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第十八部

冥王初めての

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その頃下界では―――――

「なんですか。ここは」

「なんですかって、

ここがあなた様の守っている国ですよ」

バトは冥王と中央に降り立つと言った。

「ここは地獄ですか? 」

冥王は顔を顰めるとバトを見た。

空は暗闇に近く、空気も濁り、

人々は負の感情で溢れている。

「欲望が渦巻き不満が溜まれば、

天界だって変わりはしないでしょう」

バトが笑った。

「似て非なるもの。同じに見えても、

冥界と下界では穢れの質が違いますよ。

うちのものにも不満はあれど、

穢れてはいません」

冥王は嘆かわしそうに道行く人間達を眺めた。

「私は統括担当をしておりますから、

いつも下界の様子は見ております。

龍之介様と比べたら免疫がありますので、

この景色にも馴染めますが、

あなた様にはきついでしょう」

バトは人間達を眺めながら、

薄曇りの空を見上げた。

これでも除去して綺麗になったほうなのだろう。

バトは愕然とする冥王に、

「あなた様の部下である向井様達は、

この中を毎日のように除去しているのですよ。

冥王と言えど、感謝をしなくてはいけませんね」

と言った。

子供の頃よりお世話をしてきたので、

ショックを受けている龍之介に笑った。

竜之介様に比べて優しすぎる。

人間であったなら、

真っ先に世間から淘汰される類だろう。

神様であることにバトは感謝した。

「ここは下界でも、

最も激しい地域なのでしょうね。

龍之介様がいてもどうすることもできませんし、

せっかく許可を頂いて、

竜之介様が冥界で代わりを務めているんです。

初めての下界です。

やりたいことがあるんでしょう? 」

その言葉に冥王はパッと笑顔になると、

「そうでした。

私はファミレスを経験したいです。

あとは………ガチャです。

映画も見たいし、本屋にも入ってみたいです。

お洋服もみて、ケーキ屋さんに行って、

メンズエステして~」

と楽しそうに話す姿に、

「半日で全部は無理ですよ」

バトがあきれて笑った。

「なんと。では映画! 

ゾンビ少年はどこかで、

再上映されていませんか? 

見たいです」

バトは子供のようにはしゃぐ冥王に、

向井様達には申し訳ないと思い、

冥界に顔を向け心の中で頭を下げた。



エナトはヴァン達と除去をしに、

中央の黒地を歩いていて、

「あれ? 冥王? 」

と交差点に立つ姿に足が止まった。

カジュアルなスタンドカラーのジャケットに、

デニム姿の男性がもう一人の連れと、

楽しそうに歩いて行く。

「えっ? 冥王が下界にいるわけないでしょ」

エハがいい、エナトが見ている方向を見た。

「どこ? いないじゃん」

ヴァンも交差点を見ながら言った。

「あれ? 見間違いかな? 

確かに下界には降りられないもんな」

エナトも首を傾げると、頭を軽く掻いた。
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