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1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

23話 ハザマオカの戦い(後編)

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 罠を見破って、下の道を通ったことに笑っているサブローの元にローがやってくる。

「若、こちらは終わりましたぞ」

「若様、さっきからずっと笑っているんですよ。ロー様からも何か言ってくださいよ」

「これが笑わずにいられるか。あの者、敵であることが惜しいな」

 サブローの言葉でローが眼下を見下ろす。

「まるで新しいおもちゃを見つけたようですな若。どれどれ、俺も見てみるとしよう。!?マッシュか!あやつが来ていてどうしてあのような大馬鹿者が兵を?」

「ん?ロー爺、やけに親しいが、あの者と面識があるのか?」

「あの男は、マッシュ・キノッコ将軍、アイランド公国の将軍の1人でナバル郡を治めるドレッド・ベアに仕えておる男ですが戦に関しては、並々ならぬ嗅覚と勘で、数々の戦を戦い抜いた人格者ですな」

「成程な。だが、そのような人間を無駄遣いするとは、勿体無いとは思わんかロー爺よ」

「ハハハ。まさか若、マッシュを捕らえよと?」

「無論だ。説得はできるかロー爺?」

「確かにここで終わるには惜しい男だ。確約はできかねるが若よ。行って参る」

「頼んだぞ」

 ローは、マッシュがやってくる道の終着地で待ち受けるため進軍した。

「バッカの奴め。生き急いだか。この軍を率いた責任を果たさねばならんな」

「奴らは、マッシュ様の再三にも渡る注意を無視し続けたのです。責任を果たす必要など」

「ガハハ。ありがとう。お前たちを巻き込もうとしている哀れな将軍を許せ」

「いえ、我らはマッシュ様を信じております。ここからでも敵の総大将であるサブロー・ハインリッヒを討つことができれば」

「討つ必要があると思うか?あの少年は、ここに書かれている陛下の御言葉を全て飲むと言ったのだ。それに、ここにはアイツの匂いがするからな。ガハハ。もう何年も戦場で見かけんからすっかり死んだと思っておったがな」

「それは失礼した。久しいな。マッシュよ」

「ロー。いや、レイヴァンド将軍よ。久しいな。良い主君に出会えたようで何よりだ。ガハハ」

「ローで良いマッシュよ。お前は本当に今のままで良いと考えているのか?お前も奴隷たちの扱いには思うところがあると申しておったではないか!」

 少し考えるそぶりをするマッシュは、やがて口を開く。

「ふむぅ。陛下も我が主もこのままでは近い将来、奴隷たちに反乱を起こされるのは目に見えている。だが、それはロー、お前の主君サブロー・ハインリッヒとしても同じであろう」

「それはどうであろう。若は、3歳の時に奴隷たちに宣言した。今より良い未来を作ってやるとな。それを聞いた奴隷たちは、皆、こぞって若の兵となっている。此度こそ、強行軍であったが、若が呼びかけていれば、千を超える兵が集まったであろう」

「ガハハ。そうかより良い未来か。良い言葉だな。だが、貴族どもがそれを許さないだろう」

「確かにだが若なら貴族にも切り込んで行くだろう。そんな若だからこそ。支えてやりたいのだ」

「ガハハ。お前がそこまで惚れるか。この建造物も見事、バッカだけでなくこんなのを知らないものからすれば、皆嵌るだろう。全く、末恐ろしい少年よ」

「そんな若から、マッシュに伝言だ。支えてくれとな」

「ガハハ。戦場で敵を勧誘するか。全く面白い男だ。興味本位で聞いておこう。俺を勧誘しようと考えた理由は?」

「それは若にしかわからぬ」

「そうか。部下たちには手を出さぬことを約束してくれるか?」

「マッシュ様、何を?」

「ローを相手にお前たちでは勝てぬからな。俺が相手をするしかないのだ。そして、俺相手にローも手加減などできぬ。万が一の場合、お前たちの身を案じるのは、悪いことではなかろう」

「マッシュよ。若に仕える気は」

 マッシュを後ろから殺そうとするデイルが目に入ったローは、持っていた槍を投げ、その防御に姿勢を崩され、マッシュも振り返り距離を取る。

「ぐっ。ヒヒッ。使えない駒も役に立つものですねぇ。キノッコ殿をここで殺せばナバル郡も取れたのですが、まぁ良いでしょう。ここまで来れれば、千人相手にたった2百でなす術も無いでしょうからねぇ。ヒヒッ。所詮、ガキの浅知恵ですよぉ。こういうのはねぇ。切り捨てられる方が強いんですよぉ」

「全く、舐められたものだな。マリーよ。作戦変更ぞ。タルカ郡の兵を皆殺しにせよ!」

「かしこまりました若様」

 異変を感じたサブローがマリーを連れ、姿を現す。

「これはこれは、そんなドジそうな使用人を連れて、現れるなんて、甘ちゃん坊やですねぇ。ヒヒッ。あの子供が陛下に対して、無礼を働いた子供ですよぉ。皆の者、殺しちゃってくださいねぇ。ヒヒッ」

 デイルの命を受けて、サブローに向かってくる兵の首が次々に吹き飛ぶ。

「若様に手を出す者は許しませんよ」

 次々に首が吹き飛ぶのを見てディルは混乱に陥り、形勢の不利に体勢を整えるため退こうとする。

「何が起こった!?こんな馬鹿なことがあるはずが!?ヒィッ。一時撤退だ!」

「逃しません!」

 デイルの命令で反転した兵たちの首も次々と吹き飛び鮮血が噴き出し、デイルの懐から書状が風に攫われて飛んでいく。

「馬鹿な!?どうして、懐から勝手に書状が!?アレを相手に渡すわけには、まさか魔法か!?このガキ、マジカル王国に寝返ったな!」

「さて、確かにマジカル王国からの使者が来て、手を貸すなどと言ったが丁重にお断りした。風の悪戯であろう」

「そのようなことがあるわけがないんですよぉ。この事を陛下に報告したら次こそお前は終わりだ!最後に勝つのは、この私だ!1人でも生き延びてやる!」

 この言葉の通り、ディルは1人だけ逃げ切ったのではなくサブローの次の策のため敢えて逃がされたのだ。

「逃して良いのか少年よ。いやサブロー・ハインリッヒ殿か」

「構わぬ。これで、タルカ郡を取る大義は得られよう。それにしてもうぬがマッシュ・キノッコ殿か、プクク。ハッハッハッハ。その頭、まるできのこでは無いか。良いワシは面白い者が好きじゃ!」

「笑われたのは初めてだ。ガハハ。しかし、助けられたのも事実。話ぐらいはお聞きするとしよう」

「そうか。では、我が館へ案内しよう。ロー爺、任せたぞ」

 ローがマッシュを伴い、館へと先に案内する。サブローは、振り返りマリーに確認する。

「マリー、書状は確保したか?」

「はい若様。こちらに」

「良し。やはりな。誰が見ても明らかに筆跡が違うな。せめて、真似るなどするべきであろう。浅知恵はどちらであろうな」

「若様、それでは」

「うむ。恐らく一つ目と二つ目は陛下の筆跡であろう。まぁ勝手に就任して挨拶する余裕もなかった。一度、王城とやらに向かわねばならんな。まぁ、ちょうど良い手土産もあることだ」

「若様、また顔がニヤけていますよ」

「これが笑わずにいられようか。餌が向こうからやってきたのだからな」

「全く、若様は恐ろしいですね」

 サブローがこの場でデイルを殺さなかったのは明白である。この書状を利用して、陛下からタルカ郡の征伐という大義名分を得るためである。
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