上 下
131 / 631
第四部

裏結界

しおりを挟む
その夜―――

向井は冥王室にいた。

「今日、

虎獅狼達が追われたという土地を見てきましたが、

神の姿が祠から消えていました。

以前結界の話をされましたけど、

この土地と不浄の地と言われる黒谷君達が住む団地には、

何かつながりがあるんでしょうか」

「なんでそう思う? 」

向井の問いにいつになく真剣な顔で冥王が聞き返した。

「俺が質問をしているんですが? 」

その言葉に冥王は長い事黙っていたが、

静かに口を開いた。

「陰陽師の五芒星はこの国の要だという事は、

君も知っているでしょう。

大事な場所には必ず結界が存在します。

五芒星は魔除けとされていますが、

反対に悪魔であるとも言われています」

冥王が黙って考えを巡らしている様子を、

向井は口をはさまずに見ていた。

「大沢が行っていることは、

この国の裏結界。

すなわち悪魔の所業です」

「悪魔………」

「今起きていることは、

それが行き過ぎたことで、

不浄が噴き出し収められなくなっているんです。

自分たちの欲を満たすために繰り返す結界は、

大悪の何ものでもありません。」

「つまり、あの場所は裏結界という事でしょうか」

「そうです。

古代の記述は残っていますが、

その後は徐々に無くなり、

戦後大沢家が復活させ、

この国を立て直した経緯があります。

恐らく中央の裏結界が原因で、

全国に広がってしまったんでしょう」

冥王は昔話をするように、

遠くを見つめる表情をした。

「何十年も前に、

世界中でウィルスが蔓延したことがありました。

大災害が起こる前のことです。

そのウィルス戦争と呼ばれた歴史は、

十年以上続き、

人間は次から次へと現れる未知のウィルスと、

闘ってきました」

冥王は背もたれに寄りかかると、

椅子を左右に動かした。

「丁度この国が世界一の高齢社会で、

世界中の人達が、

ウィルスで助かっても、

いずれは死滅する国と言われていた時代です。

漁業権もあり、領土を増やすために、

こんな資源もない小さな島国を、

狙っているものがいました。

それは今も変わりませんが、

このまま灼熱化が進めば、

金と権力の小競り合いで、

いずれは自然消滅するでしょう。

地球が無くなるわけですからね。

もうすぐ三四半世紀七十五年

二十二世紀はすぐそこまで来ています。

テクノロジーの時代でも、

人々の生活はそれほど変わらない。

しかもこの世界が破壊されれば終わりです。

人はそれにも気づかない。

面白い生き物ですよね」

複雑な顔をする向井に、

冥王は小さく笑った。

「そんな時大沢が考えたのが、

子供が増えないのなら

邪魔な人間を排除して人口密度を調節しよう。

老人が罹患すれば助からないウィルス株を開発しました。

もちろん自分達のワクチンは確保の上で。

これは他国への布石の一つにもなり、

金も生みます」

「身分制度が出来たのには、

それも関係があるのですか? 」

向井が驚きの声を出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独り日和 ―春夏秋冬―

八雲翔
ライト文芸
主人公は櫻野冬という老女。 彼を取り巻く人と犬と猫の日常を書いたストーリーです。 仕事を探す四十代女性。 子供を一人で育てている未亡人。 元ヤクザ。 冬とひょんなことでの出会いから、 繋がる物語です。 春夏秋冬。 数ヶ月の出会いが一生の家族になる。 そんな冬と彼女を取り巻く人たちを見守ってください。 *この物語はフィクションです。 実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。 八雲翔

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

にほいち47

多摩みそ八
ライト文芸
フィクション旅行ライトノベル 女子大生4人がバイクで日本一周するお話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~

草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。 欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。 それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。

処理中です...