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4章 三国鼎立

黝廉は走ることをやめない

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 武陵山脈を駆け降りても、黝廉の足は止まらず襄陽へと向かっていた。身体の至る所からは血を吹き出しながら。
 義賢「黝廉、もう良い。もう大丈夫だ。だから、もう動いて傷口を開かせるな」
 黝廉「・・・(まだよ。まだ倒れちゃダメ。董白ちゃんの元に御主人様を届けるまで、絶対に)」
 黄忠「なんという生命力じゃ。声を出すこともできぬのに、ただひたすらに目的地に向かって走っているようじゃ」
 義賢「黄忠殿、どうやったら黝廉を止められますか?このままだと黝廉が」
 張郃「劉丁殿の言うことを聞かないのに、私たちの言うことを聞くと思いますか?」
 高覧「黝廉、お前。そこまでして、劉丁殿を守ったのだな。立派だ」
 義賢「俺のせいだ。俺が魏延殿を取り返したいなどと意固地になり、桂陽兵や零陵兵の怒りを鎮められなかったとその結果がこれだ。5万の兵は全滅。我ら4人だけが生き残り、黝廉まで失う事になったら俺はもう耐えられない」
 黄忠「劉丁殿だけの責任ではない。ワシとて魏延を助けたかったのじゃ」
 張郃「そうですわ。私だって蛮族に一矢報いるため貴方の背中を押してしまったのですから」
 高覧「この戦の落ち度があるとするならその責めは受けるのは我ら4人だ。劉丁殿だけのせいじゃねぇよ」
 そこに1人の男が駆けてきた。
 ???「義賢、無事だったか?」
 義賢「国譲、お前は先に帰るように言ったはずだ」
 田豫「あぁ、玄徳からお前を連れ戻してこいと頼まれた」
 義賢「兄上が。心配をかけた」
 田豫「ところで黝廉、お前どうしたんだ。傷だらけじゃないか。動くな。それ以上、動くと死んでしまうぞ」
 黝廉「・・・(もうすぐ襄陽城ね。董白ちゃん、もうすぐ御主人様を届けるから)」
 義賢「何を言っても聞いてくれないんだ。どうしたら良い国譲、どうしたら良い?」
 田豫「無理だ。黝廉は、もう」
 義賢「嘘だ。黝廉は死なない」
 黄忠「黝廉よ。何故、危険から遠ざかっても走ることをやめないのじゃ。それに釣られて翁も走ることをやめんのじゃ」
 翁「ヒヒーン(黝廉、お前は立派ぞい。御主人様を守って、尚且つ大事な人の元に元気だよと報告させてあげようとしてるんじゃろ。もうすぐじゃ。もうすぐじゃぞ。頑張るのじゃ。黝廉)」
 襄陽へと辿り着いても走ることをやめず黝廉が向かったのは義賢の家だった。
 董白「黝廉、どうしたの?なんで、傷だらけなの?」
 黝廉「ヒッヒーン(董白ちゃん、私、御主人様を守ったの。大好きな董白ちゃんと御主人様の幸せのために)」
 董白「そう。ありがとう黝廉。貴方はとても立派だったわ。もう、休んでも良いのよ。もう安心だから。義賢は死んでないから」
 董白の言葉を聞いてゆっくりと目を閉じる黝廉。そこに、的盧が来た。
 的盧「ヒヒーン(我が妹よ。立派だ。もう誰もお前のことを凶馬などと呼ぶ者はいないだろう。ゆっくり休め)」
 黝廉「、、、、、」
 黝廉はゆっくりと倒れると2度と起き上がることはなかった。黄巾の乱から16~17年、義賢を乗せ、義賢を守りしかつて凶馬と呼ばれた馬は立派な英雄と言えよう。しかし、義賢はその死を悲しむこともできず劉備より襄陽城に呼ばれた。その隣には見慣れぬ男だが確かに知っている男がいた。聞いた通りのその容貌、天才軍師と名高い諸葛孔明である。
 劉備「丁、先ずは無事の帰還、大変嬉しく思う」
 義賢「兄上、申し訳ありません。意気揚々と荊州の南を制圧してやると良い、この体たらく。桂陽兵や零陵兵、5万を討ち死にさせ。愛馬まで失いました。これは、全て俺の責任、厳罰に処してください」
 諸葛亮「えぇ。全ての責任は劉丁殿にあります。軽率な行動。とても軍祭酒という職に就いて良い方ではありません。5万の命を預かりながらその全てを死に至らしめた。よって、処断が良いかと」
 劉備「待ってくれ。孔明、私に弟を殺せと言っているのか?」
 諸葛亮「えぇ。それだけの大罪を劉丁殿は重ねてしまいました。臣下の命を聞かず。自分勝手に攻め、5万の命を無駄死にさせたのです。とても許せることではありません」
 荀彧「待ってください。確かに、此度劉丁殿が失策してしまったのは確かです。ですが、処断はあまりにも酷い。軍祭酒を降格し、民に位を落とすことで、謹慎処分とするのは如何ですか?殿」
 劉備「ふむぅ。丁よ。今までの功績を全て剥奪し、軍祭酒の任を解き民へと降格する。襄陽の仮住まいにて謹慎を命じる」
 義賢「兄上、何故、殺してくれないのです。俺が俺が判断を誤らなければ、こんな事には、黝廉。うっうぅ」
 劉備「ちょ、この者を、家へと押し込めてくるのだ」
 襄陽兵「はっ」
 義賢が襄陽兵に連れられて、董白の待つ家へと届けられる。
 荀彧「諸葛亮殿、貴方も人が悪い。劉丁殿を処断するつもりなど無かったのでしょう?」
 諸葛亮「流石、荀彧殿です。劉丁殿には、心を休める期間が必要でしょう。ですが、我が軍が大きく後退してしまったのも事実。その上、華北には関羽殿を派遣した。袁尚がどこまで持ち堪えられるでしょうか」
 劉備「南の異民族、槃瓠族であったな。用心せねばなるまい」
 荀彧「えぇ、荊州の南はまだまだ荒れそうです」
 諸葛亮「いえ、あれもまた必要な事でした。劉丁殿は失策などと言っていましたが。間も無くわかる事でしょう」
 黝廉を失った義賢は、酒を煽り、飲み過ぎで、道端で寝ていたところを殺された。しかし、気づいた時には、襄陽城から兵に両脇を抱えられ家へと向かう途中だった。自決もした。しかし、気づいた時には襄陽城から兵に両脇を抱えられ家へと向かう途中だった。いろんな死に方を試した。だが、何度死んでもそれ以上戻る事はできなかった。それどころか、天界へも行けなかった。それからの義賢はまるで魂が抜けたかのように、黝廉の墓の前で涙を流し続けた。義賢は、もう一度立ち上がる事はできるのだろうか。
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