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タロウのひまわり2
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「おい! 逃げるぞ! 早く投げろ!」
タロウは必死に逃げました。後ろから石が飛んできます。そのうちの四つくらいが体に当たってタロウの体からは血が出てしまいました。
その後も、出会う人、出会う人、すべてが「汚い」と言ってタロウを嫌な目で見ます。
タロウは思いました。
(僕はどこへ行っても嫌われるんだ)
タロウが行く先、人に出会えばタロウは追い払われました。
タロウは人からうとまれ、だんだんと人を憎むようになりました。
そして、時間とともにすっかり野良犬として生きていく術も身につけていきました。
ある日タロウは畑の中で食べられそうなものを探していました。
すると頭の上から声がします。
「どちらへ行くのですか?」
見上げると、太陽の光がまぶしくて、よく見えませんでした。
「あ? 誰だよ! お前は!」
その頃になると、タロウの言葉もだいぶ悪くなっていました。
よく見ると、大きな太陽のような花が話しかけてきていました。
「私はひまわりですよ。ずっとあなたがここへ来た時から知っています」
タロウは喧嘩腰で怒鳴ります。
「お前なんて知らねえよ!」
ひまわりは怒鳴り声にもにっこりとしながら答えます。
「それはそうでしょう。あなたと最初に出会った頃は、まだ私も土の中にいて芽を出そうとする前でした。今はこうして太陽と同じように花を咲かせていますから、わからないのも無理はないですね」
ひまわりは輝くような笑顔で、タロウへと話しかけてきます。
タロウはとても不機嫌になりました。
幸せそうに笑っているひまわりを見ていると、自分が人を恨んだり、みじめな生活をしていたりするのと比べてしまって、ひまわりを腹立たしく思いました。
(どうしてこいつはこんなにも嬉しそうなんだ。俺を馬鹿にしているのか)
「憎しみはあなたを孤独にします。どうして憎むのですか?」
ひまわりはタロウの気持ちを知っているように言ってきます。
タロウは自分が哀れまれ、見下されていると思い、とたんにむっとして怒鳴りました。
「うるせえ! お前なんかに俺の気持ちがわかるか!」
タロウはひまわりを見上げにらみつけますが、時折太陽の光がまぶしくてうまく見つめられません。
「くそっ! まぶしすぎる」
ひまわりはタロウを葉っぱで優しく抱きしめます。
「私は太陽さんの力を受けて、笑顔でいられるのです。生きているもの全てが、あたたかな気持ちでいられるように笑っているのです。どんな生き物にも、きちんと笑いかけます」
「うるせえ! 俺に笑いかけるな! 不愉快なんだよ!」
「どうしてあなたにだけ笑いかけるのをやめなければいけないのでしょう。あなたを区別して扱うことは私にはできません」
「やめろ!同情なんていらないぞ!離せ!俺にかまうんじゃねえ!」
タロウはひまわりの優しさに心から苛立ちを覚え、走り逃げました。
タロウの心にはどうしてか、寂しい気持ちが深くなりました。
どうして寂しい気持ちが生まれたのか、どうしてその奥にチクチクと痛む気持ちがあるのか、タロウにはわかりませんでした。
(俺は一人なんだ。あいつは俺を馬鹿にしていたに違いない。きっとそうだ。みんなと同じなんだ。あいつは俺をいじめようとしていたんだ。そうやって心のどこかで馬鹿にするのを楽しんでいるんだ)
タロウはひまわりを疑って、少しも信用できませんでした。どうしてか考えれば考えるほど、疑えば疑うほど、腹立たしくなって、余計にひまわりを恨みました。
(どうしてあんなことするんだ……)
タロウはその夜、久しぶりに夜空を見上げました。
夜空には雲ひとつなく、綺麗で大きなまんまるお月さまが浮かんでいました。
昔はよく母親のぬくもりのように、月の光を思っていたのに、今はまともに見ることができずに、お月さまから目をそらしてしまいます。
(謝らねえからな。あのひまわりが悪いんだからな……)
タロウがある朝とぼとぼと公園を歩いていると男の子が近寄ってきました。
するとすぐに男の子の後ろのほうからお母さんが駆け寄ってきて、「やめなさい! 噛まれたりしたらどうするの! こんな汚い犬」と言って、男の子を遠ざけました。
(そらみろ……みんな俺のことを嫌ってるんだ。馬鹿にするんだ……みんな俺のことなんていなくなればいいと思っているんだ)
タロウはのどが渇き、近くの池で水を飲もうとしました。公園には、時々人間に連れられた犬が気取った顔で歩いていたり、甘えた顔で歩いていたり、幸せそうな顔をして歩いていたりしました。
犬を連れている人間は、犬へと優しくほほえんだり、なでたり、抱き上げたりしていました。
タロウはそれを見るたびにけんかを売りたくなりました。
(みんな幸せそうにしやがって、許せない)
タロウがムカムカしながら池の水を飲んでいると、どこからかバイオリンの音がしてきました。
(なんだ? この音は……)
