『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第十七部

河原の人生 ―その1―

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河原が少しずつ元気を取り戻し始め、

今のような状態になるのに半年ほどかかった。

向井にも書きたいものがあるから、

派遣登録してくれと願い出たのも、

その頃だった。

向井は少女小説というものに無縁だったこともあり、

図書室で初めて河原の作品を手に取った。

サスペンスあり、恋愛あり、

バラエティ豊かな内容が多く、

冥界で死神達が夢中になっているのが、

向井も読むことで理解が出来た。

河原の作品数の多さに調べてみると、

作家になって二十年とあり、

向井も驚いてそのことを河原に尋ねた。

すると、

「そりゃそうだよ。私がデビューしたのって、

小学生の時だもん」

「えっ? そうなんですか? 」

向井が驚愕していると河原が笑った。

「私はさ、あの大災害の時に親を亡くして、

孤児になったの。

住んでたのが………中央の下区で、

だから貧民街出身なのよ。

両親と私は瓦礫の下からレスキューに助けられて、

近くの学校の校庭に建てられた医療テントに運ばれて、

そのあとは記憶は朦朧として覚えてないんだ。

気が付いた時には両親は死んだって言われて、

孤児になってた」

河原は思い出すように話した。

「知ってた? 

災害のあとの孤児も中央の上区が優先で、

下区は後回しで潰れなかったビルに押し込まれてさ。

その時に、

救助された人が支払う保険料は、

国からおりる補助金? から、

差し引かれた残金分を支払いしろって、

言われた。

子供の場合は借金になるから、

十六歳の成人から残金分を払えって。

私達は下区の孤児だから、

施設も決められたところになるって、

役所の人に言われたの。

で、一緒にいた家族子宝の会の役員と大臣が、

何か話してたんだよね。

それが何か嫌な………危険な? 感じがして、

そこから逃げ出したの」

「河原さんは幾つだったんですか? 」

向井が驚いて聞いた。

「ん~十か十一かなぁ。とにかく逃げなきゃって、

それだけしか考えてなかった」

河原は気にするでもなく笑った。

「で、逃げてた時に小さな教会見つけて、

そこでシスターに会ったの。

教会でお手伝いする代わりに置いてもらった。

貧民街出身だから、

ヤバいニオイを嗅ぎつけるのは得意なんだ」

向井は声も出せずに聞いていた。

「別に虐待はされてないよ。

だけどさ。凄くボロくて貧乏なの。

私みたいな孤児も三人位いたかな? 

雨漏りするし、ボランティアの人が、

色々持ってきてくれるんだけど、

洋服は破けてたり、ご飯も賞味期限切れだったり、

シスターがうちはゴミ捨て場じゃないのにって、

文句言ってた。

でもそれを言うとSNSで標的にされちゃうから、

有難うございますっていつもお礼言ってた」

河原が片笑んだ。

「それから大沢帝国が出来て、

小学校が再開したけど、

そんな状態だから通えないし、

行けばいじめられるの分かってたから、

図書館にいることが多くなった。

私にとって良かったのは、

中学まで無償化になったでしょう。

図書館も無料で読めてタブレットも使えた事」

「学校行かないで、図書館で小説書いてたんですか? 」

向井が聞いた。
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