独り日和 ―春夏秋冬―

八雲翔

文字の大きさ
上 下
12 / 28

―12―

しおりを挟む
「結構天井高いから、俺が寝ても平気だね」

楽しそうなシュートに、

「気に入った? 」

「うん。本当に三万でいいの? 」

「いいわよ」

冬が笑った。

「シュートさんがここに住むと、

ちょっと得することもあるよ」

「なに? 」

耕太がドアから顔をのぞかせた。

「俺んち、向かいの喫茶店だろう。

母さんやばあちゃんが食事持ってきてくれるのよ」

「えっ? 嬉しい。俺、おふくろの味って分かんないんだよね」

「そうなの? 」

耕太が言った。

「ほら、親父の世話係って話しただろう。

通いのお手伝いさんが食事は作ってくれたけど、

毎日じゃないからコンビニ弁当で、

すましちゃうこともあったんだよね」

「へえ~そんな話したら、ばあちゃんたち喜んで作るよ」

耕太が笑った。

二人の楽しそうな会話を微笑んで冬が見ていると、

春と小春が走って部屋に入ってきた。

はしゃぐ様子に、

「こいつらもここで寝てたの? 」

シュートが聞いた。

「そうよ。私と一緒に寝てたんだもの」

「おっ、そうだ。こいつらのトイレ用意しなきゃ」

耕太が一階に下りて行くと、

納戸からトイレを持ってきて、

出窓横のデッドスペースに置いた。

「お前ら、覚えてるか? 

ここがトイレだからな」

耕太が二匹に声をかけた。

「俺の部屋は隣だから」

そういってシュートを呼ぶとドアを開けた。

「えっ? こっちにもロフト? 」

驚くシュートに、

「ここを作り替えてた時によく美幸ちゃん、

あ………この子の母親ね。

その子が遊びに来てたの。

それで美幸ちゃんの部屋に作ったのよ」

と冬が笑った。

「親子二代でこの部屋は使われてるの」

「へえ~由緒ある部屋なんだ」

シュートの笑顔に、

「こんなボロ屋に由緒なんかあるかよ」

「そのボロ屋を売らないでくれって、

泣いて頼んだのはどちらさまでしたっけ? 」

と冬が耕太を笑いながら見た。

いずれ耕太に残そうと思っているのは、

内緒にしてある。

耕太の家賃も家の修繕に使う以外は貯金してあるので、

いざという時の生活の足しにはなるだろう。

その事についても税理士と相談してある。

「ではそういう事で、二人で仲良く同棲………

あっ違った同居してください」

冬は笑うとリビングに戻った。


――――――――


それからしばらくしてシュートが引っ越しをしてきた。

「なに? 荷物それだけ? 」

耕太が驚いてデイバッグと、

小さめのキャリーバッグでやってきたシュートを見た。

「そりゃそうだよ。生活するのに手一杯なんだからさ。

余裕なんかないよ。

だから俺にとって冬さんは女神なんだよ~」

シュートが笑った。

冬は車から降りると、

「ここまでシュートくんの運転で来たから、

楽ちんだったわ」

と言った。

春と小春ももちろん一緒だ。

「帰りは俺が送って行こうか? 」

耕太が言うのを、

「大丈夫よ。近いんだから。

それに乗れなくなったら、ここに戻ってくるから」

と冬が笑った。

そのあと耕太に引っ張られ、

春と小春の散歩も兼ねて、

シュートは近所への挨拶と、

商店街を見に行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今日はパンティー日和♡

ピュア
ライト文芸
いろんなシュチュエーションのパンチラやパンモロが楽しめる短編集✨ おまけではパンティー評論家となった世界線の崇道鳴志(*聖女戦士ピュアレディーに登場するキャラ)による、今日のパンティーのコーナーもあるよ💕

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ
ライト文芸
〈あらすじ〉 ワケあり家族の日常譚……! これは暴走族「天翔」の総長を務める嶺川家の長男(17歳)と 妹の長女(4歳)が、仲間たちと過ごす日常を描いた物語──。 不良少年のお兄ちゃんが、浸すら幼女に振り回されながら、癒やし癒やされ、兄妹愛を育む日常系ストーリー。 ※他サイトでも投稿しています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...