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第二部
十九年前の出来事
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そんな特別室での向井と同じ頃、
執務室では冥王たちが話をしていた。
「それは近々、
儀式を行うという事? 」
トリアが聞いた。
「この一、二年の間に、
何か動きがあると思います。
二年前の結界は、
私が介入したことで不完全になってしまった。
その歪みが二年かけて少しずつ緩んできたんでしょう」
冥王の話にディッセが納得したように言った。
「安達君が倒れたのにはそれも関係してるわけか」
昔からこの国は度々大災害に見舞われ、
ある年には、
一度壊滅状態に陥っている。
それを当時大沢が収め、
この国を手中にすることに成功していた。
大沢帝国の始まりはここにある。
古くには儀式も、
厄災が起こるたびに行われていたが、
次第にそれは忘れ去られていった。
だが、戦争による爆撃が引き金となり、
「地獄の釜の蓋が開く」こととなる。
その地獄が国を侵食し、
大沢が見つけた代々受け継がれてきた極秘文書から、
儀式の復活をさせた。
それが今から十九年ほど前の事。
おかげで国は再起したが、
安達はその混乱に巻き込まれる形で誕生し、
再生不可の魂を抱えることとなった。
そして二年前。
政府の秘密裏の金策が始まり、
その開発により、
再び災害に見舞われることになる。
その時に行われた戦後三度目の儀式で、
安達はまた被害者となっていた。
「安達君が生まれた時のことを知っているのは、
シェデム、アートンと君ら二人だけだ。
命の誕生は災害があろうがなかろうが、
関係ないですからね。
ケアレスミスを正当化するわけじゃないが、
仕方がなかったと思ってます」
冥王が静かに口を開いた。
「あの時は冥界も、
尋常じゃないほどの霊魂が上がってきて、
俺達も混乱してましたからね。
閻魔帳も把握できていなかったし」
ディッセが当時を思い出すように言った。
「それでもアートンが、
いち早く大沢の行動を察知してくれたので、
動くことはできましたが、
安達君の事だけが間に合いませんでした」
冥王が淡々と話した。
この時まで、
儀式に関する極秘文書は、
闇に消えたと思われていた。
だがトリアの調査により、
大沢家に隠されていたことが突きとめられている。
そんなこともあり、
前冥王からの特別室黙認に終止符を打つため、
死神調査隊を発足させた。
「大沢の父親が特別室に入った時から、
特別室の様相は形を変えてしまった。
それまでは権力者は威張り散らすだけで、
こちらはそれをコントロールすればよかっただけでしたからね」
冥王は小さなため息を漏らした。
大沢家は帝国軍時代より続く家系であり、
表に出せない重要文書も隠匿していた。
儀式によって国の安定を保ち、
それを利用して大沢家は権力を握り、
今も財を成している。
「人柱なんて、
俺からしたら考えられないね。
神への捧げものとしての人身御供だろう。
神に命を捧げ祈願する歴史を作るなんて、
人間は簡単に鬼になるから嫌だよ」
ディッセの言葉に冥王は苦笑する。
「私はそんなことをされても嬉しくはないが、
神の中にも多くの考えがあります。
特別室の事にしても、
前冥王からの慣例でそのまま引き継いだが、
こんな悪弊はいずれ断ち切らなければいけない」
冥王は少し考えこむと話し始めた。
「君たちはレイラインというのを知っていますか? 」
「五芒星とかですか? 」
ディッセが言うと、
「それも一つですね。
多くの国の古代遺跡は地図上、
何かしらの意図をもって作られているのが、
見ても分かると思います。
この国が沈まないでいるのも、
それによって守られているからです。
学者たちが長い時間を費やして研究を重ね、
ありとあらゆる説を発表しています。
でも、人はそれを認めたがらない」
「なんで? 」
トリアが不思議そうに聞いた。
「人類は地球上で、自分たちが一番優れていると、
考えているからです。
もしレイラインを認めてしまったら、
現代のように科学も発達していなかった時代に、
どうやって聖地は作られたんでしょう」
「!! 」
二人は小さく息をのんだ。
「この世の全てが、
神の手のひらで踊らされているものだとしたら?
