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1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

5話 模擬戦の決着

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 山の上で踏ん反り返っていた士族たちの元にサブローがマリーと共に現れる。

「ギャハハ。大馬鹿者1人でやってくるとは、ここで終わりだな」

「なんと!?ここにもまだ兵が!?マリーよ。逃げるのじゃ」

「逃げても無駄だ。その様子だと生き残ったのは、お前1人だろうからな。これで、流石に大馬鹿者のお前さんでもわかっただろ。奴隷のクズどもでは、士族に勝てねぇってな。安心してくださいよ。坊ちゃんのことは何も言いませんから。その代わり、便宜を図ってくださいよ。追うぞ、野郎ども」

 サブローは、丘にマリーに肩車してもらった自分1人だけが辿り着いたと思わせ、丘の上の奴らを下に釣った。

 その隙に左右から登らせた部隊によって、挟撃させたのである。

「全く愚かじゃな。お前さんら士族連中なら下で全員伸びておる」

「なんだと!?奴隷どもにアイツらが負けるわけねぇだろ。テメェ、何しやがった!それに、その女、足が早すぎるだろ。ハァハァハァ。全然追いつけねぇ」

「脚力には自信があるだけです!そんな化け物を見る目で見ないでください。若様のお世話は大変なんですから」

「ん?マリーよ。ワシのせいか?」

「何を今更、若様のせいに決まってます。お世話係に肩車させて、走り回らせるなんて、もう懲り懲りですよ」

「悪かった悪かった」

 ヤスによって、残っていた14人の士族も倒して、サブローは全軍で丘の上へと進軍しようとしたその時。

「若、中々やりますな。伏兵に挟撃に囮とは。久々に心が踊りましたぞ。さて、では、稽古と行きましょうか」

 向かってくるローをヤスが受け止める。

「何をしておるヤス!勝負は終わった」

「御子息様!まだです!ここからロー様が巻き返すには、御子息様を狙うのが1番です!」

「なかなか良い目をしておる。流石、若が名を与えただけはありそうですな。名をなんという?」

「ヤスだ!」

「良い名であるな。それに若、油断しておりましたな。まだまだですぞ。この者が居らなければ、最後の最後で負けておりましたな」

「ロー爺め。卑怯じゃぞ」

「なんとでも言いなさるが宜しい。油断していた若が悪いのですからな」

 話しながらもヤスを軽くあしらっているロー。

「御子息様!この隙に、丘を占拠してください。いつまでも耐えられません」

「流石の目の付け所だ。誰1人として、ここを抜かせはしないがな」

 ローの気迫に押されてヤス以外は、その場から動けずにいた。

 それをヤスが叱咤する。

「何をしている!俺たちはここまで御子息様。いや、サブロー様の策に頼り切っていた。それにサブロー様も言っていただろうこれは、俺たちの戦いだと。今こそ奮い立て、相手はサブロー様を守る最強の盾である。その人の胸を借りられるのだ。これ程、有り難いことはない。それに、こんなところで負けるのなら我らがこの先、生き残ることもないだろう。皆、サブロー様が継いだ先の未来を見たいと思わないのか!」

 ヤスの言葉がその場から動けなくなっていた他の奴隷たちの心に響いた。

「お前のいう通りだ。俺たちみたいなのにまで気にかけてくれる領主様なんて、この先、きっと現れない。それにサブロー様には、到底初めてと思えない戦の才覚があった。それを支えられるならこれ程、幸福なことはない。1人1人の力は弱くとも、サブロー様が丘の上にある旗を取る間の時間稼ぎぐらいできなきゃ男じゃねぇ」

