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第四部

神様に感謝

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佐久間が新たに特例に加わった今年。

下界では都市開発が進み、

冥王から下界の悪霊の状態を調査するため、

特例と死神で悪霊発生率の高い場所を、

調べて回っていた。

その頃になると、

特例の間でも人数が少なすぎると、

軽く愚痴が出ていた。

向井も何度か冥王に願い出てはいるものの、

「出来る範囲で仕事をすれば問題ないですから」

と倉田と岸本の支部に、

死神の数を少し増やしただけで、

中央は各自の仕事をしながら、

下界での調査に参加していた。


国内には多くの結界があり、

古くから神社を中心に守られてきた。

だが、その表の結界とは別に、

儀式によって守られてきた結界も存在する。

それが裏結界だ。

古代より儀式は行われていたようだが、

時代時代で廃止になったり、復活したりと、

裏結界も不透明な場所がある。

それを冥界の巻物と照らし合わせ、

見回っていた。

「この場所ってなんなの? 」

牧野が過去に壊された祠をチェックしながら、

ディッセに聞いた。

「神をまつっていた祠だよ」

「へえ~それを壊しちゃったわけ。

平気なの? 」

「平気なわけはないね。

でも人は自分達に邪魔なものは、

廃棄してしまう習性があるから、

こんな都心に置かれた神祠は枷でしかなかったんでしょ」

「都心の神様はデメリットなのか~

俺はバイトの行き帰りに神社の前を通ってたから、

お参りしてたけどね」

「牧野君がお参り? ちょっと意外」

ディッセが祠の位置をチェックしながら笑った。

「何だよ。俺だって神様にお願いごとぐらいするよ」

「神様にお願い事はダメだよ」

「えっ? そうなの? 」

「神様には感謝をするものなの。

今日も無事に過ごせて有難うございますとかね」

「………じゃあ、冥王にも感謝しなきゃダメ? 」

「あぁ~冥王か~そうだよね~

あの人に感謝か」

二人は考えながら顔を見合わせ笑った。

「まあ、こうやって生活できてるんだから、

ある意味感謝かな」

ディッセはそういうと、

「次は向こうの土と、

浮遊している小さな黒い塊を採取して」

牧野に小瓶を渡した。


――――――――


向井はトリアと河川エリアに来ていた。

「今日は黒谷君はいないね」

「多分別の場所で、販売してるんじゃないですか」

トリアと向井が話していると、

「あんたが向井さんか? 」

小柄な老人が立っていた。

「あっ、河伯じいさん」

「おぉ、トリアか。久しいの~」

トリアが近づくと、

二人は楽しそうに話し始めた。

「黒谷なら今日は隣町だぞ」

「違う違う。今日は悪霊調査。

どう? 最近この辺は」

トリアが聞く。

「まあ、変わらず小さいのがうろついとるが、

ワシが掃除しておるから、

安心してよいぞ」

「それは助かる~」

「なんの。黒谷がお礼に弁当を届けてくれるのでな」

「黒谷君はよくここへ来られるんですか? 」

向井が河伯を見た。

「弁当販売をこの付近でするときには、

必ずここにきて四方山話をしていくの~」

「どんな噂話してるのよ~」

トリアが自分の肩で河伯の肩をつく。

「ん~そうさな~

つい最近だと妖怪の人前式があっての。

その手土産に黒谷の作った菓子を持っていったら、

皆に喜ばれての~

その式の話とかな」

「えっ? 誰が結婚したの? 

河伯じいさんも出席したの? 」

「ほれ、トリアは知らんか? 

○○市のサガリの息子が嫁を貰ったのさ。

ワシは親父さんとはちょっとした知り合いでの。

こんな世の中にめでたい話など、

滅多にあることじゃないからの」

「えっ? あの息子が? 

もうそんな年になったんだ」

二人は向井をそっちのけで、

噂話に花を咲かせている。

妖怪の結婚式に神様も出席するのか。

向井は不思議そうに二人の話を聞いていた。

「で、黒谷にその話をしたら、

弁当の礼だと手土産に菓子をくれての」

「弁当の礼とは何ですか? 」

向井が二人の話に割って入った。

「ん? 水神玉手箱という、

ワシをイメージした弁当の販売を許可したからの」

「えぇっ? 河伯じいさんのお弁当まで、

販売してるの? 」

「おぬしらは知らんかったのか? 」

「黒谷君は商魂たくましいね~」

トリアは驚きの表情のまま、向井を見た。

「閻魔重は食べたか? 

あれはお化け屋敷みたいで、

楽しい弁当じゃな」

冥王から許可を得て販売された閻魔重は、

SNSでバズって取材に来るほどの大ヒットをした。

今や赤姫を抜いてトップになった弁当だ。

「あれね。うちでは冥王がご機嫌で、

黒谷君から何かあるたびにまとめて購入するから、

いいお得意様よ」

「ふぉっふぉっふぉ。そりゃ黒谷が喜ぶはずじゃ。

いつも冥王の話をしておる」

「二人は会ったことはないんですが、

最近はリモートでやり取りして、

閻魔重もリニューアルしてるんですよ」

「ほお~黒谷は面白い奴じゃな」

「隣町にいるなら、帰りに様子見がてら、

水神玉手箱? それを予約していこう。

冥王も知らないんじゃないかな~

知ってたら騒いでるはずだもん」

トリアはそういうと、

「黒谷君が顔を見せてるなら安心かな。

でも、この辺も悪霊が増えてるみたいだから、

河伯じいさんも無理しないで、

何かあったら私たちに連絡してよ」

と河伯を見た。

「ああ、心配してくれてありがとうよ」

二人はそこで河伯と別れ、

隣町に向かった。
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