上 下
458 / 469
5章 天下統一

包囲を突破する孫翊

しおりを挟む
 孫翊の元に各地の戦況が届けられる。

 伝令A「董襲様、苦戦しつつも何とか持ち堪えています」

 孫翊「うむ。流石、兄上が認めた武の者だ。そのまま惹きつけつつ、後退を始めるように伝えよ」

 伝令A「はっ」

 伝令Aと入れ替わる形で伝令Bが報告する。

 伝令B「周善様、お討ち死に。高順がこちらに向かっております」

 孫翊「そちらは無理なことはわかっていた。報告御苦労、できる限りバラバラに逃げて、高順隊をばらけさせよ」

 伝令B「生き残ることを優先した周善様の兵は、もう既にバラバラに逃げて、その背を高順隊が追っています」

 孫翊「良し。勝手な真似ではあるが。功は奏したな。高順が来るまでの時間は作れた。お前もゆっくり休め。といってもこの窮地を抜けなければ、休めんがな」

 伝令B「この命は、呉王のために。お供致します」

 孫翊「うむ。頼りにしている」

 伝令Bとの話が終わると伝令Cが報告した。

 伝令C「蒋欽様、苦戦。張燕隊の勢い凄まじく。壊滅間近」

 孫翊「ここで蒋欽を失うわけには行かないな。左咸《サカン》、俺のために死んでくれるか?」

 左咸は、厳格な武人で、孫翊の傅役を任されている人物でもあった。そんな男に孫翊は、死んでくれと頼んだのだ。

 左咸「心得ました。蒋欽殿と代わり、その場に留まりましょうぞ」

 孫翊「すまぬ」

 左咸「構いませぬ。呉王よ。必ず生きて、この敗戦を活かすのですぞ」

 孫翊「わかっている。あまりにも犠牲の多い戦いとなるだろうが、俺が生きていれば、再起は可能だ」

 左咸「その言葉を聞き、安心しましたぞ」

 左咸が一軍を率いて、蒋欽のところに援軍に向かう。伝令Cの報告が終わると伝令Dが報告する。

 伝令D「賈華様、お討ち死に。兵は離散。その背を追い呂布隊が離れ、その場には敵軍の軍師のみが残ったとのこと」

 孫翊「賈華よ。お前の命令無視が好機を生み出すとはな。全軍一本の槍となれ。蜂矢の陣を敷くのだ。油断した敵軍の軍師を討ち取り、包囲を抜けるぞ」

 孫翊はスムーズに蜂矢の陣を敷く。

 孫翊「活路は後ろにあらず前にある。全軍、一本の槍となり、正面を突破する。誰が倒れようとも気にせず前だけを目指せ!これは命令だ。倒れる者、付いてこれないものを俺はここに置いていく!必ずやこの包囲を突破し、再起を図るため、皆の力を俺に貸すのだ」

 うおおおおおおおおと一際大きな雄叫びと危機迫る気迫に追い込んでいるはずの呂布軍が怯むほどだった。そして、その隙を見逃す孫翊ではない。

 孫翊「全軍突撃」

 孫翊を先頭に、先程まで呂布がいたところに向かって、一点突破を敢行したのである。その姿は、まさに獅子と呼べる勇ましい姿で、孤立した高順の兵と呂布の兵がその勢いに飲まれて粉砕されていく。

 高順の兵「大将首、自ら来てくれるとはな。その首、グハッ」

 呂布の兵「た、大将首!呂布様に報告せよ!ガハッ」

 孫翊の動きに気づいた成廉隊と魏越隊が側面を突きにくるが孫翊は、これに対し気にせず前しか見ていない。それに疲れで付いていけなくなった兵たちが自然とそれを食い止めるように動き、孫翊のために時間を作る。

 成廉「クソッ。鬱陶しい奴らだ」

 呉の兵「孫翊様は討たせねぇ」

 薛蘭「コイツら斬っても斬っても立ち上がってきます」

 李封「浅い攻撃は意味がない!確実にその命を狩るのだ!」

 曹性「ぐっ。昔の古傷が痛む。片手では押し返すのは、厳しいか」

 文字通り死兵と化した呉の兵を相手に、成廉隊は完全に動きを封じられた。同じことが魏越隊でも起こっていた。

 魏越「兄貴、今本陣は手薄なんだよな?」

 魏続「先程、呂布様が追撃していくのが見えた。本陣にいるのは荀攸軍師と少数の兵だろう」

 侯成「張燕殿は?」

 宗憲「高順殿と左右を挟撃して、敵将の1人を追い詰めていたが入れ替わるような形で新手の相手をしている」

 侯成「全てが孫翊有利に動いている。まさか、これを待っていた?」

 魏越「だとしたら荀攸軍師が危ねぇぞ」

 宗憲「でもコイツらがまとわりついてきて、身動きが取れねぇ」

 呉の兵「孫翊様の元には絶対に行かせねぇ」

 死を諸共しない死兵とは恐ろしいのだ。それは、呂布軍の武を司る3番手である魏越と4番手である成廉と言えども例外ではない。ただの兵と侮ることなかれ、一人一人が死を恐れぬこの戦で命を燃やし尽くすと決めた猛将なのである。

