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2章 オダ郡を一つにまとめる
27話 領主不在
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サブローを足止めしようとした門番の兵士が突然泡を吹いて倒れたと聞きやってきた兵士は現状を見て、何がどうすればこうなるのか首を傾げていた。
「すまない。ワシは、ゴホン。俺は、オダ郡の領主であったロルフ,ハインリッヒが嫡男、サブロー・ハインリッヒと言う。この度は陛下に正式にオダ郡の領主に任命するとのことで、王都キュートスクへと向かっている。これがその招聘令状だ」
「これは御丁寧に拝見いたします。ふむふむ。確かに陛下の招聘令状のようです。ハインリッヒ殿をこのようなことに巻き込んでしまい申し訳ありませんでした。後は任せてお通りください」
どうやら話のわかる奴もいるようだな。
しかし、この男だけがデイル・マルと懇意にしていたとしたいのか?
はたまた、デイル・マルの息の掛かった者がこの男だけか?
これだけで判断を下すのは、難しいか。
「いや、良いのだ。目の前で倒れられては、こちらもほっとけなかったのでな。では、後はお任せするとしよう」
「お任せください。ここから2、3日もすればキュートスクへ辿り着くでしょう。またお帰りの際にこの不手際を起こした者では無く私が対処しましょう」
一人称が私?
奇妙な違和感だが声も少し男にしては高い気がするな。
いや、そういうので判断するのは良くないな。
しかし、ワシの住む日の本では、女は家庭を守り、男は戦に出るのが基本だった。
中には、西国の立花の娘や竹千代《たけちよ》に過ぎたる家臣などと呼ばれておった男の娘やお家復興のために女城主となった武士もおるが。
ここで、説明しよう。
西国とは西にある国を指し、豊後の国、現在の大分県を治めていた大友氏の家臣で戸次 鑑連、別名を立花道雪の娘として、産まれた立花誾千代のことを指し、後継者として育てられ僅か7歳で女城主となったとされる傑物である。
竹千代とは、徳川家康のことであり、信長は幼い頃から人質として付き合いがあったため公の場以外では幼名の竹千代、三郎様とお互い呼び合っていた。
その家臣で、ずっと側にて、徳川家康のことを守った東国随一の猛将、本多忠勝の娘、小松姫に女らしさよりも武人として身を守る術を徹底的に教えたとされる。
お家復興のために女城主となったのは、徳川家康に仕えた井伊直虎のことを指し、女城主として、立派に務めを果たし、世話をした井伊直政は、後に徳川四天王と称されるまでの信頼を勝ち取り、お家再興を果たしたのだが織田信長が本能寺の変で亡くなった3ヶ月後に病にて、この世を去っている。
サブローは、3人のことを思い出しながら女性でありながら戦場で大成しそうなものは、そのぐらいだと。
いかに女性が重い鎧を着て、戦場にて戦うのが難しいかがわかっているからこそ、この目の前の兵士は努力したのだろうと。
そういう人間は報われるべきだ。
「うぬの名は?」
「私ですか?名乗る程の名前では」
「名前を書かねば帰りも対応してもらえないであろう」
「確かにそうですね。カトリー、ゴホン。カイトと言います」
カトリーの後、咄嗟に名前を変えたあたり、女性ということを隠しているのだろう。
そのことを聞くのは無粋であろう。
「では、カイトよ。感謝する。これで、遅れることなく王都に着けよう。帰りもまた世話になる」
