引っ越したいという移住者も出てきたため、
住民達とのトラブルも起こっていた。
出来上がっていたコミュニティーに後から入り、
不便だからと自分たちのルールを押し付け、
元からいた住民が他のコミュニティーに移る、
という問題が続いていた。
だが、暫くすると不便で住めないと、
中央に戻って行くので、
団地は再び空き家状態。
神も追い出された場所が多い為、
悪霊も増え始めていた。
今では中央からの者は来るなという、
抗議活動まで出てしまい、
全てにおいて常識あるきちんとした人ですら、
中央からというだけで、
白眼視されてしまう事態になっていた。
「人間というものは神や妖怪より醜いの~」
赤姫が近隣のそんな騒動に、
侮蔑の表情で話した。
「耳が痛いです」
向井が苦笑いすると、小さく頭を下げた。
「向井は冥王がそばに置いたのだから、
醜い人間という訳でもあるまい」
赤姫が笑った。
「ここは今の所、問題は起きてないの? 」
トリアが聞いた。
「赤姫さんが入居者をより分けてるから、
負をまとったオーラの人は、
入ってこられないみたい。
俺としては助かるから、赤姫さんには感謝だよ」
黒谷が嬉しそうに赤姫を見た。
「私としても苦々しい時代が長かったからな。
土地も浄化されて、大分綺麗なった。
これ以上悪い気を入れたくはないから、
魂の選別をしておる」
赤姫が笑いながら説明した。
「他の団地の神々も少しずつ復活してるので、
感謝を忘れなければ、
助けてもらえるかもしれませんね」
向井もこの国の行く末に、
再生された後の自分の事を考え、
複雑な思いで見ていた。
「そういえば、フラの練習に冥界に来てるんでしょ。
どう? うまくなった? 」
トリアが赤姫を見た。
「ふふん。当日までのお楽しみじゃ」
赤姫の自信ありげなドヤ顔に、
向井達も笑った。
数日後―――
中央の揉め事が治まらない中、
空き家になっている団地に、
幽霊が出ると騒ぎになり、
そこの担当から黒谷が相談を受けた。
「実は中央の人間が、
好き勝手に荒らして出て行った団地が、
空き家になったままなんだよ」
向井達は黒谷から呼ばれて、
その団地にやってきた。
中央からかなり離れた場所だが、
都市部の中でも緑が多い。
付近を見ると、
神の祠も壊されたままであり、
見た所神の気配もない。
このまま荒れた状態が続けば、
神も戻っては来ないだろう。
黒谷が向井達の姿を見つけると、
手を上げて呼んだ。
「この人が陰陽師の向井さんです」
陰陽師じゃないんだが、
その説明の方が納得するのか、
いつの間にか陰陽師にされていた。
「私、この団地を担当しております津川と申します」
そういってお互いに名刺交換をした。
AI暴走からデジタルが使えなくなっており、
デジタル名刺も少なくなった。
「今、このように古い団地は一部改装して、
人が戻ってきた場所もあるんですけど、
中央人にコミュニティーを追い出された団地は、
今もそのままなんです。
やっと募集までこぎつけたのに、
今度は幽霊騒ぎで悪いうわさが出てしまいまして」
津川が当惑した様子で話した。
四十代くらいだろうか。
ガタイのいいスポーツ選手の印象だ。
「ここは以前に民間業者との連携で、
二百年住宅構想となった、
モデルケースの一つなんです。
昔はマンモス団地なんて言ったそうですけど、
今は一棟、二棟が一般的で、
マンションや団地は、
七十~八十年経ったものが多く、
そこをリノベして安く貸し出しているんです」
向井達は黙って聞いていた。
「中央の方が姥捨て山というように、
ここでは中央の方を中央人と呼ぶ方が多いです。
自分たちのルールを押し付けずに、
双方が共存されてる団地は比較的、
うまくいっているんですけど、
やはり便利なところから来られると、
不平不満が増えて、
結局以前から住まわれていた方達が、
追い出されてしまう結果になってしまうんです」
「この世は弱肉強食だからね。
強者が偉いという道理が、
まかり通ってしまうところもあるから」
ヴァンが腕を組んだ。
「で、結果、このような団地が増えてしまって、
こちらとしても頭が痛いです」
津川も申し訳なさそうに話した。
十九年前と同じような出来事も起こり始めた。
続く地震もあり、
階級制度の3Aより上の者たちは、
こぞって海外へと逃げて行った。
インバウンド消費も減り、
国会は機能してるのかしていないのか、
言い争う見苦しいヤジと議員の殴り合いが、
大画面に映し出され、
鬱陶しいと、
誰も街頭ビジョンを見ることもなかった。
TV局は国からの要請で、
流すのはバラエティーか歌番組。
重要なものは時折、
AIニュースで流れてきていた。
