上 下
324 / 469
4章 三国鼎立

劉璋軍の撤退

しおりを挟む
 張任は変わらず関所への攻撃を加える。
 張任「劉雄鳴の弓には気をつけよ!衝車を急ぎ城門に取り付かせるのだ!」
 張任兵「はっ」
 この強行に疑問を感じた呉懿が張任に詰め寄る。
 呉懿「張任、弓隊の排除もできていないのに、衝車を使うなど正気か!」
 張任「呉懿か。俺はもう失敗はできんのだ。一度失敗をした俺にもう一度機会を与えていただいたのだ。何としてもこの南鄭関を抜かねばならん」
 呉懿「だとしてもだ。兵に無理を敷くことなど看過できん。彼らとて、家族が待つ民なのだぞ!」
 張任「呉懿よ。ここは戦場なのだ。こちらの都合ばかりが通る訳なかろう。対峙している者たちにも家族が居るであろう。そんなことは百も承知だ!」
 呉懿「ぐっ。俺はこの無理強いには参加せんぞ!」
 張任「勝手にせよ!」
 張任のこの攻撃は呉懿の言う通り無謀である。張任の持つ衝車は、義賢が改良する前の古いモデルである。即ち弓を防ぐ屋根もなければ、装甲が着いている訳でもない。上から矢の雨に晒されれば、こうなることは必定である。
 劉雄鳴「馬鹿が。我が狩猟兵たちよ。衝車を率いる奴らを狙え!」
 狩猟兵「漢中には踏み入れさせんぞ!」
 衝車隊「ぐぁぁぁぁぁぁぁ。張任様、申し訳、ありません」
 呉懿「これでもまだ無理強いさせる気か張任。何を焦っているのだ」
 張任「クソッ。井闌車さえあれば、弓隊なぞ排除してくれるものを。ここから弓で潰してくれる」
 呉懿「もうやめよ張任。この場はここまでだ。そもそも、関攻めを行うのに、衝車だけしか帯同してないことの方が問題であったのだ。これ以上の損害は看過できん!」
 張任「呉懿、お前は何もわかっていない。この漢中を取らねば、益州を狙っている曹操や劉備に抗うことなどできん」
 呉懿「だとしてもだ。このまま、戦い続ければ、疲弊し、それこそ抗えなくなろう。張任よ。退くことを決めるのも将軍の責務だ」
 張任「ぐっ」
 そこに劉璋が現れる。
 劉璋「聞き捨てならないな呉懿よ。まだ退くことは許さん」
 呉懿「劉璋様!?どうして前線に?」
 劉璋「裏切り者の兄上たちに面白いものを見せてやろうと思ってな。張任よ。あの弓隊を排除できないのであれば、衝車隊を守る盾兵を使え」
 張任「劉璋様、その通りに致します」
 劉璋が南鄭関の前にやってくる。
 劉璋「劉範兄上・劉誕兄上、どうあっても私を信じてくれないようですね。わかりました。こうして、投降しにきました。できるならば昔みたいに家族として話しませんか?」
 劉範「ほぅ。勝てないとわかった途端投降を申し出るとは、相変わらず臆病者のままだな。良いだろう。お前には聞きたいことが山程ある」
 劉誕「そっから動くんじゃねぇぞ。たっぷりと瑁のこと吐かせてやるからな!」
 張衛「待て、劉範殿・劉誕殿、何か怪しい。罠かもしれん」
 劉範「張衛、そう気にする必要もねぇよ。あの臆病者のバカに何かできるわけねぇんだからよ」
 劉誕「そういうことだ。劉範の兄貴が益州の当主に返り咲いたらあの件、考えてくれるように、張姜子様に言伝を頼むぜ」
 張衛「母上がその要求を飲むかは分からんが伝えよう」
 劉範と劉誕が出てくる。
 劉璋「聞け、我が兵たちよ。俺はこうして投降する。皆、下がるのだ」
 劉範「さぁ、話を聞かせてもらおうか出来損ない」
 劉璋「ククク。ハーッハッハッハッ。こうと簡単に引っかかってくれるとはなぁ。そうだよ。貴様らクズ兄貴共の言った通りさ。俺があのクソ兄貴の1人劉瑁を殺してやったのさ。アイツの妻は良い女だ」
 劉誕「!?それが本当ならどうして呉懿が従っている!」
 劉璋「そんなのわかるだろう兄貴たちなら。クソ兄貴劉瑁の妻だった女が今誰のものか」
 劉範「まさか監禁しているのか。それで呉懿を操っているんだな。この下衆が。この場で斬り殺してくれる」
 劉璋「ヒィッ。どうして刃を向けるのです劉範兄上・劉誕兄上。投降した私を殺すのですか」
 劉誕「ふざけるな。父を追い出し、瑁を殺したお前を許せと。俺たちはそんなに人間できてねぇ!」
 劉璋はこの光景を見てほくそ笑んでいた。
 劉璋兵「今、見た通りだ。劉範と劉誕は、張魯に益州を差し出すため劉璋様を殺すつもりだ。それを見て見ぬふりして良いのか!奮い立とう友たちよ」
 劉範「どうなってる!?周りを囲まれた?」
 劉誕「貴様、謀ったな!」
 劉璋「クソ兄貴、ガキの時、拾われてきた俺のことを散々虐めてくれたよなぁ。いつも劉瑁兄上だけが俺に優しかった。俺だってよ。信じられなかったぜ。あの劉瑁兄上が俺の出自を知っていて、尚且つ母を自殺に追い込んだなんてな」
 劉範「何を言っている?お前の出自?拾われの貰い子風情が図に乗るな」
 劉璋「その反応はやっぱり知らなかったんだなぁ劉範兄上も劉誕兄上も。俺はな。劉焉と張姜子との間に産まれた忌み子なんだよ。母上はな。不倫相手の子供をクソ親父から育てさせられてたんだよ!これを俺からお前らへの復讐だ。知ってて、許さなかった劉瑁。俺のことを虐めて楽しんでいた劉範・劉誕。優しかった母上に不倫相手の子供を育てさせたクソ親父。全部全部、俺が壊してやるよ」
 劉璋により一撃で貫かれる劉範と劉誕。
 劉範「うぐっ。馬鹿な!?臆病者のお前のどこにこんな力が」
 劉誕「劉範の兄貴ーーーーー。貴様、生きて帰れると思うなよ」
 劉璋「それはこちらのセリフだ」
 劉誕「ガハッ。全く見えなかった」
 劉璋「お前らに感謝できることが一つだけあるとしたら。お前らがたくさん虐めてくれたおかげで、こうして憎悪の炎を燃やし続けることができたことだ。張任」
 張任「はっ」
 劉璋「どうやら張魯は俺の投降を受け入れるつもりはなかったようだ。悲しいが兄上たちを殺すしか無かった」
 張任「いえ、心中お察しします。では、関攻めを続行で?」
 劉璋「いや、此度は精神的に疲れた。成都に帰って休みたい。うぅ」
 張任「劉璋様こそ。益州を守に値する御方。どうか御自愛ください」
 劉璋「あぁ」
 劉璋たちが引き上げて、南鄭の村々から来ていた兵たちが帰って行ったのだがその夜悲しい知らせが張魯のいる漢中城へと届けられたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

