589 / 631
第十七部
河原の人生 ―その1―
しおりを挟む
河原が少しずつ元気を取り戻し始め、
今のような状態になるのに半年ほどかかった。
向井にも書きたいものがあるから、
派遣登録してくれと願い出たのも、
その頃だった。
向井は少女小説というものに無縁だったこともあり、
図書室で初めて河原の作品を手に取った。
サスペンスあり、恋愛あり、
バラエティ豊かな内容が多く、
冥界で死神達が夢中になっているのが、
向井も読むことで理解が出来た。
河原の作品数の多さに調べてみると、
作家になって二十年とあり、
向井も驚いてそのことを河原に尋ねた。
すると、
「そりゃそうだよ。私がデビューしたのって、
小学生の時だもん」
「えっ? そうなんですか? 」
向井が驚愕していると河原が笑った。
「私はさ、あの大災害の時に親を亡くして、
孤児になったの。
住んでたのが………中央の下区で、
だから貧民街出身なのよ。
両親と私は瓦礫の下からレスキューに助けられて、
近くの学校の校庭に建てられた医療テントに運ばれて、
そのあとは記憶は朦朧として覚えてないんだ。
気が付いた時には両親は死んだって言われて、
孤児になってた」
河原は思い出すように話した。
「知ってた?
災害のあとの孤児も中央の上区が優先で、
下区は後回しで潰れなかったビルに押し込まれてさ。
その時に、
救助された人が支払う保険料は、
国からおりる補助金? から、
差し引かれた残金分を支払いしろって、
言われた。
子供の場合は借金になるから、
十六歳の成人から残金分を払えって。
私達は下区の孤児だから、
施設も決められたところになるって、
役所の人に言われたの。
で、一緒にいた家族子宝の会の役員と大臣が、
何か話してたんだよね。
それが何か嫌な………危険な? 感じがして、
そこから逃げ出したの」
「河原さんは幾つだったんですか? 」
向井が驚いて聞いた。
「ん~十か十一かなぁ。とにかく逃げなきゃって、
それだけしか考えてなかった」
河原は気にするでもなく笑った。
「で、逃げてた時に小さな教会見つけて、
そこでシスターに会ったの。
教会でお手伝いする代わりに置いてもらった。
貧民街出身だから、
ヤバいニオイを嗅ぎつけるのは得意なんだ」
向井は声も出せずに聞いていた。
「別に虐待はされてないよ。
だけどさ。凄くボロくて貧乏なの。
私みたいな孤児も三人位いたかな?
雨漏りするし、ボランティアの人が、
色々持ってきてくれるんだけど、
洋服は破けてたり、ご飯も賞味期限切れだったり、
シスターがうちはゴミ捨て場じゃないのにって、
文句言ってた。
でもそれを言うとSNSで標的にされちゃうから、
有難うございますっていつもお礼言ってた」
河原が片笑んだ。
「それから大沢帝国が出来て、
小学校が再開したけど、
そんな状態だから通えないし、
行けばいじめられるの分かってたから、
図書館にいることが多くなった。
私にとって良かったのは、
中学まで無償化になったでしょう。
図書館も無料で読めてタブレットも使えた事」
「学校行かないで、図書館で小説書いてたんですか? 」
向井が聞いた。
今のような状態になるのに半年ほどかかった。
向井にも書きたいものがあるから、
派遣登録してくれと願い出たのも、
その頃だった。
向井は少女小説というものに無縁だったこともあり、
図書室で初めて河原の作品を手に取った。
サスペンスあり、恋愛あり、
バラエティ豊かな内容が多く、
冥界で死神達が夢中になっているのが、
向井も読むことで理解が出来た。
河原の作品数の多さに調べてみると、
作家になって二十年とあり、
向井も驚いてそのことを河原に尋ねた。
すると、
「そりゃそうだよ。私がデビューしたのって、
小学生の時だもん」
「えっ? そうなんですか? 」
向井が驚愕していると河原が笑った。
「私はさ、あの大災害の時に親を亡くして、
孤児になったの。
住んでたのが………中央の下区で、
だから貧民街出身なのよ。
両親と私は瓦礫の下からレスキューに助けられて、
近くの学校の校庭に建てられた医療テントに運ばれて、
そのあとは記憶は朦朧として覚えてないんだ。
気が付いた時には両親は死んだって言われて、
孤児になってた」
河原は思い出すように話した。
「知ってた?
災害のあとの孤児も中央の上区が優先で、
下区は後回しで潰れなかったビルに押し込まれてさ。
その時に、
救助された人が支払う保険料は、
国からおりる補助金? から、
差し引かれた残金分を支払いしろって、
言われた。
子供の場合は借金になるから、
十六歳の成人から残金分を払えって。
私達は下区の孤児だから、
施設も決められたところになるって、
役所の人に言われたの。
で、一緒にいた家族子宝の会の役員と大臣が、
何か話してたんだよね。
それが何か嫌な………危険な? 感じがして、
そこから逃げ出したの」
「河原さんは幾つだったんですか? 」
向井が驚いて聞いた。
「ん~十か十一かなぁ。とにかく逃げなきゃって、
それだけしか考えてなかった」
河原は気にするでもなく笑った。
「で、逃げてた時に小さな教会見つけて、
そこでシスターに会ったの。
教会でお手伝いする代わりに置いてもらった。
貧民街出身だから、
ヤバいニオイを嗅ぎつけるのは得意なんだ」
向井は声も出せずに聞いていた。
「別に虐待はされてないよ。
だけどさ。凄くボロくて貧乏なの。
私みたいな孤児も三人位いたかな?
雨漏りするし、ボランティアの人が、
色々持ってきてくれるんだけど、
洋服は破けてたり、ご飯も賞味期限切れだったり、
シスターがうちはゴミ捨て場じゃないのにって、
文句言ってた。
でもそれを言うとSNSで標的にされちゃうから、
有難うございますっていつもお礼言ってた」
河原が片笑んだ。
「それから大沢帝国が出来て、
小学校が再開したけど、
そんな状態だから通えないし、
行けばいじめられるの分かってたから、
図書館にいることが多くなった。
私にとって良かったのは、
中学まで無償化になったでしょう。
図書館も無料で読めてタブレットも使えた事」
「学校行かないで、図書館で小説書いてたんですか? 」
向井が聞いた。
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話
六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。
兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。
リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。
三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、
「なんだ。帰ってきたんだ」
と、嫌悪な様子で接するのだった。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる