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第三部

龍神

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「この弁当をワシにくれるのか? 」

地主神は黒谷を見ると聞いた。

「赤姫さんにも喜んでもらえたお弁当なんで、

おすそ分けしたくて、

これは俺の自信作なんです」

「おぬし、あの赤姫の知り合いか?  

神が見える人間には、

会ったことがないと思っていたが、

あの姫様と旧友とは恐れ入ったわ」

地主神はそういうと、

驚き入る様子で黒谷を見た。

「実はですね。

このお弁当を販売したいんですけど、

この辺て商売に向いてる土地ですか? 

神様がいるところは悪霊少ないから、

俺としては大歓迎なんだけど、

せっかくの赤姫折詰売れないと、

寂しいでしょ」

「そうさなぁ~この辺りは、

地蔵菩薩が多く祀られておるが、

そのあたりは地縛霊もうろついておるから、

おぬしのような魂のものは、

あまり近寄らないほうがいいな。

ワシのいるこの近辺なら、

どす黒い奴らはいないからおぬしも安全だ」

「そっか」

「車で売るのか? 

なら、

移動販売が交互にきて販売しておるぞ」

「どんなものを売っているか分かります? 」

「わしも長い事ここにいるが、

食べ物も大分変ってきたな。

カレーとか揚げ物が多いのではないか? 

オフィスビルも増えたんでな、

場所を移動する妖怪もおる。

わしも息苦しくなってきた」

「みんな住処を追われちゃうんですね。

俺と同じだ」

「おぬしは根無し草か? 」

「似たようなもんだよ。

やっと部屋を見つけても、

すぐに追い出されちゃうのよ」

「そりゃ大変だ」

「でしょ。だからキッチンカーでも始めようかと、

お金を貯めてるんです」

「そうか。ここは競争率が激しいから、

やはりランチは激戦区じゃぞ。

弁当も多いんじゃないか? 」

その話に黒谷は腕を組むと唸った。

「う~~ん、差別化図りたくて、

赤姫折詰弁当はちょっと高いんだよね~

一応、定価の安い日替わり弁当も置いて、

赤姫は限定個数の販売にするつもりなんだけど、

難しいかなぁ~」

黒谷が考え込む姿に、

「おっ、この弁当は美しいの~」

地主神は折詰を開けて笑顔になった。

「季節の総菜に和菓子まで。

食は命なり」

「? 」

黒谷が首をかしげると、

「命というものは食によって生かされるもの。

季節の恵みに感謝し、

その源を体に取り入れることで、

おぬしが作られているのだぞ。

この折詰はよく考えられておる。

彩りも鮮やかで楽しくなるな。

人間の価値観は個々で違いはあるが、

おぬしに共感するものがいないとも限らん」

地主神は優しく笑った。

「物は試し………当たって砕けろか…」

「ふぉっふぉっふぉ」

地主神は愉快そうに笑うと、

「弁当の礼に一つ教えてやろう。

おぬしは見た所は問題なさそうだが、

向こう側とその奥には悪霊が出るぞ」

「そうなの? 」

「気を付けなされ。

ごちになった。また遊びにおいで」

地主神はそれだけ言って姿を消した。
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