『アンダーワールド・番外編』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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番外編 冥界

安達先生? 

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国会が始まれば、

捨て地から出なくてはならない議員の為に、

向井は狐も放っている。

捨て地で闘う議員の数はたかが知れているが、

冥界はそんな議員たちの為にも、

人知れず警護しているのだ。


そんな話に、

「どうせ操作されてる選挙なんですから、

先生達の移動もパフォーマンスでしょう。

それより私としては、

向井君が届けるあれの方が楽しみなんですよ~」

といってクフフと笑う冥王に、

向井はあきれ顔で笑った。



翌日、向井は安達と一緒に下界に下りた。

青の捨て地の商店街に向かいながら、

「今日は鰻を持っていくの? 」

安達も嬉しそうだ。

「本当は天然鰻がいいんですけど、

今は旬じゃないですからね。

それに最近は手に入れるのも大変ですから」

向井は店に着くと戸を開けた。

「あっ、いらっしゃい。待ってたよ」

鰻屋のご主人が調理場から出てきた。

「いつもすいません」

「何言ってんですか。うちの方こそ、

ご贔屓にしてもらって助かってます」

奥から息子さんも顔を出すと笑顔で言った。

「鰻のいい匂い~」

安達が嬉しそうに鼻を動かした。

その姿に御主人たちも笑うと、

「捨て地にも、

いい国産養殖場が残ってくれて助かったよ。

最近は黒地で鰻が食べられなくなったらしいからね」

「そうなんですか? 」

「なんかこの前の地震で新しくバリアができて、

消滅した人間もいるらしいんだよ」

向井は主人の話を黙って聞いていた。

下界ではみんな真実の壁をバリアと呼んでいる。

捨て地はそのバリアで守られているので、

国からの新たな法案を我慢していれば自由がある。

そう考える人達が増えていた。

大臣や中央人からの嫌がらせは、

情報を遮断してしまえばいいだけだ。

「あのバリアが、

どうやって現れたのかは知らねぇけど、

俺達としては安心して暮らせるから助かってるよ」

「そうそう。息子もこっちに来てのびのびしてるし、

俺もトラブルが少ないからストレスもないし、

ここに越して良かったよ」

息子さんも笑顔で言いながら、

「この前、喫茶店に行ったら牧野君がいて、

店に昼寝に来てるって黒谷君が笑ってたよ」

と注文分の袋を持ってきた。

「居心地がいいので入り浸ってるんですよ」

向井も苦笑すると手渡された袋を受け取った。

「今日も仕事終わりに喫茶店にいるかもしれませんね」

皆で笑っていると、

「そうだ。安達君にサインをもらおうと思ったんだ」

「サイン!? 」

安達が驚いて息子さんを見る。

「実はさ。この前喫茶店でお昼を食べたんだけど、

息子が気に入った絵本を買ってきたんだよ」

彼は店の奥から本を持ってくると安達に見せた。

「安達君の事、あーちゃんて呼んでるでしょう。

本名が瞬だって知らなくて、

うちの子と同じ名前だったんだね」

作者の名前がシュンになっていた。

「自分の好きな絵本があーちゃんの本と知って、

サインが欲しいらしいんだ」

「ええ~俺、先生じゃないし、恥ずかしいよ~」

赤くなる安達に、

「安達君は人気のクリエイターさんなんですよ」

と向井が説明した。

「この絵本のミニチュアは安達君の作品なんでしょ。

黒谷君に聞いて驚いちゃったよ。

うちの奥さんも気に入って、この前一つ買ってきたの。

リビングのキャビネットに飾ってあるよ」

「えっ? 嬉しい! でも、ちょっと恥ずかしい」

先日フンフが安達のミニチュアを本にした。

一つ一つテーマに沿った作品に、

安達が物語を添え、

販売を開始したところ問い合わせも多く驚いていた。


松田の家に行った時も、

「安達君の作品はあたたかみがあって、

この絵本を見てると気持ちが優しくなる」

と松田が本を見て褒めていたのを思い出す。

喫茶店に行った時に購入したと言っていた。

その時も興奮していたが、

今、目の前であたふたしながら本にサインする姿も、

昔の安達からは考えられない。

向井は笑顔で見ていた。
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