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番外編 冥界

悪霊溢れる天上界

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廊下を歩きながら、

「アートンさんは状況をご存じですか? 」

「天上界はまだ見ていないので、

何とも言えませんが。

うちのボスは嫌われてますからね」

「そうですね」

向井とアートンは苦笑しながら天上界に向かった。


天上界の門に来ると、

既に可愛らしい悪霊が、

まるで苔の様に張り付いている。

「大騒ぎしてるので、

どれほどのものかと思えば………」

アートンが入り口で腕を組むと笑った。


向井達が門の前に立つのと同じ頃、

中では尊神達が大騒ぎしていた。

「おい、毘沙門天はどうした。

四天王がおらんではないか」

「冥界においでになられました」

侍従の言葉に、

「ここをこのままにして、自分だけ逃げたと申すのか? 」

「なんと! これをこのままに自分だけ? 

身勝手な奴だ」

神々がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていた。

その中を夜叉衆が通り過ぎる。

「おお~お前は満ではないか。そうか。

これを祓いに来たのか。

はよう。このおぞましいものを片付けてくれ」

「あぁ、これですか。これは術をかけた者の所に、

戻ってきたようですから、

この屋敷の者が片付ければよいと、

主が申しておりました。

術者でなければ無理だと」

「な、なんと? 」

自分達のいたずらを咎められ、

わたわたと動いていた体が止まった。

「私は忘れ物を取りに来ただけですので、

これで失礼いたします。

あ、そうそう。七福神様もここにはおられませんので」

「ま、待ってくれ。では、この悪霊はどうすればよいのじゃ。

われらは息もできずに事切れてしまうぞ」

その言葉に満は眉間にシワを寄せると、

「失礼ですが、神様ですよね。

これくらいで亡くなりませんよ。

ご自分達で祓われたら如何ですか」

と再び歩き出そうとした。

それを引き止めるように、神々が抱きつく。

「手を放していただけませんか。

主が待っていますので」

「そんなに冷たいことを言うものではないぞ。

我々がこんなにも懇願しているというに、

それでも見捨てて行くというのか? 

おぬしは鬼か」

「はい。私は鬼です」

そういったあと、床に崩れ落ちる神の姿を見て、

ため息をついた。

「主から息子をよこすと言われました」

「む、息子とな? 」

「はい。向井と申す 稀男まれおとこが参ります。

彼の者に助けを求めなさいと。

それまで耐え忍んでください。では、失礼いたします」

満はそれだけ言うと屋敷を出て行った。


向井達が天上界に張り付く悪霊を眺めていると、

中から満が歩いてきた。

「あれ、満? 」

アートンが声をかける。

「あっ、向井さん来てくださったんですね」

「どうも」

向井も頭を下げると、

「中の様子はどうですか? 

屋敷の中も悪霊がいるんですか? 」

と聞いた。

「大丈夫ですよ。ここは天上界ですから、

穢れは冥界で止まっているので、

せいぜいここにいる小さな黒い塊くらいです。

それもここでは穢れもある程度、

浄化されてしまうので、

これ以上大きくはなりませんよ」

満は周りの悪霊を見ながら笑った。

「とはいっても、大騒ぎでしょう? 」

アートンが笑うと、

「いい薬ですよ。あそこで騒いでいる者達は、

一部の神達にも嫌われていますからね」

と満もあきれ顔で話した。
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