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第六部
権力は甘い蜜
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権力に取り憑かれ、
プライドをつぶされることを極端に嫌う大沢は、
いつまでこんなことを繰り返すつもりなのだろう。
向井はこぶしを握ると、
「命ってなんなんでしょうね」
うつむいたままぽつりと言った。
「俺は子供の頃、
命は自然と生まれてくると、
思っていました。
それは赤ん坊が生まれてくる家庭があり、
季節のたびに花が咲き、
道を歩けば鳥や虫もいて、
そんな光景が当たり前のように存在していたので、
命は誰にも平等に訪れるが、
反対に命の大切さや重さの話を、
真剣に考えたことはありませんでした」
冥王たちは黙したまま話を聞いていた。
「十五歳で両親を亡くして、
初めて命は儚くて重いと感じたくらい、
それまでは、
のほほんとした人間だったんです。
命は簡単に生まれないし、
大切なもので大事にしないといけないと、
その時感じました」
向井は一旦口を閉じると考え込み、
再び話し始めた。
「ディッセさんにはお話ししましたけど、
俺を引き取ってくれた伯父夫婦が亡くなった時に、
自分の存在は不幸を呼ぶんじゃないかと、
考えるようになりました。
なので、
あまり人と深くかかわることはせず、
付かず離れずの生活をしてきたんです。
そうしたら、
いつの間にか亡くなってここにいました」
向井はそこで少し笑みを浮かべ、
話を続けた。
「過酷な環境では、
俺と安達君では大きな違いはありますが、
その内にある痛みは似ています。
死んで冥界にきて、俺は人間をやり直しています。
安達君が『ここにいていいのかな』と言った時、
俺も同じことを感じていたので、
冥王が安達君を俺に頼むと言った言葉が、
理解できました」
「向井君………」
冥王が辛そうな顔をした。
「安達君が埋められているのは、
あの団地のどこかなんですね」
向井が聞いた。
「君には少し辛いだろうが、
安達君は二年前の生贄に選出されていました。
ただ、その前に健次郎に殺害され、
そのまま儀式に利用されたんです」
「………ミヒカさんに会った時、
赤姫さんに記憶は消されましたが、
微かですが、
彼女から流れてきた映像を思い出しました。
安達君が殺害された日、
俺は彼が乗せられていた車を見ていました。
そして牧野君も………」
向井はそこで口を閉じてから、
「牧野君が車に轢かれそうになったと言った時、
俺もその時の記憶が甦ってきました」
と言った。
「そのことで向井君達が、
責任を感じることはありませんよ」
冥王が言う。
「君たちは偶々遭遇し、
健次郎は安達君の姿も目にしたと、
思い込んでいたんでしょう。
君達こそ被害者なんですよ。
だから、
そのことで責めを受けることはないんです」
プライドをつぶされることを極端に嫌う大沢は、
いつまでこんなことを繰り返すつもりなのだろう。
向井はこぶしを握ると、
「命ってなんなんでしょうね」
うつむいたままぽつりと言った。
「俺は子供の頃、
命は自然と生まれてくると、
思っていました。
それは赤ん坊が生まれてくる家庭があり、
季節のたびに花が咲き、
道を歩けば鳥や虫もいて、
そんな光景が当たり前のように存在していたので、
命は誰にも平等に訪れるが、
反対に命の大切さや重さの話を、
真剣に考えたことはありませんでした」
冥王たちは黙したまま話を聞いていた。
「十五歳で両親を亡くして、
初めて命は儚くて重いと感じたくらい、
それまでは、
のほほんとした人間だったんです。
命は簡単に生まれないし、
大切なもので大事にしないといけないと、
その時感じました」
向井は一旦口を閉じると考え込み、
再び話し始めた。
「ディッセさんにはお話ししましたけど、
俺を引き取ってくれた伯父夫婦が亡くなった時に、
自分の存在は不幸を呼ぶんじゃないかと、
考えるようになりました。
なので、
あまり人と深くかかわることはせず、
付かず離れずの生活をしてきたんです。
そうしたら、
いつの間にか亡くなってここにいました」
向井はそこで少し笑みを浮かべ、
話を続けた。
「過酷な環境では、
俺と安達君では大きな違いはありますが、
その内にある痛みは似ています。
死んで冥界にきて、俺は人間をやり直しています。
安達君が『ここにいていいのかな』と言った時、
俺も同じことを感じていたので、
冥王が安達君を俺に頼むと言った言葉が、
理解できました」
「向井君………」
冥王が辛そうな顔をした。
「安達君が埋められているのは、
あの団地のどこかなんですね」
向井が聞いた。
「君には少し辛いだろうが、
安達君は二年前の生贄に選出されていました。
ただ、その前に健次郎に殺害され、
そのまま儀式に利用されたんです」
「………ミヒカさんに会った時、
赤姫さんに記憶は消されましたが、
微かですが、
彼女から流れてきた映像を思い出しました。
安達君が殺害された日、
俺は彼が乗せられていた車を見ていました。
そして牧野君も………」
向井はそこで口を閉じてから、
「牧野君が車に轢かれそうになったと言った時、
俺もその時の記憶が甦ってきました」
と言った。
「そのことで向井君達が、
責任を感じることはありませんよ」
冥王が言う。
「君たちは偶々遭遇し、
健次郎は安達君の姿も目にしたと、
思い込んでいたんでしょう。
君達こそ被害者なんですよ。
だから、
そのことで責めを受けることはないんです」
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