『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第四部

吉沢の罪

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特殊災害対策室は、

儀式を知らない議員たちからも、

この団地を使用しないことで、

非難を浴びていた。

不便な立地とは言え、

リノベーションもされているのに、

長い事使用が禁止されているからだ。

大災害から十六年後。

再び地震が多くなり、

国民の不安が大きくなっていた頃、

この団地近辺の土地の調査が始まった。

結界に適した場所を探した後、

時期を見て大きな結界をはる予定だった。

それが健次郎の起こした不始末により、

この団地の奥で、

仮の小さな儀式を執り行わざるを得なくなった。


今考えれば運がよかったのだ。

時同じくして、

大沢の死と地震が静まったことで、

再びの奇跡として大沢の名を、

不動のものとしたのだから。

その後、

団地の使用を許可し、

人も住み始めたが、

今のところ問題はないようだった。


ここはあの団地よりかなり距離はある。

吉沢は駅前の小さな商業施設を見ながら、

結界になりそうな土地を探していた。

団地が使用出来ればそれに越したことはない。

あの場所は儀式に最も適しているからだ。

ただ、あの大災害を超える災害が起きたとしたら………

全国に結界をはることは可能なのか…? 

だとしたら、どれだけの血が必要なのか。

AIに千人程の贄の選出をさせておいた方が、

いいのかもしれない。


この所あの団地の前に行くと、

頭痛と耳鳴りが起こっていた。

吉沢からしてみれば、

自分のこの行いが祟りとして、

跳ね返ってきているように感じてならなかった。

新たに選んだ場所にも、

入れなくなっている今、

第二、第三と、

結界場所を選出しておかなければならない。


あの佐々木もやっと死んでくれた。

あいつのおぞましい趣味の為に、

部屋を用意し、

子供をさらい、

死体の始末もしてきた。

一体、何人の子供を犠牲にしたのか。

自分はこの手で………ゴミを捨てるように、

人を殺めてきた。

大沢家を守るために………

いつからこうなってしまったんだ。

どこで選択を誤ってしまったんだ。

国民が暮らしやすい国を、

目指していたはずなのに………


吉沢は立ち止まると空を見上げた。

国のトップも役に立たない。

自分たちの不祥事の後始末の為に、

今や特殊災害対策室は国の要になっていた。

吉沢がため息をつき歩き出すと、

道路を挟んだ向かい側にあの青年の姿を見た。

まさか………始末したはず………

吉沢は驚いて再度その場所に目をやった。

だが、青年の姿はもうなかった。

そういえば二年前………

『……俺は今日奴を見たんだ』

健次郎が言った言葉を思い出していた。

幽霊………それとも本当に生きていた………?

吉沢は首を大きく左右に振った。

そんなはずはない。確かに殺した。

今でもあのナイフを突き刺した感触に、

うなされることがあるんだ………

吉沢は青ざめた表情で、

その場所に立ち止まっていた。


冥界に戻ると冥王はお土産をもらって、

ご機嫌で牧野達と話をしていた。

向井達が休憩室に入っていくと、

「お帰りなさい。大盛況だったって聞きましたよ」

「俺のミニチュアも全部売れたの~

冥王のも売れたよ」

「そうですか。

私も売れなかったらどうしようって、

ドキドキで元秀さんと、

お茶飲みながら話してたんです」

「また、邪魔したんですか」

向井の言葉に冥王がハッとなって、

口を両手で押えた。

「休憩中だったんですから、

いいんですよ~」

「あっ、これお土産です。

もうイベントの時間が終わりに近づいてたんで、

ここのショップさんがおまけしてくれて、

こっちは焼き鳥で、

こっちはカレーパン専門店のパンです。

凄く種類があるのに驚いちゃいました」

ティンはそういうと袋をテーブルに置いた。

「おお~いい匂い」

牧野はそういうと袋の中を覗いた。

「ティンが来ると、みんなおまけしてくれるの」

安達が自慢するように言った。

「さすがイケメンは違うね~」

エナトも笑うと、パンを選んで取った。

「チビ達、もうぐっすり~

嬉しかったんだね。

お人形抱えて寝てるよ」

トリアが笑いながら入ってくると、鼻を動かした。

「廊下から匂ってるんだけど、カレー? 」

「色んな種類があるから、楽しいですよ。

珈琲淹れましょうか」

弥生はそういうとキッチンに歩いて行った。

「俺も手伝いますよ」

向井が言ったところで、ぞろぞろ人数が増えてきた。

「カレーの匂いにつられてきちゃった」

「私の分もあるかな」

ディッセや源じいもやってくると、

袋を見つけ楽しそうに近づいた。

「カレーって食欲そそるよね~」

アートンとオクトも入ってきて、

休憩室が賑やかになり、

その様子を冥王が満足げに眺めていた。

「珈琲淹れましたよ」

弥生がトレイに乗せてテーブルに置くと、

安達は室内をじ~っと見ながら、

ぽつりと言った。

「俺もここにいていいんだよね」

安達の言葉に、

「当たり前だろ」

牧野はそういうと、安達の頭をはたいた。

そんな二人の姿を、周りは微笑ましく見守っていた。

「向井さんが言った牧野君と安達君が、

二人で一つってなんかわかった気がする」

新田は部屋に入ってくると向井の横に立ち、

頷きながら言った。
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