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番外編 騒ぐ下界
窪塚の第二の人生
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「そうさせてもらうよ。既に七十五を過ぎているから、
いつ死んでも悔いはないよ」
窪塚の言葉に、
「そんなこと言わないでくださいよ」
ティンが箱を持ち上げて言った。
「ハハハ。そうだね。捨て地の役所でも、
参加できるコミュニティーも教えてもらったし、
近所を散歩しながら、
暫くはのんびり考えてみるよ。
ありがとね」
窪塚は微笑むと立ち上がり、
長年住んだ家を見回した。
淋しさもあるだろう。
だが、今のこの国では命の危険の方が問題だ。
移住できるものは元気なうちに移り住み、
残りの人生を真っ当な社会で生きて行くことが、
良いに決まっている。
向井達は残りの箱をそれぞれ持ち上げると、
家を後にした。
赤の捨て地までは、
ほんの数十分で行ける位置に家があったこともあり、
あっという間に引っ越しはすんでしまった。
ディッセ達には先に団地に向かってもらい、
向井は冥界が用意した車に段ボールをつんだ。
「悪いね」
窪塚が車に乗り込み礼を言う。
「困ったときはお互い様って言うじゃん」
牧野もそういって、後部座席に一緒に乗り込み笑った。
向井の運転で団地まで来ると、
ディッセ達はすでに部屋の方に入っていた。
牧野は車を降りると、
「じいちゃんの住むとこはここか?
なんだ。黒谷の団地じゃん」
と驚いて笑った。
「なんだい? 知り合いでも住んでるのかい? 」
「知り合いって言うか、親戚? 」
牧野が首を傾げて車を降りる窪塚を振り返った。
「窪塚さんの事は黒谷君にも話しておいたので、
安心していいですよ。
あと薬もここでは、
団地に薬局が入っていますので、
診療後にすぐ受け取れます」
向井が説明してると、
「じいちゃんはどこが悪いの? 」
牧野が階段をのぼりながら聞いた。
窪塚は玲子と同じく一階に部屋を取れたので、
庭も付いており、
ファミリーや老人には人気の部屋だ。
「血圧が少し高いだけだよ。
年を取るとどうしようもないね」
窪塚は笑いながら、新しく住む部屋に入って行った。
「布団はどこに置く? 」
ヴァンが運んでくると声をかけた。
「こっちの部屋に運んでもらえるかい」
「分かった」
ヴァンが二部屋あるうちの和室の方に、
布団を持っていった。
「私一人ではもったいないくらいの部屋だよ。
せっかくだから、何か植えようかな」
窪塚は庭を眺めながら笑顔になった。
先日、黒谷に窪塚の話をすると、
「分かった。気にかけておくから大丈夫だよ」
と言ってくれたので向井達も安心していた。
「俺達はこれで帰りますけど、
気になることは役所の窓口で聞けますし、
この階の上に黒谷というものが住んでいますから、
分からないことは相談してください。
この地区は老人も多いですし坂上なので、
週に一度移動スーパーも来てくれますから」
「それは有難い。
何から何まで世話になってすまないね」
向井の話に窪塚が頭を下げた。
「そうだ。ここって元お祓い師の帯刀のじいちゃんも、
住んでるよな? 」
牧野が思い出したように向井を見た。
「あぁ、そうですね。
帯刀さんは窪塚さんと同年代で穏やかな方なので、
話が合うかもしれませんね」
「そうですか」
窪塚もその話に安堵したように笑った。
「それと冷蔵庫に間に合わせだけど、
食材を入れておいたから。
とりあえずの生活必需品は、
区役所の方から受け取ったので置いておくね」
オクトがキッチンのカウンターに箱を乗せ、
声をかけた。
「まだ、信じられないよ。
景色一つとっても、
同じ国とは思えないね。
こんな事ならもっと前に捨て地に来ればよかった。
俺の周りでもバリアで消えるのを見たのがいるから、
怖くて踏ん切りがつかないんだよ」
「そうですね。見てしまえば恐怖ですから」
眩しそうに窓からの景色を見る窪塚に、
向井も静かに話すと横に立ち一緒に眺めた。
「そうそう。これは俺達からのプレゼント。
この前杖折られちゃったでしょう」
ティンはそういうと新しい杖を持ってきて渡した。
「えっ」
窪塚は嬉しそうに杖を受け取った。
「随分と立派な杖だよ。
俺のは安いもんだったから、
持った感じも全然違う」
この杖は天上界の木材で作ったものだ。
持っているだけでも、
負から身を守ってもらえるだろう。
玲子にもプレゼントし、喜ばれていた。
「気にかけてくれてありがとう。
大事に使わせてもらうよ」
窪塚は笑顔で礼を言うと杖を握った。
その後トリアとアートンが捨て地で暮らすための、
書類手続きを済ませると、
向井達は最後まで頭を下げる窪塚と別れ、
団地を後にした。
いつ死んでも悔いはないよ」
窪塚の言葉に、
「そんなこと言わないでくださいよ」
ティンが箱を持ち上げて言った。
「ハハハ。そうだね。捨て地の役所でも、
参加できるコミュニティーも教えてもらったし、
近所を散歩しながら、
暫くはのんびり考えてみるよ。
ありがとね」
窪塚は微笑むと立ち上がり、
長年住んだ家を見回した。
淋しさもあるだろう。
だが、今のこの国では命の危険の方が問題だ。
移住できるものは元気なうちに移り住み、
残りの人生を真っ当な社会で生きて行くことが、
良いに決まっている。
向井達は残りの箱をそれぞれ持ち上げると、
家を後にした。
赤の捨て地までは、
ほんの数十分で行ける位置に家があったこともあり、
あっという間に引っ越しはすんでしまった。
ディッセ達には先に団地に向かってもらい、
向井は冥界が用意した車に段ボールをつんだ。
「悪いね」
窪塚が車に乗り込み礼を言う。
「困ったときはお互い様って言うじゃん」
牧野もそういって、後部座席に一緒に乗り込み笑った。
向井の運転で団地まで来ると、
ディッセ達はすでに部屋の方に入っていた。
牧野は車を降りると、
「じいちゃんの住むとこはここか?
