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第十七部
河原の派遣登録
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向井は河原が、
派遣登録した時のことを思い出していた。
河原もまた、
下界では大沢帝国の犠牲者の一人、
といえるのかもしれない。
冥王が河原に寛大なのも、
安達の事と同じように思っているからなのだろう。
向井が冥界に慣れてきた頃、
河原はサロンに上がってきた。
冥王が向井を呼び止め、
「先程サロンに、
河原希江という女性が上がってきたと思うんだが」
というのでタブレットで確認した。
「あぁ、上がってますね。
彼女は何かあるんですか? 」
「ん………一応、派遣登録しといてください」
「えっ? 本人に確認しないでいいんですか? 」
向井が驚いて聞くと、
「彼女に関しては………仮ということで」
「はぁ、別に構いませんけど、
彼女に話はしますよ」
「それはかまいません」
今なら、
向井も冥王の気持ちが理解できるが、
あの時は不思議だった。
向井がサロンに入り河原を探すと、
椅子に座ってぼんやりする姿を見つけた。
医療ミスで亡くなっているので、
心残りも多いだろう。
向井が声をかけると彼女が顔をあげた。
三十歳という年齢より若く見える。
「え…と、河原希江さんですね」
「はい………」
ぼうっとした表情のまま、河原は返事を返した。
「俺は冥界で派遣課を担当している向井と言います」
「冥界………という事は、やっぱり私………
死んでるんだよね。
ここって天国? 地獄? 」
河原が振り向いた。
「天国でも地獄でもありません。
ただの死後の世界です」
向井の説明にも上の空で頷いていた。
「河原さんは小説家さんですよね」
その言葉に初めて顔つきが変わって、
椅子から立ち上がった。
「そうだ! 連載の途中………あ………
でも死んじゃったんだ………
プロット出来上がってなかったし…
別にもういいか………」
河原は再び表情をなくすと、
椅子にストンと腰を下ろした。
そしてサロンを見回し、
「ここにいる人って、みんな死んでるの?
なんか楽しそう………」
と笑った。
このサロンに来る霊は問題のないものばかりなので、
病気や事故からの痛みから解放されたものは、
皆ホッとしていて穏やかに見えるのだろう。
河原はそれからしばらくして、
作品を書き始めた。
向井が図書室をのぞいていると、
「河原は小説を書き始めましたか」
冥王が横に立ちホッとしたように言った。
「冥王は河原さんが気になっているようですが、
何かあるんですか? 」
「ん………彼女は災害孤児なんですけど、
事情が少し………」
冥王はそこまで言って口を閉じた。
言いたくないのか、
説明しにくいのか、
冥王はそのあとも何も話さないまま、
休憩室に移動していった。
派遣登録した時のことを思い出していた。
河原もまた、
下界では大沢帝国の犠牲者の一人、
といえるのかもしれない。
冥王が河原に寛大なのも、
安達の事と同じように思っているからなのだろう。
向井が冥界に慣れてきた頃、
河原はサロンに上がってきた。
冥王が向井を呼び止め、
「先程サロンに、
河原希江という女性が上がってきたと思うんだが」
というのでタブレットで確認した。
「あぁ、上がってますね。
彼女は何かあるんですか? 」
「ん………一応、派遣登録しといてください」
「えっ? 本人に確認しないでいいんですか? 」
向井が驚いて聞くと、
「彼女に関しては………仮ということで」
「はぁ、別に構いませんけど、
彼女に話はしますよ」
「それはかまいません」
今なら、
向井も冥王の気持ちが理解できるが、
あの時は不思議だった。
向井がサロンに入り河原を探すと、
椅子に座ってぼんやりする姿を見つけた。
医療ミスで亡くなっているので、
心残りも多いだろう。
向井が声をかけると彼女が顔をあげた。
三十歳という年齢より若く見える。
「え…と、河原希江さんですね」
「はい………」
ぼうっとした表情のまま、河原は返事を返した。
「俺は冥界で派遣課を担当している向井と言います」
「冥界………という事は、やっぱり私………
死んでるんだよね。
ここって天国? 地獄? 」
河原が振り向いた。
「天国でも地獄でもありません。
ただの死後の世界です」
向井の説明にも上の空で頷いていた。
「河原さんは小説家さんですよね」
その言葉に初めて顔つきが変わって、
椅子から立ち上がった。
「そうだ! 連載の途中………あ………
でも死んじゃったんだ………
プロット出来上がってなかったし…
別にもういいか………」
河原は再び表情をなくすと、
椅子にストンと腰を下ろした。
そしてサロンを見回し、
「ここにいる人って、みんな死んでるの?
なんか楽しそう………」
と笑った。
このサロンに来る霊は問題のないものばかりなので、
病気や事故からの痛みから解放されたものは、
皆ホッとしていて穏やかに見えるのだろう。
河原はそれからしばらくして、
作品を書き始めた。
向井が図書室をのぞいていると、
「河原は小説を書き始めましたか」
冥王が横に立ちホッとしたように言った。
「冥王は河原さんが気になっているようですが、
何かあるんですか? 」
「ん………彼女は災害孤児なんですけど、
事情が少し………」
冥王はそこまで言って口を閉じた。
言いたくないのか、
説明しにくいのか、
冥王はそのあとも何も話さないまま、
休憩室に移動していった。
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