上 下
526 / 631
第十五部

ハクの中には………

しおりを挟む
「トットだよ。ここの医者」

向井と一緒に飲み物を運んできたキャトルが、

部屋に入ってくると言った。

「なんでそんなとこに立ってんの」

フェムティも声をかけた。

「お昼を食べに来たんだけどね」

トットはそういうと、

飲み物を運んできた向井を見て、

「申し遅れました。トットと申します。

以後お見知りおきを」

と頭を下げた。

「ねえ、生まれて一週間てホント? 」

牧野が驚きの顔でトットを見た。

「北には妖怪の診察できるものがないから、

詳しくはニットンに聞くといいよ。

だけど、魂を見ると生まれたてだから、

この子はここに引きずり込まれて、

運がいいと思う」

「なんで? 」

安達が素直に聞いた。

「妖怪はね、共食いする種族もいるんだよ」

「えっ? 」

安達と牧野が体を硬くして驚いた。

「人を食らうものもいれば、同族を食らうものもいる。

自然妖怪の類で生まれた子供が、

育たないのはそういう理由もあるんだよ」

「だとしたら中央はハクを入れて、

四人保護してるわけですから、

彼らの運はとてもいいという事ですね」

向井がトットを見た。

「そうなるね」

トットは頷くと歩いてきてソファーに座った。

「虎獅狼たちは人を食べないよ」

安達が怖そうにトットを見た。

「妖怪には色んなものがいるからね。

中央は妖怪も一緒に住んでるんだろう? 

という事は共存できるものも存在するという訳だ」

「ふぅん」

牧野と安達は画面を見ながら踊るハクを見た。

「ハク、ご飯食べないの? 」

向井が声をかけると、

「食べる」

と走ってきた。

「お子様プレートは、

デザートもあっていいですね」

向井はハクを膝に座らせると、

タオルを首に巻き、

スプーンを持たせた。

「ハクのパスタはグラタンなの? 」

牧野もパスタを食べ始めると、

ハクのプレートを見た。

「美味しい」

ハクが上手にスプーンで食べる姿を見ながら、

安達がふと気になり聞いた。

「ハクはいつも何食べてたの? 」

「ん~葉っぱとお魚」

「魚? 」

向井達が驚いてハクを見ると、

「ん~とね、こ~んな大きくて、

細いじいじがくれた」

ハクが手を動かして説明した。

「大きくて細い………? 」

牧野は近くにあるタブレットを開けると、

「こんな奴? 」

画面を見せた。

「あっ、じいじ」

ハクは笑顔で言うと、再び食べ始めた。

「やっぱ、ハクはただの河童じゃないんだよ。

龍の子かもしれないよ」

牧野が開いた龍の画面を皆は眺めると、

美味しそうに食べるハクを見た。

「龍の子には思えんが、

龍の質が入ってるのは確かだね。

言葉もかなり理解できてるし、

頭のいい子だよ」

トットはハクを見ながら、パスタを口に入れた。

「そうだ。ハクが好きな電車ね。

中央に帰ったら乗れるよ」

安達が笑顔でパスタを食べながら言った。

「電車? 」

ハクがテーブルに置いた電車を見て、

顔を輝かせた。

「電車なら中央じゃなくても乗れるだろ? 」

倉田が言うのを、

「チッチッチ。それが違うんだよね~」

牧野が人差し指を揺らしながら言うと、

安達と顔を見合わせ意味深に笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独り日和 ―春夏秋冬―

八雲翔
ライト文芸
主人公は櫻野冬という老女。 彼を取り巻く人と犬と猫の日常を書いたストーリーです。 仕事を探す四十代女性。 子供を一人で育てている未亡人。 元ヤクザ。 冬とひょんなことでの出会いから、 繋がる物語です。 春夏秋冬。 数ヶ月の出会いが一生の家族になる。 そんな冬と彼女を取り巻く人たちを見守ってください。 *この物語はフィクションです。 実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。 八雲翔

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタの村に招かれて勇気をもらうお話

Akitoです。
ライト文芸
「どうすれば友達ができるでしょうか……?」  12月23日の放課後、日直として学級日誌を書いていた山梨あかりはサンタへの切なる願いを無意識に日誌へ書きとめてしまう。  直後、チャイムの音が鳴り、我に返ったあかりは急いで日誌を書き直し日直の役目を終える。  日誌を提出して自宅へと帰ったあかりは、ベッドの上にプレゼントの箱が置かれていることに気がついて……。 ◇◇◇  友達のいない寂しい学生生活を送る女子高生の山梨あかりが、クリスマスの日にサンタクロースの村に招待され、勇気を受け取る物語です。  クリスマスの暇つぶしにでもどうぞ。

にほいち47

多摩みそ八
ライト文芸
フィクション旅行ライトノベル 女子大生4人がバイクで日本一周するお話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

ノイジーガール ~ちょっとそこの地下アイドルさん適性間違っていませんか?~

草野猫彦
ライト文芸
恵まれた環境に生まれた青年、渡辺俊は音大に通いながら、作曲や作詞を行い演奏までしつつも、ある水準を超えられない自分に苛立っていた。そんな彼は友人のバンドのヘルプに頼まれたライブスタジオで、対バンした地下アイドルグループの中に、インスピレーションを感じる声を持つアイドルを発見する。 欠点だらけの天才と、天才とまでは言えない技術者の二人が出会った時、一つの音楽の物語が始まった。 それは生き急ぐ若者たちの物語でもあった。

処理中です...