『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第一部

死神のお仕事

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「呼んだ? 」

彼女は向井に言った。

「急ですいませんね」

「ん? おっ、虎獅狼。久しぶり~」

「二人はお知り合いですか? 」

向井が聞くと、

「まあね。山川とは長いからね~

虎獅狼とも二十年来の付き合いだね」

「えっ? ちょっと待って、

山川さんは死んでから、

二十年以上経っているんですか? 」

驚く向井に、

「そうなるわね。

私もかれこれ二十年。

彼女に憑依されてるってことかぁ~」

向井は頭を抱えてしゃがみこんだ。

「ええええええ~!! 

二十年も成仏しない派遣霊っているのか!? 」

「なぁに、二十年なんて昨日みたいなもんだろ」

「虎獅狼にはそうかもね。

でも死んでるとはいえ、

人間の寿命は短いからさ」

「なるほど。不憫よの~」

「で、山川は今どこ? 」

「えっ? その辺に……」

向井はまだ頭が働かずに、

慌ててタブレットを動かした。

見るとトリアは山川専属になっている。

どういう事だ? 

向井がそのことを尋ねると、

「ああ、仕方がないのよ。

私の体が山川仕様になっちゃって、

他の派遣霊が居心地悪いって嫌がるから」

「ああ、そういうこと。

山川さんとの相性がいいんですね」

「相性もなにも、

ああいう古い霊を扱える死神が少ないだけ。

今いる死神は現冥王の使役だから……

あっ、もしかして前冥王からの使役って私だけかも? 」

「お前も死神というくらいだから神なのか? 」

「なわけないでしょ。神がこんな仕事する? 」

「しないのか? 」

「しないわよ。言っておくけど、

死神がどうやって作られてるかあんたら知ってる? 」

彼女の文句に、

向井と虎獅狼が同時に首を横に振った。

「冥王の一部で出来てるの。

あ~もう!! そういうだけでも気持ち悪い~」

彼女は両腕で体を包み身震いした。

「大抵は髪の毛や髭に息を吹きかけて、

死神が出来上がるわけなんだけど、

私の核は前冥王なの。

ガラの悪い汚ならしいジジイだったわけ。

現冥王みたいないい男なら、

私も我慢できるんだけど、

あれよあれ~」

両手で頭を抱える彼女を、

向井がボ~ッと見ているので、

「あんた前冥王見たことないの? 」

「いやぁ、この仕事二年目ですから」

「冥王室出入りしてるんでしょ。

写真があるでしょ。気取ったポーズの写真が」

そういえば、壁に写真が飾られていたような……

向井は思い出すようにあごに手を当てた。

「冥王が変わる時に前冥王の写真だけ、

冥王室に飾られるのが習わしなんだって。

死神だって寿命があるから、

核が弱ればお役御免なんだけど、

私の核がこれまた強いのよ。

もう二百十年よ。

医務室に行って調べてもらったら、

まあ、丈夫。くたばる気配がないって言われた」

彼女は言いたいことだけ言うと、

ふぅ~と息を吐いた。

すると遠くの方から葵が駆けだしてきた。

「トリア~久しぶり~」

「山川、いい加減にこれで成仏してよ」

「トリアとあたしの仲じゃん」

「とりあえず憑依できるようメンテしてきたから、

さっさと入って仕事するよ」


派遣霊は思いが強いばかりに、

憑依後に体の不法占拠を企てるものもいる。

死神の体だ。

当然、

肉体を乗っ取ることは不可能なので、

悪霊扱いにされ、

核からの光の渦に飲み込まれ、

そのまま消えてしまう。

派遣霊でそのような企てをするものは、

まずいないが、

過去に数回だがそんな派遣霊がいた前例がある。

その為に派遣課の調査員が入り、

万全に備えている。


「とりあえず、急ぎだそうなので、

一時間後に松田さんの仕事場に伺います」

向井が言うと葵が、

「じゃあ、久しぶりにトリアの中へ……」

憑依する瞬間を虎獅狼もじっと見ていた。

「おっ、いい感じ~」

葵はトリアの体を馴染ませるように動かした。

「連泊グッズは一通り、

トリアさんに持ってきてもらっているので、

そのまま出かけられますね」

「オッケ~」

「葵のその姿、俺も久々に見たな」

「どお? 似合ってるでしょ」

虎獅狼と葵の姿に、

この二人をずっと一緒にしていて大丈夫なのか?  

なんかちょっと心配になってきたぞ。

「なんだ。お前は心配性だな。

高田は平気だったがな」

虎獅狼があきれ顔で笑った。

なぜかこの虎獅狼には、

心の中を見透かされているようで落ち着かない。

「まあ、お前とは生きている時間が違うからな。

そんなに気にするな」

虎獅狼はそういうと、

「ほら、行くんだろ? 」

と、二人の前を歩き出した。
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