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4章 三国鼎立

復権式

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 李杏の話を聞き終わり失礼しようと席を立つ義賢のことを諸葛亮が引き止める。
 諸葛亮「お待ちください劉丁殿。今の話を聞いてどう思われましたか?(この者が先生の言っていた兄弟子殿でないことは十中八九、間違いないでしょう。ですが、だとしたらこの者が今まで、うまいこと立ち回れた理由があるはず。それを図るため、この話を共に聞いてもらったのです。どのような答えが返ってくるのか楽しみにさせていただきますよ)」
 義賢「どうとは?そもそも、俺は槃瓠についても帝嚳についても聞いたことのない話なのです。夏王朝の伝承の話だと潘濬殿から聞かされた程度のことで、どうと言われても反応に困るとしかいえません。その上で、言えることがあるとしたら今の話が真実なら李杏殿の一族は長いことずっと犬畜生の一族と言われて苦しんだのではないかと。その心を慮るといかばかりか」
 李杏「そのように言ってくださると私も心なしか救われた気がします。忌み嫌っていながらもどこかで槃瓠様のことを信じていた。でも平地では犬の娘と蔑まれる。山奥に篭ることが自分の心を守ることだったのです」
 義賢「今は、どうなのです?」
 李杏「平地の民の中にも私たちに寛容な人もいることがわかりました。主人の恩人である黄忠様・その奥方様の芳翠蘭様・お二人の御子息である黄叙様は良く家に遊びにきてくれたりして、平地の民との付き合い方を私に教えてくれます。自分のしでかしたことはどこまで行っても償いきれないでしょう。ですが、今ならいかに自分が愚かなことをしていたかをわかっているつもりです」
 諸葛亮「人は少なからず過ちを犯す者です。ですが悔いる気持ちをきちんと持っているのならきっとやり直せましょう。その一歩として、殿はこの度、魏延殿の復権を決められました。劉丁殿の復権も認めたのです。魏延殿のことは認めないというのは、角が立つというもの。殿は民を重んじる御方、未だに李杏殿が間接的に引き起こしてしまったことに対しての怒りはおさまっておりません。ですが、同様に機会を与えるべきということも常々言っておりました。それは、李杏殿のこの1年の行いを殿も見てきたからでしょう」
 李杏「寛大な御判断をありがとうございます。私のせいで主人は2度と発見できないのではないかと心を痛めておりました」
 義賢「俺だって、もう2度と立ち直ることはないものと思っていました。お預かりした5万の兵を討ち死にさせ、この時代に来て、多くの時を共に過ごした戦友とも言える愛馬である黝廉を亡くした」
 諸葛亮「この時代に来て?」
 義賢「あっ、それだけ多くの時が経ったということです。他意はありませんよ」
 諸葛亮「そうですか(今の言葉で確信しました。この方は、この世界よりももっと後の人間でしょう。歴史を知っているからこそ色んな人たちの天命を覆したのではないでしょうか?やはり、死に戻りなど眉唾物だったのでしょうか?収穫としては十分といえます)」
 義賢「もう失礼しても構いませんか?」
 劉備「何を言っている丁よ。今から、復権式を執り行うと同時に早速だが交州征伐に同行してもらうぞ」
 義賢「交州征伐?交州は孫堅殿の友人である士燮殿が治める土地、一体何があったのですか?」
 劉備「そのあたりのこともそこで話す予定だ。お前は主役の1人なのだ。出席してもらわねばな。魏延の晴れ舞台だ。李杏も見守ってやるが良い」
 李杏「私なんかがそのような場に出席しても良いのでしょうか?」