タロウが顔を上げて、音の聞こえるほうへと歩いていくと、公園の椅子に老女が座っていました。
タロウは必死に逃げました。後ろから石が飛んできます。そのうちの四つくらいが体に当たってタロウの体からは血が出てしまいました。
その後も、出会う人、出会う人、すべてが「汚い」と言ってタロウを嫌な目で見ます。
タロウは思いました。
(僕はどこへ行っても嫌われるんだ)
タロウが行く先、人に出会えばタロウは追い払われました。
タロウは人からうとまれ、だんだんと人を憎むようになりました。
そして、時間とともにすっかり野良犬として生きていく術も身につけていきました。
ある日タロウは畑の中で食べられそうなものを探していました。
すると頭の上から声がします。
「どちらへ行くのですか?」
見上げると、太陽の光がまぶしくて、よく見えませんでした。
「あ? 誰だよ! お前は!」
その頃になると、タロウの言葉もだいぶ悪くなっていました。
よく見ると、大きな太陽のような花が話しかけてきていました。
「私はひまわりですよ。ずっとあなたがここへ来た時から知っています」
タロウは喧嘩腰で怒鳴ります。
「お前なんて知らねえよ!」
ひまわりは怒鳴り声にもにっこりとしながら答えます。
「それはそうでしょう。あなたと最初に出会った頃は、まだ私も土の中にいて芽を出そうとする前でした。今はこうして太陽と同じように花を咲かせていますから、わからないのも無理はないですね」
ひまわりは輝くような笑顔で、タロウへと話しかけてきます。
タロウはとても不機嫌になりました。
幸せそうに笑っているひまわりを見ていると、自分が人を恨んだり、みじめな生活をしていたりするのと比べてしまって、ひまわりを腹立たしく思いました。
(どうしてこいつはこんなにも嬉しそうなんだ。俺を馬鹿にしているのか)
「憎しみはあなたを孤独にします。どうして憎むのですか?」
ひまわりはタロウの気持ちを知っているように言ってきます。
タロウは自分が哀れまれ、見下されていると思い、とたんにむっとして怒鳴りました。
「うるせえ! お前なんかに俺の気持ちがわかるか!」
タロウはひまわりを見上げにらみつけますが、時折太陽の光がまぶしくてうまく見つめられません。
「くそっ! まぶしすぎる」
ひまわりはタロウを葉っぱで優しく抱きしめます。
「私は太陽さんの力を受けて、笑顔でいられるのです。生きているもの全てが、あたたかな気持ちでいられるように笑っているのです。どんな生き物にも、きちんと笑いかけます」
「うるせえ! 俺に笑いかけるな! 不愉快なんだよ!」
「どうしてあなたにだけ笑いかけるのをやめなければいけないのでしょう。あなたを区別して扱うことは私にはできません」
「やめろ!同情なんていらないぞ!離せ!俺にかまうんじゃねえ!」
タロウはひまわりの優しさに心から苛立ちを覚え、走り逃げました。
タロウの心にはどうしてか、寂しい気持ちが深くなりました。
どうして寂しい気持ちが生まれたのか、どうしてその奥にチクチクと痛む気持ちがあるのか、タロウにはわかりませんでした。
(俺は一人なんだ。あいつは俺を馬鹿にしていたに違いない。きっとそうだ。みんなと同じなんだ。あいつは俺をいじめようとしていたんだ。そうやって心のどこかで馬鹿にするのを楽しんでいるんだ)
タロウはひまわりを疑って、少しも信用できませんでした。どうしてか考えれば考えるほど、疑えば疑うほど、腹立たしくなって、余計にひまわりを恨みました。
(どうしてあんなことするんだ……)
タロウはその夜、久しぶりに夜空を見上げました。
夜空には雲ひとつなく、綺麗で大きなまんまるお月さまが浮かんでいました。
昔はよく母親のぬくもりのように、月の光を思っていたのに、今はまともに見ることができずに、お月さまから目をそらしてしまいます。
(謝らねえからな。あのひまわりが悪いんだからな……)
タロウがある朝とぼとぼと公園を歩いていると男の子が近寄ってきました。
するとすぐに男の子の後ろのほうからお母さんが駆け寄ってきて、「やめなさい! 噛まれたりしたらどうするの! こんな汚い犬」と言って、男の子を遠ざけました。
(そらみろ……みんな俺のことを嫌ってるんだ。馬鹿にするんだ……みんな俺のことなんていなくなればいいと思っているんだ)
タロウはのどが渇き、近くの池で水を飲もうとしました。公園には、時々人間に連れられた犬が気取った顔で歩いていたり、甘えた顔で歩いていたり、幸せそうな顔をして歩いていたりしました。
犬を連れている人間は、犬へと優しくほほえんだり、なでたり、抱き上げたりしていました。
タロウはそれを見るたびにけんかを売りたくなりました。
(みんな幸せそうにしやがって、許せない)
タロウがムカムカしながら池の水を飲んでいると、どこからかバイオリンの音がしてきました。
(なんだ? この音は……)
タロウが顔を上げて、音の聞こえるほうへと歩いていくと、公園の椅子に老女が座っていました。
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