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4章 三国鼎立

襄陽に迫る不審な男

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 左慈たちが襄陽へと辿り着いてすぐの頃。あの男もまた襄陽へとやってきていた。
 ???「ヒョッヒョッヒョ。ここが劉表の治める荊州か(あの馬鹿どもはワシが許貢に世話になったから助けてくれてると思っているようだが。勿論、そんな義理などとうに捨てておる。じゃが、許貢も良い手駒をくれたものだ。それに孫策はあの御方の天下を脅かす危険性もあろう。劉備とだけ事を構えてくれるだけなら良いのだがあの血気盛んな若武者の手綱をあの御方が握れるとは思えん。小覇王とはよく言ったものじゃ。覇王と呼ばれた項羽の生まれ変わりか。なら早々に消えてもらうとしよう。孫堅共々な。劉表よ、せいぜい踊り狂ってもらおうぞ。アヒャヒャヒャヒャ)」
 黒い道士服に身を包み杖を付き年相応のお爺さんのフリをし門兵に近づく。
 ???「すまんが道を尋ねたいのだが」
 門兵右「なんだ迷子かよ爺さん」
 門兵左「悪いが俺たちはこの城を守る見張りだ。案内してやりたいんだがここを離れることはできない。すまねぇな」
 ???「そうか。では最後にこの目を見てくれんか?」
 門兵右「まぁそれぐらいなら」
 門兵左「目なんか見させて何したいんだ爺さん?」
 ???「(んっ何故効かん?まるで何かに妨害されているようでは無いか。成程、お前の仕業か左慈。さては南華仙人の仇でも取りに来たか。それともあの御方とは真逆の王道とやらのためか。まぁ良い。ワシにとっても好都合よ。道教を信奉していたワシにとって不老不死であるお前は道教の目指しているそのもの。何れ相対すると思っていた。しかし、劉表を操るのは失敗か。いや、簡単に諦めてはならんな。幸い苦しんでいる今ならワシが通っても気付かんだろ。操って楽に侵入するのがちと強引になっただけじゃ)」
 黒い道士服に身を包んだ男は、門兵の間を気づかれぬように通り、襄陽城へと入っていくが中の兵たちが気付いて集まってくる。次々と瞳術をかけるが何者かに妨害される。だが苦しんでいる間に事なきを得て、劉表の元に到着する。
 蔡瑁「お前は誰だ。何勝手に入ってきてる。おい聞いてるのかジジイ」
 ???「ヒョッヒョッヒョ。うるさい小蝿じゃな」
 蔡瑁「俺が小蝿だと?即刻貴様の首刎ねてくれる(ぐっ。何だこれは。頭が割れるように痛い。辛うじて意識を保つのがやっとだ)」
 ???「やはり効かんか。さすが左慈といったところか用意周到よな」
 劉表「お前はさっきから何を言っている?さっさと蔡瑁を離すのだ」
 ???「なーに、誤解があったようだがワシはこの城に迫る危機を知らせにきてやった良い爺さんだ(左慈、貴様がそう来るならこちらにも考えがあるぞ。ヒッヒッヒッヒッ)」
 劉表「怪しいものじゃ無いなら蔡瑁にそのようなことはせぬであろう。衛兵はおらんか?」
 呼んでも誰も来ない。
 ???「全員、今頃この蔡瑁と同じく苦しんでいる事でしょう。お労しい事だ。それもこれも劉備のせいなのです。この荊州を手に入れるため左慈という方士を使いこの城のものに呪いをかけたのじゃ」
 劉表「何だと!?劉備殿が?」
 ???「驚かれるのも無理はなかろう。同族である劉備をさぞかし信頼していたのであろう。裏切られて辛い気持ちもわかる。じゃがさらに残念な事に劉備にそんな命令を下したのは袁紹なんじゃ」
 劉表「袁紹様が!?そんな馬鹿な袁紹様とは同盟を結んでいるのに何故?ならどうして俺は無事なのだ?」
 ???「袁紹は劉備と同盟を結ぶためにとある取引をしたのだ。劉備に荊州攻撃を黙認するというな。劉表殿の御身が無事なのは、ワシがこの身を挺してお守りしているからですぞ。ハァハァハァハァ」
 黒い道士服に身を包んだ男は、さも辛そうなフリをする。
 劉表「疑ったりしてすまぬ。其方、名をなんと申す?ワシはいったいどうすれば良いのだ?」
 ???「いえ、怪しい身なりで訪れていたのだ。疑うのも当然であろう。于吉と申す。少し呪術に心得のある道士ですじゃ。なーに劉備にも袁紹にも一泡吹かせてやれば良いのですよぉ」
 劉表「そんなことが可能なのか?」
 于吉「劉備の治める徐州を奪うのじゃ。そして、曹操にくれてやれば、さすれば荊州の所領安堵は望めるであろう。曹操の拡大に伴い袁紹にも一泡吹かせられる良いとは思いませんかのぅ」
 劉表「承知した。すぐに部隊を編成し蘆江を急襲するとしよう。于吉殿、助言感謝する。この襄陽を好きに見て周り帰られると良かろう」
 于吉「寛大な心遣いに感謝致しますぞ(さてさて、どうする左慈よ。愛しの劉備が危機に瀕しておるぞ。ワシに手を出して、何も無いわけが無かろう。さて、当初の予定とは違うが。こうなったら呉郡にて反乱を扇動し孫策の動きを封じ劉表が動きやすいようにしてやるとしよう。ヒョッヒョッヒョ。楽しくなってきたわい。せいぜい楽しませてくれよ左慈。アピャピャピャ。南華仙人のように呆気なく死んでくれるな。アヒャヒャヒャヒャ)」
 一方その頃、張達と范疆が受けた呪術の対処をしていた左慈。
 左慈「百足、まだか?」
 百足「結構強いのよ。相手も大した呪力よね。蠱毒こどくで生まれたこの私の呪力を上回っているんだから。そんな私を調伏した御主人様はもっと凄いんだけど」
 左慈「やれやれ。口だけはどんどん達者になりよってからに(よもや于吉の呪力が南華仙人様の命を奪った時よりも増して居ようとは、全く困ったものである。此度は、これぐらいで引き上げるのが良かろう。目算を見誤った小生の負けとしよう。次は負けぬぞ于吉)」
 張達と范疆の呪いも解除される。
 張達「まさか、こんなやつが殿を狙っているなんて、早くどうにかしねぇと」
 范疆「殿を御守りする。そう母さんと約束した」
 士仁「左慈殿、次はどうしますか?」
 麋芳「(もう嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。帰りたーい)」
 左慈「貴君らを危険な目にあわせぬと劉玄徳殿と約束しておいて、このザマである。此度は小生の目算の甘さが敗因よ。貴君らさえ良ければ、今後も小生に力を貸してもらいたい」
 張達「おぅ。当たり前だ」
 范疆「殿が危険なのを見過ごすことはできない」
 士仁「殿のため。排除を優先させる敵と理解している」
 麋芳「(えーこの流れで断ったりなんてしたら後で何言われるかわかったもんじゃない)勿論ですよ」
 左慈vs于吉の対決の1回目は于吉に軍配の上がる結果となった。
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