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第八部

牧野 疲労困憊

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「遅くなってごめんね。

倉田さんと岸本君の所にも行ってたから」

エハがいい、

彼らは式神を放つと、

冥王の朱が書かれた仙木を手に、

それを土に埋め込んだ。

途端に悪霊が消え去り、

暗闇に光が差した。

それと同時に向井と牧野の身守り袋が輝き、

光りを放った。



「虹だ~」

「少し明るくなった? 」

街を歩く者たちが立ち止まって空を見た。

こんな時でも仕事があり、

暮らせているものもいる。

デジタルはAIに乗っ取られている状態なので、

アナログ時代を経験したことのない国民にとって、

その不便さには辟易していた。


「百年前だと思えば、

どうってことないけどね」

トリアが笑った。

「そうか~ここで戦前戦後を経験してるのは、

トリアだけだもんね」

ヴァンが言った。

「あんたたち若者はあの時代を知らないからね。

三十年程前にも世界大戦の危機があったのよ。

それを何とか乗り切って今があるんだから、

こんなところで国が亡んだら、

私達だって冥界で路頭に迷うわ」

「それ困る~死んでるのに、

更に不便になるの? 」

牧野が文句を垂れた。

「昔は不便だって言うけど、

今から百年前だって電話もテレビもあったわよ」

「箱の中に電話があったんだろ? 源じいに聞いた」

牧野が自信ありげに言う姿に、

「源じいだって、その時代は知らないわよ。

知ってても子供時代の話よ」

トリアが笑った。

「長い事この国を見てきたけど、

日和見主義者が多いのよ。

黒谷君みたいな人が増えて行けば、

少しは変わるんだろうけど。

それを求めるのは難しいかもね。

でも、また変動期に入ったから、

よくなるのか悪くなるのか、

私達は見守るだけよ。

だって選ぶのは彼らなんだから」

トリアは道行く人々を見ながら言った。

「そうですね」

向井も頷き、

彼らは空を見上げた。


――――――――


冥界に戻ると安達とチビ達がやってきた。

「お帰り~」

「おやつある? 」

こんがトリア達が下げてる袋を見て、

中をのぞいた。

「お行儀悪いぞ」

アートンが注意すると、

「マキちゃんはいつもやってるぞ」

と牧野を見た。

その言葉に向井達が牧野を振り返る。

「なんだよ。俺のせいかよ。

違うだろ」

「子供は近くにいるものの行いを、

よく見てますからね」

チビ達がじっと牧野を見る姿に、

「うっ、そんな目で見ないで~以後気を付けます」

謝る姿にみんなが笑った。

「安達君は調子はどうですか? 」

今日はリングの取り換えと、

魂メンテの日なので、

医務室で過ごしていた。

「大丈夫。俺、身長少し伸びたんだよ」

嬉しそうに言う姿に、

「よかったじゃん。

安達君は十七歳でストップしてるから、

まだまだ成長期なんだね」

アートンが笑顔で言った。

「死んでから成長してもな~」

「………」

安達がムッとして牧野を睨む。

「あんたは素直じゃないね~」

トリアが牧野の片頬を指でつまんだ。

「痛いんだけど」

「まあ、成長期じゃない牧野は、

もう大きくならないし、嫉妬か? 」

トリアは笑うと、

「今日は甘栗ケーキだよ~

みんなで食べよう」

と歩いていった。

「トリアさんの方が一枚上手ですね」

向井は不貞腐れてる牧野の肩を叩くと、

笑った。
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