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番外編 騒ぐ下界

祠の視察

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イベントが行われる会場は、

数十年前に税金何百億とかけて、

街づくりの為に建てられた建造物だ。

建物周辺だけが開発され、

結局失敗に終わったまま老朽化していた。

それを再び税金投入で改修工事を始めたのが二十年程前。

あの大災害が起こった年だ。

当然、国が沈んだ年なので、

この建物もそのままになり、

最近捨て地で企業と区との話し合いで、

改修工事を再開した。

今回はその改修後の初めてのイベントだ。

かかった費用の回収も含めて、

これからは多くのイベントが開催されることになる。

黒地と違い、

捨て地は百年前のような活気が戻りつつある。

黒地民が捨て地憎しと感じるのは、

そんな生活がAIによって、

拡散されているからかもしれなかった。

今では黒地の方が機械の不具合が多く、

医者にかかれない、

現金が使えない、

物価高騰でものが買えない、

コンサートなどのイベントが行えない、

移民増で仕事がない、

外国人オーナーの物件が多く家賃が払えない、

個人情報が盗まれカードも使えない、

などのないない尽くしになっていた。


牧野がビルの前に立つと、

「へえ~ほんとだ。綺麗になってる。

俺が死んだ年には、汚れたビルだったのに」

と見上げた。

「捨て地に真実の壁ができて、

この建物が赤の捨て地に来たことで、

所有がここの区に移ったからね」

「黒地はどう感じてるんだろうね。

綺麗になったし、返せって言いそう」

トリアを見て新田が笑った。

「ここは元々中央上区の一番端になりますけど、

立地条件はいいんですよ」

向井は神祠を確認しながら、

忌々しそうに捨て地を見る議員たちにため息をついた。

「なんかまた、一波乱おきそうね」

トリアも煙たそうな顔で見ると微苦笑した。

次々と人がビルに入る姿に、

「ねえ~いこう~」

こんがトリアの手を引いた。

「そうね。欲しいものあるんだもんね」

トリアは笑いながらチビの顔を見ると、

皆で会場に入った。


中に足を踏み入れると既に人で溢れていて、

賑わいを見せていた。

作家の数もいつもより多い。

飲食店のブースも広く取られ、

お客もゆったりと見ながら、

食事を楽しんでいた。

「天井高くて会場が広いから、

これだけ人数いても息苦しくないし快適だね」

新田も驚きながら会場内を見回した。

「うちのブースは………」

牧野が番号を確認しながら、

「真ん中の大きなブースだ」

と指さした。

チビ達の目が輝いている姿に向井達も笑顔になった。

「あ~」

クロウが指をさす。

「あら、風船」

見ると子供達が机で何かをやっているのが見えた。

「なに? 欲しいの? 」

トリアが聞くと、ハクとクロウがコクコクと頷いた。

見ると呉葉達もじっと見ている。

「じゃあ、見に行こうか」

向井が言うと、

「俺達は先にブースに行ってるね」

新田と牧野は向井達と分かれてブースの方に歩いて行った。


テーブルに近づくと、

子供達が風船に塗り絵をしていた。

「あっ、向井さん」

「えっ? 」

声のする方を振り返ると、

黒谷と弥生がいた。

「あら~二人でデート? 」

トリアがからかうように言った。

「だったら嬉しいけどさ」

黒谷は笑いながら話すと、

「このイベント、俺も一応主催者側にいるんでさ。

子供達に無料でアップライトバルーンを配ってるの。

君達もやる? 」

黒谷が興味深そうに見ているチビに声をかけた。

「アップライトバルーンて普通の風船と違うの? 」

トリアも気になった様子で、

チビ達を椅子に座らせると聞いた。
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