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5章 束の間の平穏

第5話 召集令状

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焦った様子でクレオに話しかけるモネ。
「クレオ様、魔王からこんなものが」
クレオはモネから渡された書簡に目を通す。
『スレイブシティの領主モネに次ぐ、今より魔王領に従い、奴隷たちの引き渡しを命ずる。従わない場合は、5年後に武力によって攻め滅ぼす。無駄な力を使いたくはない。英断を求む。新魔王アンドレより』
クレオは書簡を見てほくそ笑んだ。
「モネさん、心配しなくて大丈夫ですよ」
クレオの言葉に納得できないと首を傾げるモネ。
「どういうことでしょうか?」
「今日よりホープシティは魔頂村に加わります。よって全ての人民は奴隷ではありません。引き渡しの義務ももちろんありません」
「そんなこと可能なのですか?」
「まぁ、そうですね。返事はこう書いてください。『ランスホース帝国に攻められた時に魔族の方に救われ、この街の名前をホープシティと改めました。現在は、魔頂村に属しています。魔頂村は、魔王領ですが独立国家です。奴隷に関しても全員解放しています。この街に奴隷は居ません。話をしたいのなら魔頂村の領主クレオ殿を通してください』」
「それでなんとかなるでしょうか?」
「自分たちのルールで他国への侵攻ができない以上、ここが自分たちが見捨てたクレオの村所属ということで攻められませんから歯痒い思いをするでしょうねぇ」
クレオはニヤニヤしている。
「その笑みは怖いですわ」
「まぁ、どう出るか見ものですね」
クレオは魔王城の方角を見てほくそ笑む。

数日後魔王城にスレイブシティより書簡が届いた。
「モネはどう返答してきたドラムス?」
「なんとそのようなことが。ぐぬぬ。魔王様失敗にございます」
「どういうことだ」
アンドレはドラムスから書簡を奪い取り内容に目を通すと笑った。
「ハッハッハッ。クソ親父とクソ丞相は、どうやら優秀な奴を追い出したようだな」
クレオか。忌々しい名だ。現実世界のアイツを思い出す。まぁ良い。面白いじゃないか。独立国家の宣言までしてくるとは、5年後真っ先に踏み潰してやる。圧倒的武力を用いてな。
「惜しいことをしましたな」
「いや、競争相手がいることがわかり逆に燃えた。返事には一言『それなら問題ない』とだけ書いて送れ」
「口惜しいですが仕方ありませんな。ですが、流石は魔王様です。先代とは全然違いますな」
「あれはあれで良かったのだが。力も無く振りかざすのでは何も意味はない。母上を呼べ」
「はっ」
連れてこられる先代の魔王ドレッドに人前で殴られたり乳を吸われたりしていた鬼人族の女性がやってくる。
「母上」
甘えるアンドレ。
「まぁまぁ、どうしたの?」
「君は美しい、あのクソ親父に穢されて本当に可哀想だ。必ず俺が守ってあげるよ」
アンドレはそう言いながら赤ちゃんらしく鬼人族の女性の乳を吸う。
「あぁん」
「母上の乳は美味だ」
「あっダメそんな気持ちいい」
先代の魔王の躾により、触れるだけで感じる身体になってしまっている。
アンドレは一通り吸い終わると口を離し、母上を抱きしめる。
「アンドレ」
恍惚の顔を浮かべている鬼人族の女性。
「母上、忌々しい父上との子である我が身をこの世に産んだいただき感謝致します」
「アンドレに罪はないもの」
「お部屋にてお休みくださいツキヤマ様」
「えぇありがとうドラムス。アンドレのことよろしく頼むわね」
「この身に代えましても」
「俺はお前が死ぬと悲しいぞ。優秀な人材は宝だ。ファミリーは大事にしないとな」
「勿体なき御言葉です」
「謙遜するな。お前も下がれ。身体を酷使する時ではないからな。作戦の失敗も気負うな。クレオとやらが一枚上手だっただけのこと。バーン8世とモルドレッドにも頑張ってもらわねばならんしな」
「はっ」
アンドレは、現実世界の人間。所謂転生者だ。現実世界では、表の世界では、超大手輸送会社の社長で、年収数億を稼いでいた。だがその裏では、暗殺稼業を生業とするBOSSでファミリーのためにターゲットを暗殺しまくった。同じ転生者であるクレオとは因縁がある。その因縁がこちらの世界での大戦争を招くことをこの時の2人はまだ知らない。

クレオは手紙の返事をモネに言った通りに書かせた手前。返事が来るまでホープシティにて滞在していた。
「クレオ様、俺綺麗?」
「ユタ、揶揄ってるの?」
「ぷぅ~」
頬を膨らませるユタ。6歳になり少し大きくなったかと思えば全然身長は変わっていない。
ひょいと抱っこし、膝に座らせる。
「ユタはまだまだ子供だな」
「子供じゃないもん。クレオ様の妻になるんだもん」
「うーん、後10年は先かなぁ」
「そんなに待てないもんねーだ」
そう言いキスをしようとするユタを制する。
「なんでよ~」
「子供はそんなことしない」
「ユタは、子供じゃないもん。大人だもん」
「はいはい」
軽くあしらうクレオの元にモネが手紙を持ってやってきた。
「魔王から返事が来ました」
クレオはモネから受け取り中身を確認する。
「それなら問題ない?」
呆気ない一言だけの文章にクレオは底しれない不安を感じた。
「何か問題でしょうか?」
「いえ、あっさりと引き下がり、魔頂村の独立とホープシティの魔頂村への帰属を認めたことに少し不安を覚えまして」
「でも、これで魔王の支配から完全に独立できました。ホープシティにとってのこれからは明るいはずですきっと」
「えぇ、そうですね」
クレオはモネを安心させるために頷いたが先代魔王とは違う意味で女を道具として使おうと考えていた新魔王があっさり引いたことに別ルートでの奴隷の確保の当てがあるというのだろうか?まさか、ランスホース帝国か?なるほど、モルドレッドのクーデターが成功した時点で、ホープシティを切っても問題はなかったんだとしたら。これはホープシティが魔頂村に所属していたことを確定させるための確認が含まれていたんだ。まんまと乗せられた?ハハハ。困ったな。でも先ずは、魔頂村に戻り、だが他の問題の片付けを行うとしよう。
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