「はい。承知しました」
サブローは、頭を下げると王都を目指して、また進み出すのだった。
カイトは、ホッと胸を撫で下ろすと、陛下の招聘令状を見ても無視した兵士を横目でチラリと見て、ため息を吐く。
「急に倒れてくれたのは幸いでした。この男が明らかに通せんぼしていたのは、わかります。急にタルカ郡からやってきて、居座っていたのですから。それがまさか陛下の招聘令状を持っている別の郡の領主様の足止めだったなんて、大事になるのは防げました。私が女と知っても側に置いてくださっているマリアンヌ姫様に被害が及ぶのは宜しくありません。ここは、酒を飲みすぎていたとして処理しましょう」
そう判断を下して、礼拝の時間となり教会へとやってきたカイトを12ぐらいの歳の子供が手に沢山の花を持って、やってきた。
「カトリーヌねぇちゃん!見てみて、お花摘んだんだ!」
「まぁ、綺麗ね。ってもう、何度言ったらわかるのよカイト!兵士の兵装の時は、何処に目があるかわからないから本名で呼ばないでって言ったでしょ」
「だって、俺の名前勝手に借りてるのは、ねぇちゃんじゃんか!」
「仕方ないじゃない。こうでもしないと女じゃ兵士には、なれないんだから。それよりマリアンヌ様は?」
「姫様なら今頃皆にもみくちゃにされてるんじゃないかな」
「もう。このマリーカ郡を治める領主の御令嬢様なんですよ。全く」
礼拝堂の奥の中庭に出る扉が開いて、金髪の巻き髪で真っ白な服を着た聖女のような女性が言葉を発する。
「うふふ。カトリーヌ、良いのですよ。子供達と遊ぶのは楽しいので、それよりもあの厄介な男の兵士は、問題ありませんでしたか?」
「問題大アリです。招聘令状を持って、通行を求めたオダ郡のサブロー・ハインリッヒ殿を足止めして、困らせていました。急に倒れたそうなので、事なきを得ましたが」
「そうでしたか。カトリーヌにもご迷惑をおかけしましたね。私が出れれば良かったのですが。対応御苦労様でした。全く父にも困ったものですね」
「姫様が出ていれば、もっと話がややこしくなっていたかも知れません。これで良かったかと。帰りもまた訪れるそうなので、その時に誠心誠意お詫びすれば良いかと」
「そうですね。機会があればそうしましょう」
子供達が次々にやってきて、もうお話は終わった、礼拝の時間だよとのことなので、カトリーヌとマリアンヌは話を終えて、礼拝へと向かう。
その2人の出立は、聖女を守る騎士のように見えるのであった。
「すまない。ワシは、ゴホン。俺は、オダ郡の領主であったロルフ,ハインリッヒが嫡男、サブロー・ハインリッヒと言う。この度は陛下に正式にオダ郡の領主に任命するとのことで、王都キュートスクへと向かっている。これがその招聘令状だ」
「これは御丁寧に拝見いたします。ふむふむ。確かに陛下の招聘令状のようです。ハインリッヒ殿をこのようなことに巻き込んでしまい申し訳ありませんでした。後は任せてお通りください」
どうやら話のわかる奴もいるようだな。
しかし、この男だけがデイル・マルと懇意にしていたとしたいのか?
はたまた、デイル・マルの息の掛かった者がこの男だけか?
これだけで判断を下すのは、難しいか。
「いや、良いのだ。目の前で倒れられては、こちらもほっとけなかったのでな。では、後はお任せするとしよう」
「お任せください。ここから2、3日もすればキュートスクへ辿り着くでしょう。またお帰りの際にこの不手際を起こした者では無く私が対処しましょう」
一人称が私?