烈火の大東亜

シャルリアちゃんねる
SF
現代に生きる男女2人の学生が、大東亜戦争[太平洋戦争]の開戦直後の日本にタイムスリップする。 2人はその世界で出会い、そして共に、日本の未来を変えようと決意し、 各海戦に参加し、活躍していく物語。その時代の日本そして世界はどうなるのかを描いた話。 史実を背景にした物語です。 本作はチャットノベル形式で書かせて頂きましたので、凝った小説らしさというより 漫画の様な読みやすさがあると思いますので是非楽しんでください。 それと、YOUTUBE動画作製を始めたことをお知らせします。 名前は シャリアちゃんねる です。 シャリアちゃんねる でぐぐってもらうと出てくると思います。 URLは https://www.youtube.com/channel/UC95-W7FV1iEDGNZsltw-hHQ/videos?view=0&sort=dd&shelf_id=0 です。 皆さん、結構ご存じかと思っていましたが、意外と知られていなかった、第一話の真珠湾攻撃の真実等がお勧めです。 良かったらこちらもご覧ください。 主に政治系歴史系の動画を、アップしています。 小説とYOUTUBEの両方を、ごひいきにして頂いたら嬉しく思います。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。補足説明と登場人物の設定資料

揚惇命
SF
『えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。』という作品の世界観の説明補足と各勢力の登場人物の設定資料となります。 本編のネタバレを含むため本編を読んでからお読みください。 ※小説家になろう様・カクヨム様でも掲載しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。

広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ! 待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの? 「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」 国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。

処理中です...