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番外編

お煎餅屋さん

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牧野達がお昼寝から起きだすと、

「そろそろ冥界に戻らないとね」

とアンが言った。

弥生と新田がチビを順番でトイレに連れて行き、

「お煎餅屋さん、行くんでしょ? 」

安達の言葉に、

「冥王がううるさいから、お土産に買って帰らなきゃね」

と笑いながらトリアも立ち上がった。

「俺は待ってるから」

ディッセが言い、キッチンで珈琲を淹れた。

「そうですね。大勢で行っても邪魔になっちゃうでしょうし、

私もここにいます」

「じゃあ、私も待ってる」

「でも、焼き立て食べたいから、

それは買ってきて」

佐久間と、弥生、アン、セーズ、坂下が、

ソファーに座ったまま向井達を見た。



お煎餅屋は喫茶店と駄菓子屋の間にあった。

午前中に通った時には人は少なかったが、

今は焼き立てを買って、

食べながら帰っていく人の姿が増えている。

香ばしい匂いに、

「美味しそうだよ~」

安達と牧野が店に走って行くのを、

向井達は笑いながら見ていた。

そのあとをチビ達も追っていく。

「転ぶわよ」

トリアが注意しながら早紀と走って行った。

「俺はザラメと醤油が好きなんだよね~」

店に並べられたお煎餅を見ていると、

「おや、牧野君じゃないの」

六十代の店の女性が声をかけてきた。

「久しぶり~俺さ~

このところアーケードに行ってなかったから、

ここに越したの知らなかったんだよ」

「こんにちは」

「あら、向井さんも。

みなさん、こっちに越してきたの? 」

「違うけど、そこの喫茶店の黒谷は、

親戚みたいなもんだから遊びに来たの」

牧野は笑うと、

「美味しそうな匂い~」

チビ達が上を向いて背伸びをした。

安達や新田、ティンも、

備長炭で一枚一枚手焼きされるお煎餅に、

夢中になって眺めていた。

「お前らもザラメ煎餅の方が甘いしいいか」

牧野はチビを見た後、

「向井達はどうする? 」

と振り返った。

「やっぱ醤油だよね~」

早紀とエハが焼いてるお煎餅を見ながら言った。

大災害でご主人が亡くなり、

当時高校生だった息子さんと、

なんとかお煎餅屋を続けて来たという。

今では息子さんが押し瓦で焼くお煎餅に、

お客さんは喜んで購入していくそうだ。

チビ達はガラスに入ったお煎餅が気になるようで、

不思議そうに眺めていた。

「昔はこうやってガラス瓶に入って、

量り売りのお店も多かったのよ」

トリアが説明していると、

「若いのに物知りね~」

店主の言葉に向井達が下を向いて笑った。

「あんたたち失礼ね」

文句を言うトリアを見て、

「おかきは量り売りで幾つか種類を頂きましょうか」

向井はそういうと注文した。

あとはザラメ煎餅と焼き立てのお醤油煎餅を購入し、

食べながら喫茶店に戻った。

「買ってきたよ~」

牧野が袋に入れてもらった焼き立てを、

テーブルの上に置いた。

向井は光るリングに、そっとキッチンへ向かった。

リビングでは、

「香ばしい~」

「食べたくなる匂いね」

弥生とアンが笑顔で袋からお煎餅を取り出した。

そんな彼らの姿を見た後、トリアは瓶を持って外に出て行った。
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