地震も収まらず倒壊はないものの、
国の支援も中途半端なため、
自分達で処理をしていた。
そこで見直されているのが、
中央から少し離れた都市部の存在だ。
大沢帝国から地域格差が大きくなり、
街でも独自の組織作りがなされており、
相互協力で成功していた。
中央の人間たちから、
姥捨て山と揶揄されていた場所に、
中央から引っ越したいという移住者も出てきたため、
住民達とのトラブルも起こっていた。
出来上がっていたコミュニティーに後から入り、
不便だからと自分たちのルールを押し付け、
元からいた住民が他のコミュニティーに移る、
という問題が続いていた。
だが、暫くすると不便で住めないと、
中央に戻って行くので、
団地は再び空き家状態。
神も追い出された場所が多い為、
悪霊も増え始めていた。
今では中央からの者は来るなという、
抗議活動まで出てしまい、
全てにおいて常識あるきちんとした人ですら、
中央からというだけで、
白眼視されてしまう事態になっていた。
「人間というものは神や妖怪より醜いの~」
赤姫が近隣のそんな騒動に、
侮蔑の表情で話した。
「耳が痛いです」
向井が苦笑いすると、小さく頭を下げた。
「向井は冥王がそばに置いたのだから、
醜い人間という訳でもあるまい」
赤姫が笑った。
「ここは今の所、問題は起きてないの? 」
トリアが聞いた。
「赤姫さんが入居者をより分けてるから、
負をまとったオーラの人は、
入ってこられないみたい。
俺としては助かるから、赤姫さんには感謝だよ」
黒谷が嬉しそうに赤姫を見た。
「私としても苦々しい時代が長かったからな。
土地も浄化されて、大分綺麗なった。
これ以上悪い気を入れたくはないから、
魂の選別をしておる」
赤姫が笑いながら説明した。
「他の団地の神々も少しずつ復活してるので、
感謝を忘れなければ、
助けてもらえるかもしれませんね」
向井もこの国の行く末に、
再生された後の自分の事を考え、
複雑な思いで見ていた。
「そういえば、フラの練習に冥界に来てるんでしょ。
どう? うまくなった? 」
トリアが赤姫を見た。
「ふふん。当日までのお楽しみじゃ」
赤姫の自信ありげなドヤ顔に、
向井達も笑った。
数日後―――
中央の揉め事が治まらない中、
空き家になっている団地に、
幽霊が出ると騒ぎになり、
そこの担当から黒谷が相談を受けた。
「実は中央の人間が、
好き勝手に荒らして出て行った団地が、
空き家になったままなんだよ」
向井達は黒谷から呼ばれて、
その団地にやってきた。
中央からかなり離れた場所だが、
都市部の中でも緑が多い。
付近を見ると、
神の祠も壊されたままであり、
見た所神の気配もない。
このまま荒れた状態が続けば、
神も戻っては来ないだろう。
黒谷が向井達の姿を見つけると、
手を上げて呼んだ。
「この人が陰陽師の向井さんです」
陰陽師じゃないんだが、
その説明の方が納得するのか、
いつの間にか陰陽師にされていた。
「私、この団地を担当しております津川と申します」
そういってお互いに名刺交換をした。
AI暴走からデジタルが使えなくなっており、
デジタル名刺も少なくなった。
「今、このように古い団地は一部改装して、
人が戻ってきた場所もあるんですけど、
中央人にコミュニティーを追い出された団地は、
今もそのままなんです。
やっと募集までこぎつけたのに、
今度は幽霊騒ぎで悪いうわさが出てしまいまして」
津川が当惑した様子で話した。
四十代くらいだろうか。
ガタイのいいスポーツ選手の印象だ。
「ここは以前に民間業者との連携で、
二百年住宅構想となった、
モデルケースの一つなんです。
昔はマンモス団地なんて言ったそうですけど、
今は一棟、二棟が一般的で、
マンションや団地は、
七十~八十年経ったものが多く、
そこをリノベして安く貸し出しているんです」
向井達は黙って聞いていた。
「中央の方が姥捨て山というように、
ここでは中央の方を中央人と呼ぶ方が多いです。
自分たちのルールを押し付けずに、
双方が共存されてる団地は比較的、
うまくいっているんですけど、
やはり便利なところから来られると、
不平不満が増えて、
結局以前から住まわれていた方達が、
追い出されてしまう結果になってしまうんです」
「この世は弱肉強食だからね。
強者が偉いという道理が、
まかり通ってしまうところもあるから」
ヴァンが腕を組んだ。
「で、結果、このような団地が増えてしまって、
こちらとしても頭が痛いです」
津川も申し訳なさそうに話した。
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