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第三部

キッチンカー開店

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それからしばらくして、

黒谷は無事キッチンカーを開店。

向井は早速様子を見に出かけた。

「結構、繁盛してますね」

場所を選んで販売を始めたからか、

それなりに客がやってきては、

お弁当を購入していく。

玲子ばぁも八十近いとは思えぬ動きで、

手際よくお客と話しながら手渡ししていた。

「玲子さんもプロですね」

向井が言うと、

「翔太のおかげで生き甲斐が出来たよ」

満面の笑みを浮かべながら振り返った。



オープン前日―――

「フライヤー出来上がったって聞いたので、

少しお手伝いしますよ」

向井が黒谷の部屋を訪れた時に、

そこにいた玲子を見て挨拶をした。

「初めまして。黒谷君の友人の向井です」

「あんた、こんないい男の友達がいたのか? 」

玲子は驚いたように言った。

「俺には見目麗しいお友達が多いんだよ」

「ほぉ~あたしは鈴野玲子だ。

この子、翔太は、

あたしにとっては孫みたいなもんだね。

孫と一緒に仕事できるなんて、

こんなうれしいことないじゃないか」

「玲子ばぁは無理しない程度に、

手伝ってくれればいいから」

「なにいってんの。

バイト代分はきちんと働くよ」

「張りきってますね。

でも、黒谷君が言うように、

倒れないようにしてくださいね」

向井もそういうと、

フライヤーを受け取った。

「うちのものにもお願いしたので配っておきますね」

「助かる~一応、HPも作ったし、

SNSで宣伝もかけたけど、

心配なんだよね~

リサーチで試食もしたし、

出来上がりには自信があるんだけど、

知名度がないから。

調理場代もあるしね」

「何言ってんの。やれるだけやったんだ。

あとは味で勝負すればいい」

玲子は黒谷を勇気づけるように背中を叩いた。

向井はそんな二人の様子に安心して、

「じゃあ、フライヤー頂いていきますね」

と部屋を出ていった。



黒谷から聞いた話だと玲子は若い頃に夫と死別。

まだ小さかった一人息子を抱え、

パートと内職で家計を支えてきたという。

「玲子ばぁは大災害の時に一人息子も亡くして、

住んでた家も追い出されたって言ってた。

俺が最初に越した団地の隣に住んでて、

それから仲良くなったから………

もう、六年くらいの付き合いかぁ~

俺にとってはばあちゃんだね」

黒谷はそういって笑った。



そんな事を思い出していたら、

「へえ~この人が黒谷? 」

牧野がじっと見た。

「あ………もしかして、この子が牧野君? 」

黒谷が金髪で見た目のチャラい青年を見て、

向井に尋ねるような視線を向けた。

「俺の印象って………」

牧野の全身を見ながら、

「これ………なのか………はぁ~」

黒谷は大きくため息をついた。

「な、なんだよ! 俺の方がダメージ大きいよ。

トリアにそっくりだって言われたから会いに来たら、

オヤジじゃん」

「オヤジじゃなくて、そこはお兄さんね。

牧野君は口が悪いね」

黒谷はしかめっ面をした。

「向井さんも何とか言ってよ」

「向井はこいつの味方をするのか? 」

向井は両腕を組みながら、

笑いをこらえる表情を見せた。

「見た目じゃなくてね。その………雰囲気なのか、

言うことやることがね。

見てると君らはそっくりだなって」

「似てねぇ!! 」

同時に言う返しに、

向井は笑いを抑えきれずに噴き出した。

「今日は予約しておいたお弁当を取りに来たんで、

それで許してくれないかな? 」

向井はそういうとお金を渡した。

「これ、葉っぱにならないよね」

「なるわけないだろう。だったら返せ!! 」

二人の言い合いをやれやれという様子で見ながら、

向井は弁当を受け取った。
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