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2章 オダ郡を一つにまとめる

90話 ナンバー家

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 オオタカキャッスルの城内で、呆然と死体の前で立ち尽くしている男は、ナンバー家の長男であり当主でもあるクアッドリオン・ナンバー。
 足元に転がっているのは、その弟のトリリオン・ナンバー。
 一体、何があったのか?
 話は少し遡る。

「弟たちみたいに殺されるのはごめんだしな。良し逃げよう」

 こう言って、逃げる用意をして食料いっぱいのカバンを背負うのは、ミリオン・ナンバー。
 ナンバー家の四男である。

「そこの若人よ。道を聞きたいのじゃが構わんかね?」

「えー。俺、忙しいから。そういうのは、無理」

「そんなこと言いなさんと。老い先、短い年寄りを助けると思うてな?」

「ちょっとマジで急いでるから。ジジイの相手をしてる暇なんてないんだよ!」

「そうか。残念じゃ」

「えっ?」

 何かがスッと首を切り裂いたかと思うと次の瞬間には、ミリオン・ナンバーの首がポトリと地面に転がっていた。
 この鮮やかな手並みこそ、ハンネス・フロレンスの職人技である。

「老い先、短いジジイの話は聞くものじゃて。フォッフォッフォッ」

「(弟たちもあの爺さんに?って、考えてももう遅いか。首切られてるわけだし。てか、もう既に、入り込んでるんだけど。トリリオン兄さん、何処が難攻不落なんだよ)」

 ミリオン・ナンバーは、こんなことを思いながら地面に首がゆっくりと落ちて行ったのである。
 ハンネス・フロレンスが立ち去った後、そこを通りかかった人が悲鳴をあげる。

「きゃー。く、首?ひ、人が人が死んでる。あわわわわ」

 この悲鳴を聞きつけて、やってきたビリオン・ナンバーは、驚愕の表情を浮かべる。

「み、ミリオン!?お前、何で!?く、首を斬られてる?おい、お前らこっちにこい曲者だ。探せミリオンを殺した奴を探せ」

 探せと言われても特徴すらわからない見えない敵である。
 兵士たちも困って、適当にあちこちに飛ぶが有力な情報など上がるはずもない。
 ビリオン・ナンバーは、ミリオン・ナンバーの側に転がっていた荷物から逃げようとしていたことを知り、まさか兄貴たちの中に通じている奴がいるのでは無いかと疑い、部屋に篭った。

「まさか、兄貴たちの中にサブローと通じている奴が?こうしちゃ居られねぇ。安全なのは、鍵のかかる自室だけだ。俺は、絶対に殺されねぇぞ。チクショー」

 しかし、ハンネス・フロレンスは、既に鍵を手に入れていた。
 何故なら、今ハンネス・フロレンスが化けているのは、ナンバー家、お抱えの執事である。

「んー。ゴホン。こんな感じの声であったな。良し」

 声の確認を終えたハンネス・フロレンスは、深呼吸をすると扉の奥にいるビリオン・ナンバーに声をかける。

「ビリオン坊ちゃん、温かいホットミルクをお持ちしました。一体、どうされたのです部屋に篭るなんて、爺にも話せませんか?」

「爺、ミリオンが死んだ。側の荷物には、食料が詰め込まれていたんだ。兄貴たちのどちらかがサブローと通じていて、殺したに決まってんだ」

「何と。そのようなことが。ビリオン坊ちゃんのことは、爺が守りますゆえ。先ずは、温かいホットミルクを飲んで、落ち着かれませ」

「爺、ありがとう。頂くよ。うぐっゴホッゴホッ。お前は誰だ?爺、じゃない。ゴホッゴホッ。喉が焼けるようだ。誰か。誰か」

「フォッフォッフォッ。爺といえどこういう時は他人から渡されたものは口にしないことじゃ。暗殺者が虎視眈々と狙っておるでな」

 喉を掻きむしりながら、血を吐き床をのたうちまわりながら絶命するビリオン・ナンバー。
 その場を後にしたハンネス・フロレンスは、あろうことかクアッドリオン・ナンバーに化けて、現場に戻り、側に居たトリリオン・ナンバーを問い詰める。

「ミリオンに続きビリオンまで、これはどういうことだトリリオン」

「兄者は、俺を疑うのか?いや、あの時からずっと俺のことを疑っていたのか。俺じゃ無いなら2人を殺したのは兄者ってことだ。何で、サブローと通じた!」

「成程、そういう筋書きか。お前らしいなトリリオン」

「俺は兄者に武も知恵も負けたことはない。死ね。!?お前は、兄者じゃない」

「今更、気付いても遅いわい」

 スッとハンネス・フロレンスの切先がトリリオン・ナンバーの首を掠めていた。

「カハッ(まさか内部に入り込み、傍目にはすぐにわからない変装までできる男がいるとは、これでは難攻不落と言われたこの城も形無しでは無いか。兄者、気をつけられよ。この男は危険だ)」

 掠めただけでもハンネス・フロレンスの剣を受けたら、その時点で死からは逃れられない。
 死神卿、ハンネス・フロレンスの別名である。
 そして、冒頭に戻る。

「ビリオンにトリリオン。一体、ここで何が。ミリオンは無事か?ミリオン、ミリオン」

「クアッドリオン兄さん、俺はここだよ」

「良かった無事だったのだな。死ね!」

 キーンと2人の剣が火花を散らす。

「フォッフォッフォッ。まさか見破られるとは思わんかったわい」

「貴様が弟たちを闇討ちした下手人だな」

「御明察じゃ。滅多に名乗りはしないのじゃが。ワシの変装を見破った貴殿に敬意を称して、名乗らせてもらおうかのぉ。ハンネス・フロレンスと申す。クアッドリオン・ナンバーよ。貴殿の首を貰う者の名じゃ」

「弟たちの仇、取らせてもらうぞハンネス。ガハッ」

「残念じゃがワシは正々堂々とは戦わんよ」

「ぐふぅ。毒が塗られた投げナイフとは」

「ほぉ。まだ話せるか。中々、頑張るでは無いか」

「貴様を道連れにせねば、弟たちに顔向けできん!ゴホッ。ゴホッ。ハァ。ハァ。この身が砕けようとも、道連れに」

 スッと剣をクアッドリオン・ナンバーの首に這わせるハンネス・フロレンス。

「フォッフォッフォッ。ワシに勝とうなんざ百万年早いわい」

 クアッドリオン・ナンバーの首がポトリと落ちる。

「(口惜しい。このような残虐な手で殺されようとは。ガロリング卿、この仇は必ず討ってくれ)」

 こうして、自称難攻不落のオオタカキャッスルは
ハンネス・フロレンスによって落とされたのである。
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