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4章 三国鼎立

二喬の真実

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 徐栄の奇襲を受け、戦場にて吐血して倒れた孫策はまだ目を覚さない。大喬は熱心に看病していた。

 大喬「孫策様、私は謝らなければならないことがあるのです。どうか目を覚ましてくださいませ」

 孫策「・・・・・・」

 大喬は、孫策の元に嫁ぐことになった日のことを思い出していた。

 大喬「もう10年程、経ってしまったのですね。あれは、人質交換などではないのです。得をしたのは、養父とその弟君である劉丁様。私と小喬は、この揚州での孫策様たちの情報を逐一報告する諜報員なのですから。でもいつからでしょうか?孫策様の優しさに触れる度に私はどうしようもない罪悪感で押しつぶされそうになったのです。もう情報を流したくはない。でも、流さなければ、孫策様にとって良くないことが起こりそうで、私は私は。でも、孫策様は何度も何度も戦から離れてはくださいませんでした。その度に私の心は張り裂けそうに。私がしていることは、孫策様の命を縮めているのではないかと。その凛々しくて逞しい顔で、力強い言葉でこの哀れな女を罵ってくださいませ。こうして弱っている貴方にしか打ち明けられない哀れな女に」

 孫策「だ、い、き、ょ、う」

 大喬「孫策様、ここに居ますよ。目を?」

 孫策「・・・・・・」

 大喬「そんなわけありませんよね。今、新しい布を」

 周瑜はいまだ覚まさぬ孫策の代わりに実務の全てを担っていた。

 周瑜「伯符が実務を取れぬ以上、俺がなんとかしなければ、ええぃ華佗様はまだ見つからないのか。こんなに探しても全く情報が出てこないなんてことがあり得るのか。やはり伝説なのか。どんな怪我でも治してしまう男の話など」

 小喬「周瑜様~。そろそろ休まないと身体に毒だよ~」

 周瑜「小喬か。いや、伯符が倒れた以上、俺まで落ち落ちと寝ているわけにはいかない。いつ、劉備軍が反転攻勢してくるかわからないのだからな」

 小喬「しないよ。養父様はそんなことしないよ」

 周瑜「何故、わかる!今、ここに来たら我らに抗うすべは無いのだぞ!断定できる証拠もないのに口先だけで物を申すな!」

 そこまで言って周瑜は小喬に八つ当たりしてしまったと謝ろうとするのだが衝撃の事実を聞くことになる。

 小喬「ごめんなさい。本当にごめんなさい。周瑜様たちの情報を養父様に流していたのは、私とお姉ちゃんなの。それがこの国のためになるって、そう信じてたの。だってだって周瑜様も孫策様もそうしないと死んじゃうことになるって劉丁様が。ひくっひくっ」

 そこまで言って泣き崩れて出て行こうとする小喬を抱きしめる。

 周瑜「小喬、私もすまない言いすぎた。おあいこだ。良ければ、その話を詳しく聞かせてくれないか?」

 小喬「許してくれるの?」

 周瑜「その話を聞いた以上、今更知らなかったと言っても他の者たちは信じてくれないであろう。それに私はどうしようもなく無邪気な君に惹かれているんだ。一緒に背負わせてくれないか?」

 小喬「うん。孫策様は于吉って道士に殺される。殺された後、後を継いだ孫権様は荊州制覇の野望を捨てられず。その最中、周瑜様は毒矢によって命を失われるって、そう聞かされたの。だからそうならないように周瑜様と孫策様を止めてほしいって、だから私とお姉ちゃんは、情報を流し続けたの」

 周瑜「俄かには信じられない話だな。それが真なら劉丁という男は、未来がわかるというのか?どうして、君はそのことを信じたんだい?」

 小喬「劉丁様の予言が的中したのをこの目で見たから信じるしかなかったの」

 周瑜「どんな未来予知なのかな?」

 小喬「于吉が呉郡で暗躍していたこと。そして、曹操と袁紹が血みどろの争いを始めるって」

 周瑜「官渡の戦いか。しかし、あれは俺も予想はしていた。その予想の範疇ではないのか?」

 小喬「正確な人数同士の戦い、どうなるかその全てがその通りだったとしても?」

 周瑜「馬鹿な!?それを的確に当てたというのかい?」

 小喬「うん。そして劉丁様はこう言ったの。僕が君に話したのは孫策様と周瑜様の一つの可能性だ。その可能性に向かわないようにどうすれば良いか聡明な君ならわかるよねって」

 周瑜「孫堅様についても何か語っていたのか?」

 小喬「うん。あのまま長沙にいたら袁術の傀儡となり、死ぬことになっていたって」

 周瑜「それはあり得ない!孫堅様は武人。袁術がそれを御せるとは思えない」

 小喬「夫人が人質に取られたら?」

 周瑜「!?孫堅様は家族を最も大事にされていた。まさか!?」

 小喬「うん。きっと孫堅様が劉備様に手を貸すことにしたのは、孫策様や孫権様、家族を守るためなんだと思う」

 周瑜「俺たちは間違えていたのか。戦うべきは初めから曹操だけだった。欲をかいた結果が孫策の今の状態ということか」

 小喬「周瑜様は孫策様を助けたい?」

 周瑜「そんなの当たり前だろ!」

 小喬「張角様って知ってる?」

 周瑜「黄巾党の当主であった男でもう死んだ男であろう」

 小喬「死んでないよ。劉丁様が匿っていて、医者としてみんなの病を見て回っているの。それに華佗様もいるんだよ~」

 周瑜「何を言っている?」

 小喬「劉丁様が言ってた」

 周瑜「あんなに探して見つからなかった華佗様がそこにいる?案内を頼めるか?」

 小喬「うん」

 こうして、孫策・周瑜・大喬・小喬が張角診療所遠目指して消えたことによって、孫権を劉備軍に捕えられてしまって帰ってきた呂蒙は、誰に相談していいか分からず結果として武断派と文治派の争いが激化することになった。それどころか周瑜が信頼を置いていた龐統・魯粛が出奔したこともその事に拍車がかかり、文治派許すまじと武断派が強硬したのだ。
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