私達神もまた、
創造神により誕生させられています」
「冥王も? 」
二人が驚く。
「そうですよ。
なのでこの世には多くの神が、
存在しているんです。
地球滅亡が騒がれていても、
金と権力が蔓延している。
この世界はゲームです。
創造神は指一つで、
いつでもリセットできるんですよ」
二人は黙ったまま冥王を見た。
「私は冥界を司るものとして、
ここにいますが、
下界にも小さな神々がいます。
特別室での命の献上と同じく、
下界の神も命という対価で動くものがいます。
それが人柱という生贄なんです」
「止められないんですか? 」
ディッセが聞くと、
「冥界はこの国のトップになりますが、
下界での神の掟には口をはさめません」
冥王が静かに言った。
「そういえば、二年前の儀式のときに、
下界の地域神と冥王は揉めたよね。
冥王が口出ししたので、
赤姫の剣幕はすごかったもん」
トリアが思い返すようにいい、笑った。
「そのせいで、
安達君には可哀想なことをしてしまいました」
「ということは、
安達君の肉体はこの国のどこかに埋められている…? 」
ディッセが考え込むように言った。
「安達君だけじゃないですよ。
一度の儀式で人柱一つじゃないですから、
多くの生贄の肉体が埋まってます。
魂に関しては冥界で眠らせているので、
時間をおいて再生するつもりですが……
私の代になって儀式は、三度行われています。
私が管理している人柱の魂も、
安達君を除いても約四十体以上。
肉体は土に還っていますが、
彼らの血肉が土地に染みついているので、
結界を動かすことは禁忌を冒すことになります。
儀式は大沢と代々の国のトップに、
継承されています。
重要な部分は世襲で続いている、
一部の人間のみに受け継がれていくので、
他の派閥が利益を求めて、
むやみに結界を崩し災害へと繫げてしまうんですよ」
冥王はため息をつくと続けた。
「質が悪いのが、
未来の為にと多くの情報を他国に売り渡し、
私腹を肥やしてきたことです。
はたから見れば自由な国に見えますが、
気が付けば一党独裁に風向きが変わり、
負が蔓延し、その為に悪霊が増え、
災害国家に変貌しているのが現状です。
人柱は国を沈ませないためにも、
必要不可欠になってしまいました」
黙って聞く二人に、
冥王は険しい表情で話を続けた。
執務室では冥王たちが話をしていた。
「それは近々、
儀式を行うという事? 」
トリアが聞いた。
「この一、二年の間に、
何か動きがあると思います。
二年前の結界は、
私が介入したことで不完全になってしまった。
その歪みが二年かけて少しずつ緩んできたんでしょう」
冥王の話にディッセが納得したように言った。
「安達君が倒れたのにはそれも関係してるわけか」
昔からこの国は度々大災害に見舞われ、
ある年には、
一度壊滅状態に陥っている。
それを当時大沢が収め、
この国を手中にすることに成功していた。
大沢帝国の始まりはここにある。
古くには儀式も、
厄災が起こるたびに行われていたが、
次第にそれは忘れ去られていった。
だが、戦争による爆撃が引き金となり、
「地獄の釜の蓋が開く」こととなる。
その地獄が国を侵食し、
大沢が見つけた代々受け継がれてきた極秘文書から、
儀式の復活をさせた。
それが今から十九年ほど前の事。
おかげで国は再起したが、
安達はその混乱に巻き込まれる形で誕生し、
再生不可の魂を抱えることとなった。
そして二年前。
政府の秘密裏の金策が始まり、
その開発により、
再び災害に見舞われることになる。
その時に行われた戦後三度目の儀式で、
安達はまた被害者となっていた。
「安達君が生まれた時のことを知っているのは、
シェデム、アートンと君ら二人だけだ。
命の誕生は災害があろうがなかろうが、
関係ないですからね。
ケアレスミスを正当化するわけじゃないが、
仕方がなかったと思ってます」
冥王が静かに口を開いた。
「あの時は冥界も、
尋常じゃないほどの霊魂が上がってきて、
俺達も混乱してましたからね。
閻魔帳も把握できていなかったし」
ディッセが当時を思い出すように言った。
「それでもアートンが、
いち早く大沢の行動を察知してくれたので、
動くことはできましたが、
安達君の事だけが間に合いませんでした」
冥王が淡々と話した。
この時まで、
儀式に関する極秘文書は、
闇に消えたと思われていた。
だがトリアの調査により、
