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2章 オダ郡を一つにまとめる

80話 モンテロ・ハルトという男

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 こんなことがあっていいはずがない。
 何処で、間違えた?
 ショバタを落としたまでは、順調だったはずだ。
 何故、何故、何故、今滅亡の危機を迎えねばならん。
 俺の父は、貧しい人間に代金を受け取らず商品を施すような偽善商人だった。
 お陰で、家はずっと貧しいままで、母は病となって碌な治療も受けられず亡くなった。
 俺は、絶対父のようにはならないと決め。
 仕入れた商品を金持ち連中に2倍の値段で売り付け、縋り付いてくる貧しい者どもを足蹴にして、成り上がった。
 そんな俺に好機が訪れたのは、領主であったロルフ様が金の管理を任せられる人間を探していると聞いた時であった。
 俺は、これに飛びつき、ロルフ様のために、奴隷の管理費、傭兵の代金の捻出、下々のものから搾り取れるだけ搾り取って国庫を潤し、その功績が認められて、貴族の最高位公爵家を賜ることとなった。
 父を超えた瞬間だ。
 それが何故、何故、こんなガキに追い詰められなきゃならんのだ。

「モンテロ様、外の弓櫓が制圧されたであります。城壁の兵たちも持ち場を離れて逃げ出したであります。安全な南門から逃げ出すであります」

「その安全な南門の弓兵が逃げ出したのであろう。もはや逃げ道など。一つだけ。一つだけ。手があるか」

 モンテロ・ハルトは、そういうと城外に出て、城壁の向こうにまで聞こえるような大きな声でサブロー・ハインリッヒに呼びかける。

「サブロー・ハインリッヒ、聞こえるか!モンテロ・ハルトは、お前との一騎討ちを所望する!」

「なんて、大きな声だ。マリー、向こうに聞こえるようにできる魔法はあるか?」

「拡声魔法で声を大きくできますが。若様、よからぬことを考えてませんよね?」

「安心せよ」

「安心できないから言ってるんですが。ハァ。どうぞ」

 サブロー・ハインリッヒから返答は無いか。
 当然か。
 三方向は燃え、統率の取れなくなった兵は南門に殺到。
 その後の音沙汰は無し。
 これは、十中八九、罠だ。
 商人の時は、人を蹴落とすために徹底的に弱味を調べ上げた俺がガキだと油断した罰か。

「モンテロ・ハルト、聞こえるか!起死回生の一打に出ようとしたことは評価する。だがワシが一騎討ちを受ける利点は、全く無い!そのような一方的な交渉を飲むことなどできん。潔く、外に出て、縄にかかり、沙汰を待つことをお勧めする」

 フッ。
 当然の断り文句だ。
 こちらにしか得の無い一方的な一騎討ちの申し込みだからな。
 だが、諦めるわけにはいかん。

「サブロー・ハインリッヒよ!それは至極当然の答えだ。この際、代理でも構わん!俺の要求は、たった一つ。俺が勝った場合は、身の保証を約束し、逃走を見送ること。これだけである!」

「モンテロ・ハルトよ。潔く捕まる気は無いと。そういうことだな。だが、お前の兵たちは既に半壊している。このまま力押しで攻めても良いのだぞ」

 やはり、無理があったか。
 いつの間にか側に居た兵も誰1人居ない。
 皆、南門から逃げ出したのだろう。
 何か、向こうにも得となる何かを提示しなければ。

「サブロー・ハインリッヒよ!一騎討ちを受ける場合のそちらの要求は何だ!」

「モンテロ・ハルト、そんなものは無い!この状況になった時点で、お前の詰みだ。俺は、この初戦で、傲慢な貴族共に、許しは乞えないことを示す。そのためには、現公爵のお前の首に価値がある!お前の首にな!」

 ん?
 何故、繰り返した?
 大事なことだから繰り返したのか?
 俺の首に価値がある?
 それを引き合いに出せば、一騎討ちを受けるという誘導か。
 つくづく、恐ろしい男だ。
 こうして、対峙してわかった。
 このガキは、まぐれでナバルとタルカの連合軍を叩き潰したのでは無い。
 仕える相手を間違えたのは、俺の方か。
 いや、俺のやってきた行いを知れば、迎え入れられることはない。
 初めから盤面は、詰んでいたということか。
 なら、俺が取るべき選択は。

「この首が欲しくば、一騎討ちを受けよ!サブロー・ハインリッヒ!そうせねば、この首は、この炎で燃やし尽くしてくれるわ!」

 これが正解のはずだ。

「モンテロ・ハルト!お前の一騎討ちをお受けする」

「若様!!!何を考えて!?」

「マリーよ。ここでアイツの首を逃すわけにはいかん。ワシを信じよ」

「何言ってるんですか若様。若様はまだ8歳、模擬戦ならまだしも実戦で一騎討ちをするなんて、許可できません!どうしてもやるというのならこの私が!」

「やめよマリー。若はこうなったら聞かん。若の名を上がる一歩に、モンテロ・ハルトを利用するということですな?」

「あぁロー爺、モンテロの兵は1人残らず殲滅に成功した。アイツを俺が討ち取ったとなれば、向こうの陣形に動揺が走ろう。この後の侵攻戦に弾みがつく。安心せよ。ロー爺に鍛えられた。それに」

「いえ、若。何も心配などしてませんよ俺は。若の剣の腕は、初めからまるで手足のように奮っておられた。御武運を」

 サブロー・ハインリッヒが歩みを進める。
 マリーとローレイヴァンドは、このことで言い合いを続ける。

「ロー様!どうしてお止めにならないのです!ルミナ、最悪の場合は、若様にバレないように暗殺を!」

「あいさ」

「よさんかマリー!それにルミナよ。お前はまだ人間に化けるのが得意では無いのだ。安請け合いをするな!若を信じよ」

「信じていても8歳の若様に一騎討ちさせるなどおかしいでしょう!」

「年齢が問題か?なら若が16歳なら良いのか?違うであろう!心配する気持ちは皆、同じだ。だが、これも経験、それに若の初めての一騎討ちの相手として、申し分ない相手なのだモンテロは。奴は、根っからの武人では無い。元商人からの成り上がり、剣こそ使えるが技量は無い。相手がマーガレット様なら俺とて止めていた」

「ですが!若様が戦う必要など。これでは、何のための護衛か」

「マリーは、よくやってくれている。それは俺も認める。だがな、時には主君を信じることも臣下の大事な務めなのだ」

 月明かりとかがり火に照らされた場所で、サブロー・ハインリッヒとモンテロ・ハルトによる一騎討ちが始まろうとしていた。
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