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第三部

冥王おすすめ漫画

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冥界に戻ると、

再び下界で大きな揺れがあったようで、

死神課の前で数人が集まり、

何やら話をしていた。

「向井さん、お帰りなさい。

地震大丈夫でした? 」

エナトが声をかけた。

「今も大きな揺れがあって、

下界では怪我人も出たみたいです」

オクトが言った。

「ここに戻る前に起きた大きな揺れは、

虎獅狼達も一緒でしたけど、

すぐにおさまりましたから」

「これだけ頻繁に地震が続くと、

下界は危険かもしれませんね」

エナトがひと思案するように腕を組んだ。

虎獅狼達は大丈夫だろうか。

そんな事を考えながら、

「そうだ。冥王は今、

どこにいるか分かりますか? 」

向井が聞いた。

「冥王なら図書室かもしれませんね。

コミックの発売日でしょ」

オクトが笑いながら言った。

冥王はお気に入りのコミックは、

新刊が発売された後に、

図書室で読むのが日課になっている。

向井はその足で図書室に向かった。

中をのぞくと、

数人の死神とサロン霊が本を読んでいる姿が見えた。

奥では河原が立ったり座ったりしながら、

一人芝居のような動きで、

キーボードに文章を打ち込んでいた。

以前、

「私って動き回らないと書けないんだよね。

こう………主人公の動きとか、

敵の行動とか、

頭の中で舞台のように動いてるの。

担当編集者にはウザいと言われたけど、

これが私のスタンスだからしょうがないのよ」

と言っていたのを思い出した。

確かに見てると…ウザい? というより面白い? 

向井は笑うと、そのまま冥王を探した。

いつもなら本棚付近のカウチで、

寄りかかりながら読んでいるんだが………

ん? 

見ると今日は牧野が気持ちよさそうに寝ている。

漫画が床に落ちているので、

寝落ちしたのだろう。

向井は本を拾うと牧野の横にある、

ミニテーブルに置いた。

さて、冥王は? 

周りを見渡すと、和室のソファー座椅子に、

寝転がっている姿が見えた。

「冥王」

向井が声をかけると、

本から顔を上げた。

「今日はこちらで読まれてたんですね」

「ん? あぁ、お気に入りのカウチは、

牧野君に取られちゃったのでね」

冥王はリクライニングを戻すと、

伸びをした。

「何か用ですか? 」

「少し聞きたいことが………」

そこまで言って和室の横にある壁に貼られた、

大きなボードに目が止まった。

今月の冥王おすすめ漫画? 

「これなんですか? 」

「ん? 」

冥王が和室から出てきて、

向井が指さす壁を見た。

「なにって、これは私の一押しですよ。

本の帯に店長のおすすめとかあるじゃないですか。

だから私も冥王おすすめというのを作って、

セイに貼らせたんです」

冥王が自慢げに胸を張った。

「今は赤い神聖ばぁに勝てるものはないんですけど、

これはお薦めの一つなんです」

そういって、

今まで読んでいたコミックを手渡した。

『あっちむいて妖怪』?

「これが面白いんですよ。

この国があっちもこっちも妖怪だらけになって、

人間が住みにくいので、

妖怪のふりをして生活する主人公の話なんです」

向井は本をパラパラめくりながら、

最後のページで手を止めた。

「あれ? これって河原さんの原作なんですか? 」

「そうなのよ~」

向井の背後から河原が顔を出した。

「おわっ! びっくりさせないでくださいよ」

「これさ~私の初期のころの作品なんだけど、

あの時は今一つヒットしなかったの。

だけど死んだら大ヒット? 

コミック化もされてさ。

私も遅すぎた天才だったのかもね~」

「それ、自分で言いますか? 」

向井はあきれ顔で笑った。

「でも、河原さんは御健在の時から、

アニメにも映画にもなった、

人気作家さんでしょう」

「まぁね~」

「そうそう。新田君のドラマも、

安達君が夢中になっているアニメも、

河原さんの原作ですよ」

冥王がまるで自分の事のように、

楽しそうに話す。

「私って、やっぱ才能あったんだね~」

河原はのけぞって大笑いした。

「で、筆の方は進んでいるんですか? 」

「まあ、ぼちぼちね。

ここに来てさ、

冥界の物語も書きたくなったんだよね。

で、今、プロット書いてるんだ~」

「ほお~あの人気作品の閻魔は酷いからね~

そのお話の方はカッコイイ、

好かれる上司にしてくれるんですよね? 」

「えっ? 冥王は出てこないよ」

「何ですと!? 」

冥王が目を見開いて河原を見た。

「冥界のお話なのに、私は出ないんですか? 」

「なに? 冥王を主人公にしてほしいの? 」

「それはそうでしょう。冥界の神ですよ。私は。

カッコよくて、仕事もできて、

みんなのヒーローみたいな? 」

「………」

向井と河原が無表情で冥王を見る。

「そんな物語を誰が読みたいんですか? 」

向井が言うと、

「私は読みたいです」

不機嫌そうな顔をして河原を見た。

「却下! 第一、私が書きたくない」

しょんぼりする冥王を見て、

河原は仕方がなさそうな顔をすると口を開いた。

「でも、まぁ、冥界の話なら冥王も陰の主役として、

カッコよく登場させるか」

「だったら早く書いてくださいよ」

「あのね~そんなにサッサッとかけたら、

締め切りに追われる事なんかないでしょ」

「う~私は読みたいです」

むくれる冥王と河原を見ながら向井が言った。

「新作もいいですけど、続きの方もお願いしますよ。

エナトさんが続きを楽しみに待ってますから」

「そっか~では、ぼちぼち十三巻出しますか」

「えっ? 出来上がっているんですか? 」

向井と冥王が驚く。

「一冊分はね。冥界でしか読めないから、

スペシャルだよね~」

河原は笑うと、

「フンフに原稿渡しておくから、

図書室に新刊として置いといてもらって」

それだけ言うと、仕事に戻っていった。

フンフは図書室担当の死神で、

冥王のわがままにも応えて、本を集め、

河原や葵が描く同人誌も発行して並べている。

「フンフもわがままな奴らに振り回されて、

大変だよな」
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