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第四部
裏結界
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その夜―――
向井は冥王室にいた。
「今日、
虎獅狼達が追われたという土地を見てきましたが、
神の姿が祠から消えていました。
以前結界の話をされましたけど、
この土地と不浄の地と言われる黒谷君達が住む団地には、
何かつながりがあるんでしょうか」
「なんでそう思う? 」
向井の問いにいつになく真剣な顔で冥王が聞き返した。
「俺が質問をしているんですが? 」
その言葉に冥王は長い事黙っていたが、
静かに口を開いた。
「陰陽師の五芒星はこの国の要だという事は、
君も知っているでしょう。
大事な場所には必ず結界が存在します。
五芒星は魔除けとされていますが、
反対に悪魔であるとも言われています」
冥王が黙って考えを巡らしている様子を、
向井は口をはさまずに見ていた。
「大沢が行っていることは、
この国の裏結界。
すなわち悪魔の所業です」
「悪魔………」
「今起きていることは、
それが行き過ぎたことで、
不浄が噴き出し収められなくなっているんです。
自分たちの欲を満たすために繰り返す結界は、
大悪の何ものでもありません。」
「つまり、あの場所は裏結界という事でしょうか」
「そうです。
古代の記述は残っていますが、
その後は徐々に無くなり、
戦後大沢家が復活させ、
この国を立て直した経緯があります。
恐らく中央の裏結界が原因で、
全国に広がってしまったんでしょう」
冥王は昔話をするように、
遠くを見つめる表情をした。
「何十年も前に、
世界中でウィルスが蔓延したことがありました。
大災害が起こる前のことです。
そのウィルス戦争と呼ばれた歴史は、
十年以上続き、
人間は次から次へと現れる未知のウィルスと、
闘ってきました」
冥王は背もたれに寄りかかると、
椅子を左右に動かした。
「丁度この国が世界一の高齢社会で、
世界中の人達が、
ウィルスで助かっても、
いずれは死滅する国と言われていた時代です。
漁業権もあり、領土を増やすために、
こんな資源もない小さな島国を、
狙っているものがいました。
それは今も変わりませんが、
このまま灼熱化が進めば、
金と権力の小競り合いで、
いずれは自然消滅するでしょう。
地球が無くなるわけですからね。
もうすぐ三四半世紀。
二十二世紀はすぐそこまで来ています。
テクノロジーの時代でも、
人々の生活はそれほど変わらない。
しかもこの世界が破壊されれば終わりです。
人はそれにも気づかない。
面白い生き物ですよね」
複雑な顔をする向井に、
冥王は小さく笑った。
「そんな時大沢が考えたのが、
子供が増えないのなら
邪魔な人間を排除して人口密度を調節しよう。
老人が罹患すれば助からないウィルス株を開発しました。
もちろん自分達のワクチンは確保の上で。
これは他国への布石の一つにもなり、
金も生みます」
「身分制度が出来たのには、
それも関係があるのですか? 」
向井が驚きの声を出した。
向井は冥王室にいた。
「今日、
虎獅狼達が追われたという土地を見てきましたが、
神の姿が祠から消えていました。
以前結界の話をされましたけど、
この土地と不浄の地と言われる黒谷君達が住む団地には、
何かつながりがあるんでしょうか」
「なんでそう思う? 」
向井の問いにいつになく真剣な顔で冥王が聞き返した。
「俺が質問をしているんですが? 」
その言葉に冥王は長い事黙っていたが、
静かに口を開いた。
「陰陽師の五芒星はこの国の要だという事は、
君も知っているでしょう。
大事な場所には必ず結界が存在します。
五芒星は魔除けとされていますが、
反対に悪魔であるとも言われています」
冥王が黙って考えを巡らしている様子を、
向井は口をはさまずに見ていた。
「大沢が行っていることは、
この国の裏結界。
すなわち悪魔の所業です」
「悪魔………」
「今起きていることは、
それが行き過ぎたことで、
不浄が噴き出し収められなくなっているんです。
自分たちの欲を満たすために繰り返す結界は、
大悪の何ものでもありません。」
「つまり、あの場所は裏結界という事でしょうか」
「そうです。
古代の記述は残っていますが、
その後は徐々に無くなり、
戦後大沢家が復活させ、
この国を立て直した経緯があります。
恐らく中央の裏結界が原因で、
全国に広がってしまったんでしょう」
冥王は昔話をするように、
遠くを見つめる表情をした。
「何十年も前に、
世界中でウィルスが蔓延したことがありました。
大災害が起こる前のことです。
そのウィルス戦争と呼ばれた歴史は、
十年以上続き、
人間は次から次へと現れる未知のウィルスと、
闘ってきました」
冥王は背もたれに寄りかかると、
椅子を左右に動かした。
「丁度この国が世界一の高齢社会で、
世界中の人達が、
ウィルスで助かっても、
いずれは死滅する国と言われていた時代です。
漁業権もあり、領土を増やすために、
こんな資源もない小さな島国を、
狙っているものがいました。
それは今も変わりませんが、
このまま灼熱化が進めば、
金と権力の小競り合いで、
いずれは自然消滅するでしょう。
地球が無くなるわけですからね。
もうすぐ三四半世紀。
二十二世紀はすぐそこまで来ています。
テクノロジーの時代でも、
人々の生活はそれほど変わらない。
しかもこの世界が破壊されれば終わりです。
人はそれにも気づかない。
面白い生き物ですよね」
複雑な顔をする向井に、
冥王は小さく笑った。
「そんな時大沢が考えたのが、
子供が増えないのなら
邪魔な人間を排除して人口密度を調節しよう。
老人が罹患すれば助からないウィルス株を開発しました。
もちろん自分達のワクチンは確保の上で。
これは他国への布石の一つにもなり、
金も生みます」
「身分制度が出来たのには、
それも関係があるのですか? 」
向井が驚きの声を出した。
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