 孫翊「アイツら。すまぬ。その忠義、感謝する」

 孫翊は追って来ていた呂布軍の隊の2つが止まったことに感謝しながらも後ろは向かない。それは、彼らへの忠節への侮蔑だと思ったからである。そして、目の前に呂布の本陣を捉える。

 孫翊「通りすがりに呂布軍の軍師を討ち取るぞ。全軍、正面に突っ込め!」

 荀攸「馬鹿な!?あの包囲を突破したというのか」

 呂布の兵「荀攸軍師はお逃げください。ここは我らに」

 荀攸「フッ。馬鹿を言うな。お前たちも劉備様の大事な民だ。それを守らずに逃げ出すなどできようか」

 覚悟を決めた荀攸は少数の兵を周りに固め、迎え撃つ。

 孫翊「勝利を確信し、手負と侮ったのが間違いだったな」

 荀攸「あぁ、それは認めよう。呂布殿が正しかったとな。だがそれも、お前を討てば、終わることだ」

 孫翊「今や兵数は逆転した。だが、俺は油断はせん。アイツらの想いに報いるためにもお前だけでも討ち取らせてもらうぞ!」

 孫翊は突撃ざまに荀攸を斬る。しかし手応えが無い。

 ???「無茶をするな荀攸」

 荀攸「呂布殿、どうして、ここに?」

 呂布「戦で最も大事なのは、触覚だ。肌にひしひしと強者の気配を感じたのでな。急いで戻ってきた。無事で何よりだ荀攸」

 荀攸「はぁ。まぁ感謝しますよ。これで形勢は」

 呂布「俺1人で変えられるほど良い状況ではない。敵は死兵。ここはこちらの負けだな。油断したな荀攸」

 荀攸「まぁ。そうですね。早期決着を焦りましたよ」

 そこには赤兎馬の背に荀攸を乗せる呂布が居た。

 呂布「先頭を走って、勇猛果敢な見事な正面突破であった孫翊よ」

 孫翊「鬼神に褒められるとは光栄だ。軍師の1人は討ち取っておきたかったが、この場は仕方ない。勝負は預けるぞ呂布」

 互いに名前を名乗っていないが目の前にいる相手が孫翊と呂布だと2人にはわかっていた。

 呂布「こちらは現状不利な側、逃げてくれるならこれほど有難いことはない。行かれるが良い」

 孫翊「感謝する。このようなことを頼むのは失礼だとわかっているがこの戦いで死んだ我が軍の者を丁重に弔ってもらいたい」

 呂布「承知した」

 こうして、孫翊の揚州北部への奇襲は失敗に終わり、呂布も少なからずの犠牲を出し、特に追撃を敢行した呂布隊と高順隊の死者は、数千人にも及んだ。対する、孫翊側の兵の死者は、数万を超える。こうして、この場では、一応の決着とはなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【完結】優雅に踊ってくださいまし

きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。 この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。 完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。 が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。 -ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。 #よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。 #鬱展開が無いため、過激さはありません。 #ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

俺、ラブホスタッフになりました

もんもん
キャラ文芸
高校3年生の大港大和は卒業間近だというのに就職先が決まらないでいた。ひょんなことから大和はホテルの副支配人である本多に出会いホテルで働くことになったが、そこはラブホテルで……⁉ しかもそこで働く従業員はヤクザのように強面な轟。モデルのように綺麗なのに官能小説家志望で妄想癖がある百瀬といった癖のあるメンバーばかりで……。気苦労絶えないツッコミ役の大和と個性豊かなメンバーが織りなすお仕事コメディーです。

魔力の降る地に、魔力を封じられた魔法剣士が捨てられました

小葉石
ファンタジー
 荒れ果てる荒野ランカントの果てには、人も動物も生きて行くことができない死の大地が広がっている。  その不毛な土地に追放となった男がいた。それはこの国にこの男の右に出る程の使い手はいないと言わしめた程の魔法剣士シショールだ。国と仲間に裏切られ、男はひたすらに死の大地を彷徨って行く。シショールが死の淵に足を踏み入れたところで、眼前に広がったものは…見たこともないほどに豊かな地だった。  その地に住まうのは妖精の如く美しい不思議な少女サザンカ。どうやら彼女は一人でこの地に住んでいるらしく、荒野を超えて来たシショールについては全く知らない様子であった。  ボロボロに傷つき、人間不信となったシショールにサザンカは恐れる事もなく近づいて行く。  捨てられた魔法剣士シショールと孤独な少女のお話です。

穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀
ファンタジー
吾平正志はクラスメイトたちから虐められ、家族からも無視されていた。追い詰められた彼は自殺を計るが、死の寸前に現れた大魔王サタンと契約を結び、新人類となる。復活した正志は仲間を増やし、家族、学校、そして社会全体を破壊していく。すべては人類の救済のために

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

妹に恥ずかしい秘密がバレた話【リメイク】

giving111
大衆娯楽
2歳年下の発育の良い妹にあんなことやこんなことをされるお兄ちゃんのお話しです。

処理中です...