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第三部

チップの埋め込み

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それから一ヶ月半。

講義と訓練を終え、

新たに四人の特例が誕生した。

三ヶ月もすると、

向井達もここでの生活、

リズムに慣れてきた。

向井が休憩室に行くと、

牧野がソファーに寝転がっていた。

「あれ? 仕事は? 」

「ん? 今戻ってきたんだよ。

何かまだ体に違和感があってさ。

霊魂の時と人間の時の使い分けって言うの?

それが上手くできなくて。

向井は平気? 」

「俺はそれほど辛くはないけど……」

向井がそういったところで、

新田が部屋に入ってきた。

「向井さんは三十代だよね。二十代から下は、

肩にチップを埋められてるらしいんですよ。

俺も死んで知ったんですけど。

そのせいで死んだ後の肉体は、

上手く動かせないそうです」

新田が話し始めた。

「国民番号証明書が発行されて、

その後国民が階級制になっていたって、

知ってました? 」

向井達は驚いて首を横に振った。

「国のトップクラスをプラス。

そこから3A、2A、A、マイナス。

プラスと3Aはチップは免除。

これは世襲でつながっている、

主に政財界の人間で、

2Aから下は、

生まれた階級でチップが埋め込まれているとか」

「えっ? そうなの? どこ? どこにあるの? 」

牧野が起き上がって、自分の体を触った。

「肩甲骨のあたりらしい。

チップの埋め込みは元々の血筋による、

身分制度で決められているので、

国民の殆どがチップを埋め込まれて、

監視されているって」

「冗談だろ? 」

牧野がぞっとしたように言い、

向井も驚きに目を見開いた。

「冗談じゃないんだって。

俺と牧野君は医務室行って、

肩のあたりに機械をあてられただろう。

仕事の時は人間でいるから、

チップを破壊したんだってさ。

子は宝政策で、

子育て家庭無償化が決まって、

出産後に2Aから下の乳児には、

全国にある国立乳児病院で検査を受ける義務化が、

始まったじゃないか。

そこで知らないうちに、

チップインジェクションがされているらしいよ。

半永久持つチップらしいけど、

経年劣化もあるらしくて、

今は人体実験の段階なのかな」

「チップの埋め込みなんて……

無償化の代償にしては大きいですね」

向井が吐息を漏らすように話した。

「そういえば戦後百年を過ぎて、

新しい国家の誕生と多くの政策が発表されて、

お祝いムードでしたよね。

家族子宝の会って団体が、

大臣と一緒に被災地まわってましたしね」

向井が当時を思い出すように言った。

「そんなお祝いなんてあったの? 俺知らないよ」

「牧野君が幼い頃だから覚えてなくても当然かな。

俺が中学生の時だから」

「そうだ。あの大災害があった年の後だから……

おれも小学生で怖かったことしか記憶にないな。

ただ……当時、

何かワクチンみたいなもの打たされたんだよ。

今考えたらそれがチップだったんだけど、

あの大災害の後だったからさ。

何かよくわからないうちに、

色々された記憶しかない…」

新田も考え込むように言った。

「あの時はこの国はもう沈没するって言われて、

富裕層は国外に逃げたし、

外国人も母国に戻った年だったんだよね。

学校で習った」

「あの時法案に反対したものは、

一部の国民からもバッシング受けて、

淘汰されましたからね。

災害が治まった後は、

子育て国家を売りにした大沢の人気が急上昇……

知らないうちに、

子育て世代は大沢に加担していたという訳ですか」

「やり方がえげつないですよね」

新田もため息をついた。

「俺がまだ新人だった頃、

大沢幹事長のお孫さんが、

俺のファンだって言うんで、

事務所に言われて会いましたけど、

尊大でいい印象はなかったな。

彼が病気で亡くなった時は、

この国も少しは変わるかと思ったのに、

前よりひどくなってる気がするんだよね」

「だったら、俺、死んで正解? 」

牧野の言葉に沈黙が続いた。
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