上 下
218 / 631
第六部

人柱

しおりを挟む
暫くすると、梅干しを持って戻ってきた。

「これこれ。天上界の梅で漬けた梅干し」

「えっ? こんなのあったの? 」

早紀が驚いて見た。

「去年の梅は凄く良くてね。

冥王が弁財天に呼ばれて取りに行ったの」

「へえ~」

向井も肉厚もあり、美味しそうな梅に驚いた。

「食堂で食べてる肉の梅紫蘇巻きとかは、

これで作ってるんだよ」

「確かに梅の味は濃くて美味しいけど、

そうだったんですね」

佐久間も後ろから覗く。

「みんなが飲んでる梅酒だって、

僕が作ってるんですからね」

「それは有難うございます。

では、せっかくだから、

これで福茶を作りましょう」

向井は自慢げに言うドセを見ながら笑った。

お茶を淹れてテーブルに運ぶと、

皆で蕎麦と恵方巻を食べた。

「それ、美味しい? 」

三鬼がお茶を覗いてから向井を見た。

「う~ん、三鬼達にはまだ早いかな。

飲んでみる? 」

湯呑を渡すと少し口を付け、

何とも言えない顔をした。

大人達が笑うのを見て、

「まずいの? 」

こんが聞く。

「酸っぱい………で、しょっぱい」

「こんと呉葉も飲んでみる? 」

向井が聞くと、二人の横に首を振る姿に、

大人達は笑いながら蕎麦を食べた。



それから数日後――――――――

トリアが急ぐ様子で下界から戻ると、

休憩室にいた向井に、

「ちょっと来て」

と声をかけて冥王室に向かった。

部屋に入ると、

中にはディッセ、アートン、シェデムと、

いつものメンバーがそこにいた。

「みんな揃いましたね」

冥王が言うと、

「実はヴィヴィが、

下界のAI情報を入手しました」

「えっ? 」

トリア以外の者が目を見開いた。

「ヴィヴィはスパイだと言ったでしょ? 」

「でも、反対にこっちの情報も向こうに渡っているのでは? 

とも言ったはずだけど? 」

ディッセが冥王を見た。

「ヴィヴィに君が疑っていると言ったら、

意味ありげにフフッと笑ってました」

「………」

ディッセはムッとした表情をして口をつぐんだ。

「まあ、こちらの情報なんて、

大したことはないです。

下界の者に手出しはできませんからね。

で、ここからは向井君にはキツイ話になります。

君が生活していた世界で行われていたことであり、

安達君に関係していることにもつながります」

冥王はいつになく厳しい表情で向井を見た。

向井はその顔つきに、

自分の考えに間違いがないことを確信した。

「それは儀式についてですよね。

俺も結界について話を聞いた時に、

自分なりに幾つか仮説を立てて調べたんです。

俺の憶説にすぎませんが、

恐らく人柱………ではないですか? 」

冥王の眉がぴくッと動き、

ディッセ達の顔色が変わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独り日和 ―春夏秋冬―

八雲翔
ライト文芸
主人公は櫻野冬という老女。 彼を取り巻く人と犬と猫の日常を書いたストーリーです。 仕事を探す四十代女性。 子供を一人で育てている未亡人。 元ヤクザ。 冬とひょんなことでの出会いから、 繋がる物語です。 春夏秋冬。 数ヶ月の出会いが一生の家族になる。 そんな冬と彼女を取り巻く人たちを見守ってください。 *この物語はフィクションです。 実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。 八雲翔

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

にほいち47

多摩みそ八
ライト文芸
フィクション旅行ライトノベル 女子大生4人がバイクで日本一周するお話です

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

この『異世界転移』は実行できません

霜條
ライト文芸
どこにでもいるサラリーマン、各務堂一司《かがみどうかずあき》。 仕事ばかりの日々から離れる瞬間だけは、元の自分を取り戻すようであった。 半年ぶりに会った友人と飲みに行くと、そいつは怪我をしていた。 話しを聞けば、最近流行りの『異世界転移』に興味があるらしい。 ニュースにもなっている行方不明事件の名だが、そんなことに興味を持つなんて――。 酔って言う話ならよかったのに、本気にしているから俺は友人を止めようとした。 それだけだったはずなんだ。 ※転移しない人の話です。 ※ファンタジー要素ほぼなし。

処理中です...