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生い立ち編
5・金になるお年頃
しおりを挟むまた別のある時。
月の明るい夜。二人で水浴びを終えた時分にレクスが突然こんな事を言い出した。
「これからは別々に水浴びしないか」
「どうして? 時間の無駄を減らす為に一度にパッと終わらせた方が良くない?」
「それはそうだけど。でも、ええとその」
レクスはすっごく薄目で私の方を見る。
でも直ぐにパッと目をそらしてしまう。
「だってリコは女の子じゃないか!」
「うん?」
私は確かに女の子だ。ずっと前からずっとそう。
今更なに当たり前の事言ってるんだろう?
「それにオレだって男……の子、だし」
「? そうだね?」
「とにかくオレはリコの安全の為にオレ達は別々に水浴びした方が良いと思うんだ!」
「安全って交代で見張りしながら水浴びしようって事?」
「っそう。そーいうこと!」
「良く分かんないけど、レクスが言うならそうするよ。……何かちょっと寂しくなるね」
「そうだな。なあ、オレ達がもっと大人になったら、また一緒に入ろうな!」
「うん。でもずっと一緒だったから一人で入るの寂しいな。早く大人になれたら良いのに」
「っっそーゆーとこ! オレぜええってえ間違ってないからなぁ!」
「? 私、レクスの事信じてるよ。レクスは間違った事、しないと思う」
リコは心底不思議に思って首を傾げる。
レクスは耳まで真っ赤にしながら項垂れた。
もう私達は、なかなか悪くない生活をしていた。
村の人が何日も持ち帰っていない忘れ物とかをチマチマ拝借していった結果、色々と充実していったのだ。
村の人達的にはいつの間にかなくした物、それくらいに関心の低い、大切でない物なんだろうけど、私達にとっては生命線だ。
例えば古めの短剣。
着られなくなった古い服。
私達は背が伸びだし、体格も変わっていった。
新しい服なんて貰えないのに。
だからそれらは必要な物。
真新しい服なんて着られないけど、誰かが捨てたボロで体格に合う服を調達しないといけないのだ。
リコはせっせと育ちゆく二人分の服を繕い続けた。
レクスは剣の鍛錬を欠かさない。
身体を鍛えるのも絶対に怠らない。
まるで何かに備えるみたいに。
もう彼は簡単にウサギを狩るし、狼数匹なら蹴散らせる。
この辺りの魔物は最早彼の敵ではない。
レクスは大した事ではないみたいな顔をしているけど、普通にとんでもない事だと思う。
だって村の自警団の青年達だって、実戦経験なんてほとんどないとかそんなレベル。
村周辺の弱い魔物とはいえ、腐っても魔物。
魔力のない普通の狼とは訳が違う。
子供が相手するような存在じゃない。
そんな10かそこらだった頃。
ある日半泣きの姉が喚きながら、私の顔面に下着を投げつけてきた。
……血で赤く汚れている。
洗えという事らしいので裏の井戸で洗う。
姉は怪我でもしたのだろうか。
疑問は直ぐに解明した。
「おめでとう×××。これでもう立派な女性ね」
「いつでも嫁に行けるな」
「誰か良いお相手はいないの?」
「えへへ。ヒミツ~」
「いや目出度い」
「今日はご馳走だな」
「ママ張り切って作っちゃう」
「やった! ママのご馳走大好き」
「やだ可愛い子。ママ頑張っちゃうわよ~」
「今日はゴミの作るゴミを食べずにすむのか」
楽しそうな家族の語らい。
いっそ貰われ子だったら諦めもつくのに。
リコは父にも母にもそっくりな箇所があり、誰の目にも血は確実に繋がって見えた。
ただ見えない猫が見えるだけで、リコの家族はリコを異物と排除した。
「消えて邪魔」
厨から蹴り出され、リコが作りかけていた料理を頭からぶっ掛けられる。
母親は上機嫌で鼻歌交じりに夕食を作る。
リズミカルな包丁の音。
何かがコポコポと煮込まれていく音。
漂う美味しそうな夕食の匂い。
ママーと母親を呼ぶ声。
優しそうな「なあに?」と応える声。
ただ幸せな、普通の家族の団欒があった。
リコには得られぬものだった。
腹痛がして、下着が赤く汚れた数年後。
あの日の隔絶を思い出した。
祝福の声などある筈も無く、冷たい水で一人洗う。
ふと影が差し、そこには父が立っていた。
「もう金になるのか。なら早くそう言え」
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