奇妙な違和感だが声も少し男にしては高い気がするな。
いや、そういうので判断するのは良くないな。
しかし、ワシの住む日の本では、女は家庭を守り、男は戦に出るのが基本だった。
中には、西国の立花の娘や竹千代《たけちよ》に過ぎたる家臣などと呼ばれておった男の娘やお家復興のために女城主となった武士もおるが。
ここで、説明しよう。
西国とは西にある国を指し、豊後の国、現在の大分県を治めていた大友氏の家臣で戸次 鑑連、別名を立花道雪の娘として、産まれた立花誾千代のことを指し、後継者として育てられ僅か7歳で女城主となったとされる傑物である。
竹千代とは、徳川家康のことであり、信長は幼い頃から人質として付き合いがあったため公の場以外では幼名の竹千代、三郎様とお互い呼び合っていた。
その家臣で、ずっと側にて、徳川家康のことを守った東国随一の猛将、本多忠勝の娘、小松姫に女らしさよりも武人として身を守る術を徹底的に教えたとされる。
お家復興のために女城主となったのは、徳川家康に仕えた井伊直虎のことを指し、女城主として、立派に務めを果たし、世話をした井伊直政は、後に徳川四天王と称されるまでの信頼を勝ち取り、お家再興を果たしたのだが織田信長が本能寺の変で亡くなった3ヶ月後に病にて、この世を去っている。
サブローは、3人のことを思い出しながら女性でありながら戦場で大成しそうなものは、そのぐらいだと。
いかに女性が重い鎧を着て、戦場にて戦うのが難しいかがわかっているからこそ、この目の前の兵士は努力したのだろうと。
そういう人間は報われるべきだ。
「うぬの名は?」
「私ですか?名乗る程の名前では」
「名前を書かねば帰りも対応してもらえないであろう」
「確かにそうですね。カトリー、ゴホン。カイトと言います」
カトリーの後、咄嗟に名前を変えたあたり、女性ということを隠しているのだろう。
そのことを聞くのは無粋であろう。
「では、カイトよ。感謝する。これで、遅れることなく王都に着けよう。帰りもまた世話になる」
「はい。承知しました」
サブローは、頭を下げると王都を目指して、また進み出すのだった。
カイトは、ホッと胸を撫で下ろすと、陛下の招聘令状を見ても無視した兵士を横目でチラリと見て、ため息を吐く。
「急に倒れてくれたのは幸いでした。この男が明らかに通せんぼしていたのは、わかります。急にタルカ郡からやってきて、居座っていたのですから。それがまさか陛下の招聘令状を持っている別の郡の領主様の足止めだったなんて、大事になるのは防げました。私が女と知っても側に置いてくださっているマリアンヌ姫様に被害が及ぶのは宜しくありません。ここは、酒を飲みすぎていたとして処理しましょう」
そう判断を下して、礼拝の時間となり教会へとやってきたカイトを12ぐらいの歳の子供が手に沢山の花を持って、やってきた。
「カトリーヌねぇちゃん!見てみて、お花摘んだんだ!」
「まぁ、綺麗ね。ってもう、何度言ったらわかるのよカイト!兵士の兵装の時は、何処に目があるかわからないから本名で呼ばないでって言ったでしょ」
「だって、俺の名前勝手に借りてるのは、ねぇちゃんじゃんか!」
「仕方ないじゃない。こうでもしないと女じゃ兵士には、なれないんだから。それよりマリアンヌ様は?」
「姫様なら今頃皆にもみくちゃにされてるんじゃないかな」
「もう。このマリーカ郡を治める領主の御令嬢様なんですよ。全く」
礼拝堂の奥の中庭に出る扉が開いて、金髪の巻き髪で真っ白な服を着た聖女のような女性が言葉を発する。
「うふふ。カトリーヌ、良いのですよ。子供達と遊ぶのは楽しいので、それよりもあの厄介な男の兵士は、問題ありませんでしたか?」
「問題大アリです。招聘令状を持って、通行を求めたオダ郡のサブロー・ハインリッヒ殿を足止めして、困らせていました。急に倒れたそうなので、事なきを得ましたが」
「そうでしたか。カトリーヌにもご迷惑をおかけしましたね。私が出れれば良かったのですが。対応御苦労様でした。全く父にも困ったものですね」
「姫様が出ていれば、もっと話がややこしくなっていたかも知れません。これで良かったかと。帰りもまた訪れるそうなので、その時に誠心誠意お詫びすれば良いかと」
「そうですね。機会があればそうしましょう」
子供達が次々にやってきて、もうお話は終わった、礼拝の時間だよとのことなので、カトリーヌとマリアンヌは話を終えて、礼拝へと向かう。
その2人の出立は、聖女を守る騎士のように見えるのであった。
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