『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第一部

冥界の休憩室

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数時間後――――

特例の休憩室に戻ると、

珍しく早紀と弥生がお茶をしていた。

「あっ、ケーキじゃん。

俺のもある? 」

牧野が言うと、

「皆さんの分もありますよ。

先程まで倉田さんがいて、

人気のケーキを持ってきてくれたんです」

弥生が立ち上がってお皿の用意をしてくれた。

背が高く気の強い早紀と比べると、

細くて繊細な女の子という印象だ。

「珈琲と紅茶はインスタントですけど、

お好きな方をどうぞ」

「倉田、何しに来てたの? 」

牧野が楽しそうにケーキの箱をのぞく。

その横で安達も嬉しそうに選んでいる。

「あんたがいつも遊び歩いてるから、

会わないだけでしょ。

定期的に戻ってきてるわよ」


ここ冥界は冥王がいる中央を中心に、

左右でサテライトオフィスがある。

倉田と岸本は北支部と西支部。

それぞれの近辺を担当しているため、

中央には時々戻ってくる。

オフィスにはそれぞれ、

死神が十二人ほど配置されているが、

中央に比べると静かなものだ。


「今日は報告と相談に来てたんです」

弥生がそういい、紙ナプキンをお皿に置いた。

「へえ~、あっ俺、ショコラがいい。

安達はどれにする? 」

「キャラメル」

「向井と佐久間はどれにする? 」

「なんでもいいよ」

二人は笑いながら見ていた。

「そうだ。今日はすき焼き弁当買ってきたので、

欲しい人は持っていっていいですよ」

「いいんですか? 

じゃあ、私はこれで戻るんで、

田所さんと源じいと真紀子さんにも頂いていきますね」

「どうぞ」

向井はにっこり微笑むと、

恥ずかしそうにする弥生にお弁当を手渡した。

「失礼します」

弥生は頭を下げると、

部屋を出て行った。

「その笑顔。罪だなぁ~」

早紀はそういうと向井をじっと見た。

「何か俺、まずい事しましたか? 」

「佐久間さん、この人どう思います? 」

「処世術として笑顔を武器にする人はいますけど、

それができるほど、

向井さんは器用じゃないですからね。

まあ、私達は死人ですから、

ある意味、

鈍感というのも幸せかもしれませんね」

佐久間は席に着くと、

チーズケーキを皿に乗せた。

「何の話? 」

牧野がケーキを頬張りながら聞いた。

「お子様は黙って食べてなさい」

「なんだよ! 」

「ここはいつも賑やかだな~

さっき帰り際に倉田さんに会って、

ケーキがあるって言われたんだけど、

まだ残ってる? 」

新田が入ってきた。

「あるよ~ついでにすき焼き弁当もあるよ~」

「ついでってなんだよ」

早紀の言葉に牧野が怒ると、

「牧野君はお金を払っていないんだから、

怒っていいのは私と向井さんですよ」

「あら、ごめんなさい」

早紀が笑った。

死人も元は人。

こんな何気ない日常にホッとする。

向井はそんなことを思いながら、

「じゃあ、俺もケーキを頂こうかな」

と、彼らの輪の中へ入っていった。
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