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部屋の前で遭遇した人

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 桜庵の中へと入った出雲美和・鈴宮楓・山南宇宙の3人は受付に向かう。受付横の厳重な鍵の掛かったガラス戸の中に外国の民族衣装を着た綺麗なビスク人形が飾られていた。
「いらっしゃいませ。桜庵へようこそ」
 いつもはもっと元気な挨拶なんだろうな。あの輪廻の記事のあった後だからか心無しか元気がないように見受けられる。
「予約していた山南宇宙です」
「山南様ですね。2名様でお間違えないでしょうか?」
「はい」
「では、ヤマザクラの間へどうぞ」
「美和、また後でね」
「刑、ゴホン。出雲さん、また後で」
 山南さんは、私がプライベートで訪れていると考えたのだろう気を遣って言い直してくれた。
「えぇ、また後で」
 2人と別れて、私も受付で名前を言う。
「予約していた出雲美和です」
「出雲様ですね。お1人でお間違えないでしょうか?」
「えぇ」
「では、ミヤマザクラの間へどうぞ」
 流石桜庵と言う名前らしく部屋の名前は桜の品種名が使われているようだ。
「ミヤマザクラ、ミヤマザクラと。ここみたいね」
「お前のせいだぞ。お前がこんなところに宿を取るから。俺は帰るって受付に言ってくる」
 扉が開いて出てきた男とそれを追いかけてくる女と目が合う。
「何見てんだよ。あぁ」
 金髪で見る感じヤンキーの男がメンチを切ってくる。
「ごめんなさい。そのすごい怒鳴り声でしたので」
「あぁ、なんだよ迷惑かけたかあぁ」
「もう、ヤッちゃん、そんなに睨まないの。ほら、謝って」
「なんでだよ。お前が謝っとけよ。俺は受付に行ってくっからよ」
 スタスタと受付に向かうヤッちゃんと呼ばれた男。その後ろで隠れて見えなかったがさっきの男の相手として不釣り合いなほど綺麗な黒髪をした。
「えっ大きい」
「えっ。あぁすみません」
 思わず声に出るぐらいその胸が大きかったのだ。うん、私や楓も大きい方だとは思う。でもこれはその超乳という奴だ。それが浴衣からハミ出していたのだ。まるでさっきまでとても言えないようなことをしていたような。
「凄く大きいですよね。よく言われるんですよぉ~。合う下着を探すのも大変で、ホント偶々つけ忘れていただけなんですからね」
 全く私はそんなことしてませんと大丈夫そう見えただけでしてるとは断言してないから。
「いえ、こちらこそ失言をしてしまい失礼しました」
「気にしないでください。初めての方にはよく言われるんです。あっ名前も名乗らずにごめんなさい。えーっと名刺名刺と。はいコレ」
 渡された名刺には、看護師、南野天使みなみのてんしと書いてあった。
「私の名前は出雲美和です。名刺はその今持ってなくて申し訳ないです。それにしても、すごい名前ですね」
「出雲美和さんですね。名刺は大丈夫です。名前ですか?父がエンジェルって名前にしようとしたのをそのまま天使で落ち着いたそうなんです。さっき出て行ったのは、阿久魔弥吉あくまやきち、まだ高校生なので、その許してあげてくださると嬉しいです」
 天使と悪魔、笑いそうになるのを堪える。
「いえ、大丈夫です。気にしてませんので。ところで何を揉めていたんでしょうか?」
「揉めてたわけではなくて、その出雲さんはドッペルゲンガーってご存知ですか?」
 調べにしたとは言えないので噂程度で知ってると装うことにした。
「えぇ、巷で噂になってるのを聞いたことがある程度ですが」
「そうですか。そのこのカスミザクラの間がその部屋だったらしいんです。私知らないまま予約しちゃったらしくて、それでヤッちゃん、その怯えちゃって、可愛いんですよ。そんなの都市伝説だって言ってるのに、ホントに書かれてたんだぞ輪廻見ろよって、それで俺が死んだらお前のせいだぞって、そう喧嘩とかではないんです」
「成程、でもこの部屋って入る人が決まってたんじゃなかったかしら」
「えっどうしてそれを?」
「輪廻に確か記者の方が潜入を試みるって書いてたような」
「あっ出雲さんも輪廻の愛読者でしたか。怪しい心霊特集ばっかりでつまらないんですよね。本物をよく見る私には」
 ん?ちょっと待って後半の言葉は小さかったけどえっ本物を見る。めっちゃ気になるんだけど感がよさそうな子だから感づかれる可能性がある。気にして無いふりをする。
「私もこんなのあるわけないでしょって思いながら見てます。怖いもの見たさって奴ですよ」
「そうなんですね。それにしてもヤッちゃん遅いなぁ。様子見てきますね。部屋に入るのを邪魔して申し訳ありませんでした」
「いえいえ、2人も旅行を楽しんでくださいね」
「はい」
 結局、記者については聞けなかったがミヤマザクラの間へと入る。
「わぁ~すっごい、えっ露天風呂まで付いてる。でも先ずは大浴場に行かないとね。フフフ秘湯宿の温泉」
 私はニヤニヤしながら下着とバスタオルと浴衣を持って、大浴場へと向かった。
 入り口でバッタリと楓と会う。
「美和も温泉?」
「えぇ楓も?」
「うん、せっかく温泉宿に来てるんだから入らないとね」
「おーい楓、何も持たずに出るなよな。ホラよ」
 山南さんが楓に渡したのは下着とタオルと浴衣だった。
「宇宙、ごめんね。ウキウキして忘れちゃってた」
「良いんだよ。お前の裸、他の奴に見られたくなかっただけだ」
 イチャイチャすな。まぁ楓の裸なら皆んな見たがるかな。
「出雲さんも温泉かい?」
「えぇ、山南さんも?」
「おぅ。部屋にある露天風呂も良いけどよ。やっぱり温泉宿に来てんだから大浴場からだろって2人で話しててな。楓のこと頼むわ」
「わかりました」
 山南さんはそれだけ言うと大浴場の男湯の方へと入って行った。
「もう、宇宙ったらますます心配性になっちゃって、可愛いんだから」
「良いじゃない」
「もう、美和まで。私たちも入りましょう」
「えぇ」
 私と楓も大浴場の女湯へと向かうのだった。
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