私は死んだ。

惰眠

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歪む世界

悪夢の歩み

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 私は現状にひどく混乱し、絶叫を響かせた。歳の割に驚くほどの轟音。呼吸が荒くなる。心拍も上がっている。頬から垂れた雫が零れ落ちた時に少しの冷静さを取り戻した。
 それが、私から流れ出たものなら死んでいてもおかしくはないほどの量の血液であった。
 痛みはない。
その量に私が本当は死んでいたとしてもおかしくはないと感じた。

 まともに前も見れないふらつく足を支えるように、壁伝えに少しずつ部屋の戸を開けた。扉の先には、変わらないいつもの廊下が広がっていた。少しほっと胸をなでおろすような思いだった。

 この家は、亡き両親より受け継いだ一軒家だ。私には、彼女も、ましてや嫁もいない。一歩ずつ裸足の歩みを進め、暗闇をふらふらと動く。一人だけの広い空間に、ペタペタという音に床の軋む音が交じる。
 背中にべったりとついているはずの赤黒い血液は、一滴たりとも落ちることはなかった。

 私にとっては、物寂しい広いリビングに辿り着き。蛇口から冷えた水を受け取った。
 まだ止まらない激しい心音を止めるように、静かに流し込んだ。
 息はまだ荒い。

 少しの深呼吸といつも通り繰り返される沈黙。
 今は、この沈黙が果てしなく怖い。
 沈黙を壊したくて、私はテレビのリモコンに手を伸ばした。

 どっしりと椅子に腰を落とし。ボタンを押す。
 つかない。

 何度ボタンを押したところで、テレビに信号は送られない。
 無音による恐怖の悪魔がまた私の胸に爪を突き立てた。

 じんわりと汗が私をおぼれさせようとした。

 もしかしたら、たまたま停電が起きたのかもしれない。

 時計を見る。2:00を指し示していた。おそらく深夜だろう。カチッカチッと秒針が音を立てて、動いている。
 頭がおかしくなりそうな空間から、すぐにでも逃げてしまいたいという気持ちと、汚れてしまった服をすぐにでも捨ててしまいたいという気持ちから、浴室を目指した。

 浴室は、やはり変わりなかった。水栓を捻る。お湯は出た。

 確認を終えると、服を脱ぐ、あまりにも汚れたその服の背を見るとまたおかしくなってしまいそうだったが、堪えた。

 浴室に備え付けの鏡で自身のみっともない体を眺める。私の体には、当たり前のように傷一つない。

 お湯を全身に浴びる。少しの鉄臭さも残らないように、全身を隈なく洗った。髪を洗う。手に何本も白い毛が絡みつく。これは紛れもなく私の体だ。

 体を使い古されたボロボロのタオルで拭く。
 まだ水滴の滴る足で、数歩先の衣服をとる。

 着替えが済むと、私は、気分転換に外でも出ようと考えた。こんな夜更けに出歩くことは、誰の迷惑にもならないはずだ。

 あのもう見たくもない部屋に私は向かう。携帯や、財布なんかは、そこに置いていたからだ。


 そこには、何もなかった。まるで私が勝手な勘違いでもしていたかのように、汚れ一つない、いつも私の寝る自室が、そこにはあった。
 私は、仕事や生活の疲れから、いよいよおかしくなったのだと、納得した。
 必要なものを拾い上げ、私は、簡単な格好で、玄関に向かう。

 玄関も相変わらずだ。

 鍵を片手に持ち、玄関を開ける。


 そこには、私がいた。
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