『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第一部

記者会見

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しばらくして、

制作発表が始まるというので、

大画面の前にみんなが集まっていた。

「ティンだ。かっこいいね~。

俳優さんの中でも断トツでイケてるよ」

田所がカフェラテを飲みながら言った。

「中身はくるみ君ですけどね」

セイが不満そうに言う。

「まあまあ。

でもシェデムさんがティン君御指名で、

雑誌のインタビューを受けたらしいし、

あの容姿だから人気は出るよね」

向井がなだめる様に話した。

「あのさ~このまま人気がでても大丈夫なの? 」

ソファーに座っていた早紀が、

後方に立っている向井を、

のけぞるような体制で見た。

「問題はないですよ。

この仕事が終われば、

記憶をはじめとして、

痕跡はすべて消えて無くなるからね」

「えっ、そうなの? 」

牧野が一驚する。

「そうですよ。

ただ冥界図書には、

特殊保管庫があるので、

過去の出演作は見られますよ。

今までにも歌手や声優などの案件はありましたからね」

「歌手って歌声は死神でしょ? 」

早紀が聞く。

「そうですね。

でも、死神は能力値が高いんですよ。

しかも特殊保管庫にあるものは、

死神だけじゃなく、

本人の声で録音されたものも聴けます。

図書室に出入りしていれば、

分かるはずなんですけどね」

向井が言うと、

「私は聴いてますよ。

あの有名な歌姫の霊魂歌が聴けるのは、

このライブラリーだけですから。

素晴らしいです」

壁に寄りかかって画面を見ていた佐久間が、

満足げにほほ笑んだ。

「えっ? じゃあ、くるみ君の舞台も観れるの? 」

セイが向井の方に詰め寄ってきた。

「セイくん。近いです」

「あっ、ごめんなさい」

セイが慌てて離れる。

「くるみ君ヴァージョンもティンくんヴァージョンも、

両方楽しめますよ。

今までトレーニングルームで練習していた、

くるみ君の姿も記録されているので、

再生されたあともセイくんが観たければ、

観れます」

「凄い……僕、仕事頑張っちゃう」

セイは目を輝かせながら、

大画面の方へ歩いて行った。

各々が自分の思いを巡らせながら、

画面を見ていると、

「ほお、ティンは洒落てるね~

私が作った死神だけあるね」

冥王が向井の横に立って自慢げに言った。

「自意識過剰ですね」

向井が前を向いたまま言う。

「私は冥王だからね」

そういってフッと笑うと、

「やっとここまで来たという感じだね」

賑やかな休憩室を眺めながら話をつづけた。

「昔はここも、

薄暗くてどんよりしていて、

こんな活気は見られなかったな。

まあ、死人の集まりで活気というのもなんだがね」

冥王は遠くを見る目をしながら微笑んだ。

「俺は今しか知らないので、よくわかりませんけど」

「前冥王は良くも悪くも官僚的で……

だから私は、

全ての体制を見直したかったんですよ」

「冥王はここに来る前は、

別のところにいたんですよね」

「……まあね」

「家族はいるんですか? 」

「……それはヒ・ミ・ツ」

冥王は茶目っ気たっぷりに笑った。

「私もここにきて二百年。

君らからすれば長い時間だろうが、

私からすればたったの二百年だ。

その間に多くの苦しむ魂を見てきた。

それを何も考えずに処分したり再生させたり、

そんな仕事をさせられていれば、

死神達だって心は荒むだろ? 」

冥王は真顔のまま話をつづけた。

「戦争は嫌だね。

あの頃のここは、

君らが想像もできないほどに酷かったよ。

死神ですら精神が病んで、

みんな消えていった……」

いつになく深刻な表情の冥王を、

向井は初めて見た気がした。

「トリアは私より長くこの国を見てきた。

あの中で唯一残った死神だ。

だから精神面は何より強い。

今いる死神は、

この体制ができてから私が核を与えたものだから、

八十…九十年程か……

だが消滅しているものが多いから、

一番古いのがシェデムになるな。

この国は災害も多いから、

みんながびのびと働いてくれている姿は、

私にとっては救いだよ」

辛そうな目の奥は何を思っているのか、

向井には読み取ることはできなかった。

だが、

彼の二百年が、

想像に絶する時間であったのは確かだ。

もしかしたら冥王が、

新たな死神に核を与えたくないのも、

彼らが苦しむ姿を、

できれば見たくないからかもしれない。

「君とは長い付き合いになるからね。

特例も少ないし延長してもらいたいな」

「御冗談を」

向井の言葉に冥王が笑った。

「まあいい。時間はたっぷりある。

それに特別室の住人の扱いも上手いし」

「それは仕事柄、

ああいったことには慣れて……」

そこまで言って向井は言葉を止めた。

頭の奥で何かが浮かんで消えた。

あれ? なんか……今…思い出し……

「どうした? 」

向井が下を向いて動かなくなった姿に、

冥王が声をかけた。

「あっ、いえ、何でもありません」

冥王は少し様子を窺うように見ていたが、

それ以上何も話しそうもない向井に、

言葉をつづけた。
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