なんだ。黒谷の団地じゃん」
と驚いて笑った。
「なんだい? 知り合いでも住んでるのかい? 」
「知り合いって言うか、親戚? 」
牧野が首を傾げて車を降りる窪塚を振り返った。
「窪塚さんの事は黒谷君にも話しておいたので、
安心していいですよ。
あと薬もここでは、
団地に薬局が入っていますので、
診療後にすぐ受け取れます」
向井が説明してると、
「じいちゃんはどこが悪いの? 」
牧野が階段をのぼりながら聞いた。
窪塚は玲子と同じく一階に部屋を取れたので、
庭も付いており、
ファミリーや老人には人気の部屋だ。
「血圧が少し高いだけだよ。
年を取るとどうしようもないね」
窪塚は笑いながら、新しく住む部屋に入って行った。
「布団はどこに置く? 」
ヴァンが運んでくると声をかけた。
「こっちの部屋に運んでもらえるかい」
「分かった」
ヴァンが二部屋あるうちの和室の方に、
布団を持っていった。
「私一人ではもったいないくらいの部屋だよ。
せっかくだから、何か植えようかな」
窪塚は庭を眺めながら笑顔になった。
先日、黒谷に窪塚の話をすると、
「分かった。気にかけておくから大丈夫だよ」
と言ってくれたので向井達も安心していた。
「俺達はこれで帰りますけど、
気になることは役所の窓口で聞けますし、
この階の上に黒谷というものが住んでいますから、
分からないことは相談してください。
この地区は老人も多いですし坂上なので、
週に一度移動スーパーも来てくれますから」
「それは有難い。
何から何まで世話になってすまないね」
向井の話に窪塚が頭を下げた。
「そうだ。ここって元お祓い師の帯刀のじいちゃんも、
住んでるよな? 」
牧野が思い出したように向井を見た。
「あぁ、そうですね。
帯刀さんは窪塚さんと同年代で穏やかな方なので、
話が合うかもしれませんね」
「そうですか」
窪塚もその話に安堵したように笑った。
「それと冷蔵庫に間に合わせだけど、
食材を入れておいたから。
とりあえずの生活必需品は、
区役所の方から受け取ったので置いておくね」
オクトがキッチンのカウンターに箱を乗せ、
声をかけた。
「まだ、信じられないよ。
景色一つとっても、
同じ国とは思えないね。
こんな事ならもっと前に捨て地に来ればよかった。
俺の周りでもバリアで消えるのを見たのがいるから、
怖くて踏ん切りがつかないんだよ」
「そうですね。見てしまえば恐怖ですから」
眩しそうに窓からの景色を見る窪塚に、
向井も静かに話すと横に立ち一緒に眺めた。
「そうそう。これは俺達からのプレゼント。
この前杖折られちゃったでしょう」
ティンはそういうと新しい杖を持ってきて渡した。
「えっ」
窪塚は嬉しそうに杖を受け取った。
「随分と立派な杖だよ。
俺のは安いもんだったから、
持った感じも全然違う」
この杖は天上界の木材で作ったものだ。
持っているだけでも、
負から身を守ってもらえるだろう。
玲子にもプレゼントし、喜ばれていた。
「気にかけてくれてありがとう。
大事に使わせてもらうよ」
窪塚は笑顔で礼を言うと杖を握った。
その後トリアとアートンが捨て地で暮らすための、
書類手続きを済ませると、
向井達は最後まで頭を下げる窪塚と別れ、
団地を後にした。
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