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2章 オダ郡を一つにまとめる

61話 2日目の終わりの挨拶

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 マリーの超絶絶技を目にして、観客の鳴り止まない歓声を受けながらサブロー・ハインリッヒが2日目の祭りの終わりの挨拶へと壇上に登る。

「皆の鳴り止まぬ歓声、気持ちはよくわかる。だが、ここで2日目の終わりの挨拶をさせてもらおう。2日目の結果だが、優勝は、スナイプ・ハンターとする。その後、非公式ながらマリーとのエキシビションは、大いに領民たちを沸かせてくれた。今一度、2人に盛大な拍手を送りたい。両名とも大義であった。空にいる父にもよく轟いたであろう。ワシが父を弔う祭りも明日が最後となる。勿論、定期開催して欲しいなどと思っている領民がいることも承知の上だが。この祭りの間、停戦を飲んでくれているワシのことをよく思わない者たちとの戦いが控えている。領民には迷惑をかけることとなること予め謝罪させていただく。申し訳なかった」

 サブロー・ハインリッヒは、領民に向かって、深々と頭を下げる。

「水臭いこと言ってんじゃねぇぞ!領主様はよ。俺たちの暮らしが良くなるようにしてくれたじゃねぇか。りんごなんて、手に取りやすくなった。だろ皆」

「そうですわ。女性の地位の向上にも力を尽くしてくださいました。コスメも手に入れやすくなりましたし。絶対に勝ってくださいまし」

「昔も今も息子を戦争に駆り出されるのは、ごめん被りたいが、新しい領主様の築く国なら賭けてみたいって、思ってる。祭りに参加してくれている奴らも皆そうなんじゃないか?」

「サブロー様が御心を痛める必要はないでごわす。誰の目から見ても明らかに皆の暮らしが良くなっていることを許容できない一部の貴族に好き勝手させるわけには行かないでごわす」

 口々にかけられる温かい言葉の数々に、サブロー・ハインリッヒは、涙を溢していた。
 魔王などと呼ばれているが織田信長という男は、元来、家族愛に溢れ、領民に慕われる情の深い男なのだ。
 だがそんな弱い姿を領民に見せるわけにはいかない。
 誰にも屈さず古きものでも悪いと思ったら壊して突き進む強い領主像を見せねば、溢れる涙を拭うと前を向いて、挨拶に戻る。

「皆の声援、真に痛み入る。いっときの平穏は明日までかも知れぬが、皆と共にワシも苦労を共にすることを約束しよう。ワシは、ワシを信じる領民を守り守護するオダの守護神じゃ。今日も大義であった。領民の皆もゆっくりと休むが良い」

 大きな歓声の後、領民たちが興奮冷めやらぬまま、酒場に直行したのは言うまでもない。

「領民の心を掴む見事な領主像でした。敵として、これほどの脅威と相対すること、楽しみでもあり恐怖でもあります」

「うぬにそう思ってもらえたのなら実りはあったと言えよう。カイロ卿」

「それでは失礼します。明日の祭りの後、少し御時間を頂きたい、2人だけで話がしたいことが」

 後半の言葉は、サブロー・ハインリッヒにだけ聞こえるようにルルーニ・カイロが囁いた。

「わかった。敵方と2人きりでの話を認めてもらえるかはわからぬが、善処すると約束しよう」

「その言葉だけで十分です」

 そう言って、笑顔を浮かべるとルルーニ・カイロは、宿へと戻って行った。

「マリーよ。そう睨むでない」

「若様、先程の話ですが許可できませんよ」

「ワシのことが心配か?」

「当然だ。我々、亜人としてもマリエル様がお認めになった人間の小僧に何かあっては、困るのだ」

 声をかけられた方を見ると金髪碧眼で耳の尖った男性が居た。

「コイツがマリーの言っていた。王都の偵察を頼んだというエルフか?」

「マリエル様がお認めしていなければ、俺のことをコイツなどと言う不遜な男など捻り潰すのだがな」

「やめなさい。ノール」

「そう怒らないでくださいマリエル様。心得ておりますから」

「いえ、上下関係は、はっきりさせておくべきよ。ノール、謝りなさい」

「申し訳ございませんでした」

「いや気にするな。ところで、さっきからマリーのことをマリエルなどとよくわからん名前で呼んでいるが」

「私の本名です。マリエル=クインシス=ノイトラーセ。ここに移り住んできた皇族の名残らしいです。長ったらしいですから若様には今まで通りマリーと呼んでくださいませ」

「無論、今更変えるつもりなどない。そうか、由緒正しき家の出であったか」

「えぇ。だから簡単に人間社会に溶け込めたのですよ。マーガレット様もよくしてくださいましたし。だから、余計に若様と敵対する道を選んだことが許せないのです」

「そう目くじらを立てるな。母には母の譲れぬものがあるだけのこと」

「それにしてもノイトラーセと聞いて、全く驚かないとは。俺たちが移り住む前の大陸で他の者が聞けば、縮み上がる名前なのだがな」

「それは、失礼した。生憎、別の大陸のことは全く資料に書かれていなかったのでな。亜人として、エルフとドワーフと獣人の記述があったぐらいのものだ」

「成程、それもせんなきことだ。マリエル様、王都は暫く動きはないと判断しました。俺はまた警戒に当たります」

「えぇ、お願いねノール。不審な動きをしたものは、逐一報告を」

「御意」

 スッと音もなく消えるのを見て、笑うサブロー・ハインリッヒ。

「エルフとやらは索敵に向いているのでないか。忍者のようにな」

「忍者というのがどんなものか知りませんが、私達は自然の加護を受けていますから気配を消したり、素早く移動するのは、得意なんですよ」

「であるか」

 エルフは何れ作るつもりであった情報収集専門の部隊の候補に真っ先に入れておくべきだな。
 破壊工作に潜入などが必要になる機会もあるかもしれんからな。

「クシュン」

「若様、夜は冷えます。もう中にお戻りを」

「あぁ、続きは中で話すとしよう」

 中へと戻り、2日目の祭りでのことを話し合うのだった。
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