 皆んながローを取り囲む。

 しかし戦うのはヤスだけである。

 ヤスが危なくなったら別のやつが出ていき、1人で暫く相手をする。

 その光景をローは微笑ましく思い、そして彼らのため教官になったつもりで鍛えていた。

 その隙にサブローが丘の上に行ったことを承知の上で。

「どうした。お前たちが若を思う気持ちは、その程度か!」

「つ、強すぎる。ヤス、すまねぇ。俺は攻撃を受けちまったから脱落だ」

「良くやった。ゆっくり休んでいろ」

 また1人また1人と仲間たちが脱落していく中、充分休めたヤスが再びローへと挑む。

「再び我が前に立つか。その心意気や。良し」

「あと少し耐えれば、サブロー様が必ず旗を取ってくださる。もう暫く、付き合ってもらいますよロー様」

 2人の木剣が何度もぶつかり合う。

「腕は良い。しかし、力任せに剣を振るうだけでは、勿体無い。ヤス、お前には特別にしなやかな剣も見せてやろう」

 そう言うとヤスの攻撃を鮮やかに受け流したローが剣を横に傾けて、一閃を放った。

「ゴフッ。今のは一体!?」

「一閃だ。相手の攻撃を受け流し、それをそのまま相手へと返すカウンター技。お前のような力任せに剣を振る者には、手痛いであろう。しかし、勝負はお前の勝ちだ。見てみろ」

「おーい、ヤス。旗は取ったぞ!」

「何、若様だけがしてやったって顔してるんですか!走ったのは私なんですからね!」

「わかったわかったマリー。そう目くじらを立てるでない。後で、金平糖《こんぺいとう》を作ってやるでな」

「良いんですか!?若様、だーいすき」

「マリーは、本当に金平糖が好きじゃな。ワシも大好きじゃが」

 信長は生前、ポルトガルからもたらされた金平糖を大層気に入っていたそうで、当時秘匿とされていた金平糖のレシピを何とか手に入れて長崎・京都で作らせたのだ。

 しかし、高級品であったため、食べられたのは富裕層のみであったことは言うまでもない。

 そして、この世界には金平糖がなかった。

 あの味を懐かしいと思ったサブローが再現したところその味の虜となったのがマリーである。

 女は甘い物が好きなのである。

 それは、万国共通なのであろう。

 きっと。

「良かった。サブロー様、うっ。流石に限界だ」

「久々に気合いを入れてしまったな。良い腕だ。その腕を錆びつかせるなよヤス」

「ロー様、ありがとうございます」

 ローがどうして士族でありながら奴隷たちに対して偏見が無いのか。

 それは、ロルフの前の領主。

 即ちロルフの父であるラルフが奴隷を大事にしていたからである。

 常々、ラルフは言っていた。

 この者たちが縁の下の力持ちをしてくれているからこそ我らもまた生かされているのだと。

 その時には意味はわからなかった。

 だが、彼は初めての戦場にて、緊張していて浮き足だっていたところを狙われて殺されそうになる。

 その時、助けてくれたのは奴隷たちであった。

 その時のことをローはずっと恩に感じている。

 だから自分だけでも奴隷たちを守れるようになりたいと。

 彼もまたこの世界においては、変わり者だったのである。

 そして、この考えは度々、奴隷たちを捨て駒のように使い捨てるロルフとぶつかり合うこととなる。

 ロルフは、実力のあるロー・レイヴァンドを処断することを考えたが士族連中への影響を考えに考えた結果がサブローの傅役にすることで、戦場から遠ざからせる事であったのだ。

「この勝負、若の勝ちですな」

「ロー爺、ヤスたちに稽古を付けてくれたのだろう?」

「はて、何のことやら。久々に血が滾ってしまいましてな。若のことを見失ってしまっただけのこと」

「素直じゃないな。そう言うのならそういうことにしておいてやろう」

「若、模擬戦でお忘れかと思いますが若の稽古はこれからですからな」

「今からか?うむ。仕方ないな。マリーよ。金平糖はお預けじゃ」

「そんなぁ」

 この後、みっちりと扱かれたのは言うまでもない。

 当然、3歳児に一本など取れるはずもない。

 そして、月日は流れ、サブロー8歳となった時、事件が起こるのであった。
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