 劉備「何を言っている?お前は魏延の妻であろう。かつてのことを許したわけではない。だが、お前のこれまでの贖罪の日々も知っている。石を投げつけられようが商品を売ってくれない悪戯をされようが、お前は文句言わず。ただただ耐えていた。蛮族の身で辛かったであろう。帰りたいといつも思っていたのではないか?だが、お前は魏延のために耐えていた。愛の力とは偉大であるな。俺は、今のお前の頑張りを認めている。先ほど孔明に語った言葉が嘘でないことを願っているぞ」
 李杏「はい、これからも自分の罪と向き合って生きていこうと思っています」
 そこに荀彧が入ってくる。
 荀彧「殿、支度が整いました。これより、復権式を執り行いましょう」
 劉備「荀彧よ。御苦労であった。引き続き、頼む」
 荀彧「お任せを」
 集まった大勢の民の前で劉備が演説をする。
 劉備「このような復権式に、こんなに多くの民が集まってくれたことに感謝する。我が弟、劉義賢を兵卒として、復権させる。また一からとなるがその働きに期待する」
 義賢「はっ、有難き」
 劉備「そして、魏文長もまた兵卒として復権させる。これから、この国のために働いてくれることを切に願う」
 魏延「殿とこの国のため我が身を捧げることを誓う」
 劉備「そして、蔡徳珪。この者は、自ら身内の不始末の責任を取る形で隠居していたが、この度荊州水軍の将士の1人として復権させる。そして、蔡徳珪の親友であり、共に隠居していた張允もまた荊州水軍の将士の1人として復権させるものとする。両名の働きに期待する」
 蔡瑁「水軍のことはお任せください。どのような相手が来ようとも江夏より先に行かせはしません」
 張允「おぅよ。任してくれ」
 劉備「そして、新たな者を配下に加えることを皆に報告する。武陵蛮の王、沙摩柯だ。蛮族と聞き、皆が不安に思うのも仕方がない。だが、この者は、信頼に足る人物であると私が認めた。その働きに期待する」
 沙摩柯「劉備様の国に住む者が我らに対して良い印象を抱いていないことはわかっている。実際、先先代より以前には、女子供を連れ去り道具のように利用していた時代もあったと聞いている。だが、俺が当主として武陵蛮を率いるからには2度とそのようなことは一切させない。口だけでは信じてもらえないだろうが我らとて血の通った人間なのだ。許してもらえるのなら償う機会を与えてもらいたい。この通りだ」
 蛮族として恐れられていた武陵蛮が集まった群衆に頭を深々と下げる。
 劉備「この通りの実直な男だ。約束は必ず守る男だと私は信じている。そして、もう一つ、槃瓠族との協定を取り付けた。それを、現槃瓠族を取り仕切る狸老殿から説明してもらう」
 狸老「平地の皆様、お初にお目にかかる槃瓠族の代理を務めている狸老と申す。お互いに思うところはあることは百も承知のことである。我らが信用に値するかは、平地の民の皆様のその目で見ていただきたい。だが、これだけは約束しよう。2度と桂陽や零陵の悲劇は起こさぬと。口約束に過ぎんことである。だからこそ、平地の民の皆様、一人一人が我らを監視してくれれば良い」
 劉備「皆とて、思うところがあることは承知の上だ。だが、彼らもまたこの国の民なのだ。挽回する機会を与えてやりたいと私の勝手だ。だが、この者たちが問題を起こすことがあれば、私も責任を取る覚悟がある。皆の者、今すぐにとは言わない。だが、彼らのことを今一度信じてもらえないだろうか?宜しく頼む」
 民男「劉備様が決めたことに文句を言う奴なんてこの国にはいねぇだ。俺たちのことを1番に考えてくれていることは知ってんだからよ。だから蛮族ども、迷惑かけやがったら俺たちが劉備様に報告が上がる前に排除してやるからな。覚悟しておけ」
 民女「そうよそうよ。劉備様の寛大な御処置にふか~く感謝しなさいよね」
 劉備「ということだ狸老殿」
 狸老「全く、劉備殿の人望は恐ろしいですな。肝に銘じましょう。姫様のためにも」
 こうして、諸々の復権式が終わるのだった。
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