大沢家に隠されていたことが突きとめられている。
そんなこともあり、
前冥王からの特別室黙認に終止符を打つため、
死神調査隊を発足させた。
「大沢の父親が特別室に入った時から、
特別室の様相は形を変えてしまった。
それまでは権力者は威張り散らすだけで、
こちらはそれをコントロールすればよかっただけでしたからね」
冥王は小さなため息を漏らした。
大沢家は帝国軍時代より続く家系であり、
表に出せない重要文書も隠匿していた。
儀式によって国の安定を保ち、
それを利用して大沢家は権力を握り、
今も財を成している。
「人柱なんて、
俺からしたら考えられないね。
神への捧げものとしての人身御供だろう。
神に命を捧げ祈願する歴史を作るなんて、
人間は簡単に鬼になるから嫌だよ」
ディッセの言葉に冥王は苦笑する。
「私はそんなことをされても嬉しくはないが、
神の中にも多くの考えがあります。
特別室の事にしても、
前冥王からの慣例でそのまま引き継いだが、
こんな悪弊はいずれ断ち切らなければいけない」
冥王は少し考えこむと話し始めた。
「君たちはレイラインというのを知っていますか? 」
「五芒星とかですか? 」
ディッセが言うと、
「それも一つですね。
多くの国の古代遺跡は地図上、
何かしらの意図をもって作られているのが、
見ても分かると思います。
この国が沈まないでいるのも、
それによって守られているからです。
学者たちが長い時間を費やして研究を重ね、
ありとあらゆる説を発表しています。
でも、人はそれを認めたがらない」
「なんで? 」
トリアが不思議そうに聞いた。
「人類は地球上で、自分たちが一番優れていると、
考えているからです。
もしレイラインを認めてしまったら、
現代のように科学も発達していなかった時代に、
どうやって聖地は作られたんでしょう」
「!! 」
二人は小さく息をのんだ。
「この世の全てが、
神の手のひらで踊らされているものだとしたら?
私達神もまた、
創造神により誕生させられています」
「冥王も? 」
二人が驚く。
「そうですよ。
なのでこの世には多くの神が、
存在しているんです。
地球滅亡が騒がれていても、
金と権力が蔓延している。
この世界はゲームです。
創造神は指一つで、
いつでもリセットできるんですよ」
二人は黙ったまま冥王を見た。
「私は冥界を司るものとして、
ここにいますが、
下界にも小さな神々がいます。
特別室での命の献上と同じく、
下界の神も命という対価で動くものがいます。
それが人柱という生贄なんです」
「止められないんですか? 」
ディッセが聞くと、
「冥界はこの国のトップになりますが、
下界での神の掟には口をはさめません」
冥王が静かに言った。
「そういえば、二年前の儀式のときに、
下界の地域神と冥王は揉めたよね。
冥王が口出ししたので、
赤姫の剣幕はすごかったもん」
トリアが思い返すようにいい、笑った。
「そのせいで、
安達君には可哀想なことをしてしまいました」
「ということは、
安達君の肉体はこの国のどこかに埋められている…? 」
ディッセが考え込むように言った。
「安達君だけじゃないですよ。
一度の儀式で人柱一つじゃないですから、
多くの生贄の肉体が埋まってます。
魂に関しては冥界で眠らせているので、
時間をおいて再生するつもりですが……
私の代になって儀式は、三度行われています。
私が管理している人柱の魂も、
安達君を除いても約四十体以上。
肉体は土に還っていますが、
彼らの血肉が土地に染みついているので、
結界を動かすことは禁忌を冒すことになります。
儀式は大沢と代々の国のトップに、
継承されています。
重要な部分は世襲で続いている、
一部の人間のみに受け継がれていくので、
他の派閥が利益を求めて、
むやみに結界を崩し災害へと繫げてしまうんですよ」
冥王はため息をつくと続けた。
「質が悪いのが、
未来の為にと多くの情報を他国に売り渡し、
私腹を肥やしてきたことです。
はたから見れば自由な国に見えますが、
気が付けば一党独裁に風向きが変わり、
負が蔓延し、その為に悪霊が増え、
災害国家に変貌しているのが現状です。
人柱は国を沈ませないためにも、
必要不可欠になってしまいました」
黙って聞く二人に、
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