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第五部

ミヒカ天上界へ

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「姫様はこのような土地をお守りされていて、

よく平気なものだ」

毘沙門天はそういうと、団地をぐるりと見渡した。

「元は自然豊かで美しい土地であった。

人間は自ら穢れの中に身を置きたがる………

おっと、向井にこの話はキツイな」

赤姫は笑うと向井を見た。

「かまいませんよ。

これも俺の業の一つなんでしょう」

向井は静かに笑った。

「姫様も向井君をお気に入りですか。

いいな~冥王は」

赤姫の顔を見て、毘沙門天は片笑んだ。

「向井君はみんなのアイドルなの。

取り合いなんだから、独り占めはダメよ」

トリアは言うと、向井と腕を組んだ。

「そんなことありませんよ。大げさな」

向井はあきれたように言うと、

トリアの手を外して奥へと歩き出した。

「彼奴はほんに鈍い」

赤姫がいい三人は笑った。


奥の小さな土地に入ると、

そこには輝く姫が座っていた。

穢れた土地で光も少ない。

ミヒカは毘沙門天の姿を見ると、

三つ指をついて頭を下げた。

「これは………」

弱々しく光る白蛇の姫に近づくと、

「穢れの中に身を置き過ぎましたね。

おかわいそうに」

毘沙門天はそういうと、

宝棒でミヒカの邪気を払い、

その全身を光で包み込んだ。

周囲が神々しく輝きを放つ。

苦しそうだった姫の表情が穏やかになり、

シャボン玉の中に浮かぶように閉じ込められ、

それはそのまま天上界へと上がっていった。

向井は小さく消えていく姫を見ながら、

頭を下げた。

「ここはいったいどれほどの邪気を、

引き寄せているんだ。

姫様でなければ、この地はすでに死んでいるだろう」

毘沙門天の顔が険しくなった。

「仕方ない。私はこの地の地主神だ。

最後まで見る責任がある。

邪気払いの植樹もさせたが、

不浄の地では育ちも悪く、

負を追い払うだけで精一杯じゃ。

私ですら消えていなくなりたくなるからな」

赤姫もミヒカが消えた土地を睨んだ。

「赤姫さんには本当に、

感謝してもしきれないくらいです。

黒谷君もお母さんのように慕ってますし、

私も頼りにしてます。

赤姫さんがいなくなったら困ります」

向井はそういうと頭を下げた。

「ま、まあ、向井にそのようにされては、

私も嫌とは言えぬ」

赤くなって話す赤姫を見て、

「いいね~姫様はみんなに慕われてさ。

で、黒谷君て? 」

毘沙門天が聞いた。

「この団地に住んでいる人なんだけど、

まあ、赤姫が息子のように可愛がってんのよ」

「ほお~」

トリアの話に毘沙門天が意味ありげに笑った。

「そんな事どうでもいいではないか。

ほれ、長居すると具合が悪くなるぞ。

ミヒカも天上界にいったんであろう。

お前も帰りや」

赤姫が赤くなりながら、

毘沙門天をぞんざいに追いやった。

「酷いなぁ~久しぶりの下界なのに………

とはいえ、私にこの土地はきついですね。

そろそろお暇しますよ」

毘沙門天は向井を見ると、

「今度冥王が来る時には、

君も遊びにおいで。

待ってるからね。絶対だよ」

そういうと瞬時に姿を消した。

「神様って瞬間移動できるんですね」

向井の驚いたような言葉に、

「何をいまさら」

赤姫はあきれたように笑った。
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