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第四章
炸裂
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私たちは、カラオケ店に向かった。
どこにでもある系列店だ。
彼はまるで、罠に引き込まれる小動物のようで愛らしい。
「ねぇ、カラオケ行ったことある?」
「あんまりないかな。」
少し照れるような、悲しみの顔をしている。
「よかったぁ~。実は私もあんまり来たことないんだ。」
私は、弱者の振りをする。
「じゃあ、一緒だね。」
少し明るい顔になって、彼は微笑んでいる。
早く、その顔を歪めさせたい。
だが、嫌われてしまっては、もう近づかせてはくれないだろう。
それが悔しいので、私は彼にやさしく振舞うのだ。
「ねぇ、部屋ここみたいだね。」
「だね。」
彼は、ゆっくりとその魔の扉を開ける。
彼はあまりにも、警戒心がない。
私は、彼の後に続いて部屋に入る。
私が、扉を閉める。
この瞬間をたまらなく好きだと思えた。
私が一番扉から近く、この部屋の一番の道を塞いでいる。
彼の行動権を掴んでいるといっても、おかしくないだろう。
「ねぇ、わかってる?」
「なにが?」
純粋な顔で彼は答える。
「二人っきりだね。」
彼の少し赤くなる耳を見て、彼の心音が聞こえてきそうだ。
不気味な笑みが私からこぼれそうになったが、何とか抑えて彼の横に座る。
二人用の部屋はあまりにも狭く、自然と距離が近くなってしまう。
「そ、そうだね。」
彼の声は、震えている。
あまりにも可愛いその姿は、見逃せない。
私の筆箱からおもむろに鋏(はさみ)を取り出し、そのまま彼の目に突き立ててやりたい。
「ねぇ、何歌うの?」
私は、彼に選曲させた。
彼に機械を手渡す。
私の手から機械を受け取り、彼は曲をゆっくりと選ぶ。
彼の眼球。
彼の頬。
彼の首。
彼の手首。
彼の指先。
彼の弱いところばかりが、気になって仕方がない。
ハサミ。
シャーペン。
ボールペン。
分厚い本。
私が持ちうる、危ないものの確認が始まった。
この衝動に私は動揺する。
私は、あまりにもおかしいようだ。
「ごめんね。喉か湧いちゃったから、先に飲み物取ってくるね。」
「うん。いっておいで。」
そう言って、私は逃げるようにその場から離れる。
コップを手に取り、サーバーの前に立つ。
きっと、今このタイミングで私に鏡を向けられたなら、どんなに普通の顔だとしても私の顔が嫌になるだろう。
私の顔は悪い方ではないはずだ。
美女というには少し違うが、ブスとは言えないはずだ。
そこら辺に歩いている女がいたら、それくらいの顔だ。
私は、甘く冷たいココアを持ってあの部屋へと戻る。
彼はまだ、決め切れていない様子だ。
「ねぇ、まだ決まらないの?」
「人前で歌うって考えたら緊張しちゃって…。」
「別に攻めてないよ。」
彼は弱気になっている。
少しでも自信を持ってもらわないと。
「じゃぁ、先に歌ってみてもいい?」
「うん。いいよ。」
彼は少し感情を隠すような笑顔で答える。
「じゃあ、流行りの曲でも。」
私は、今教室で流行りの好きでもないアイドルソングを歌う。
つまらない交友関係のお陰で、曲や歌詞はとうの昔に覚えている。
私は、彼のことを視界の端で見ながら歌を歌う。
まんまと毒蜘蛛の餌となっている。
歌い終わった後、彼の顔を見る。
私以外に見えていないという目をしている。
そうして、彼の緊張の糸はだんだんほどけていった。
彼が頑張って歌っていた姿はとても可愛らしかった。
あの顔やのど元に目が行く。
「そういえば、今度から何て呼ぼうか?」
私たちは互いのことをよく知らない。
「苗字でも、名前でも好きに読んでいいよ。」
彼は砕けた言葉でそう答えた。
「じゃぁ、夏樹君って呼ぶね。」
「じゃあ、僕は…。」
「私のことは、美幸って呼んでいいよ?」
「美幸さん。」
「よろしい。」
私たちは時間いっぱい楽しんだ。
そして、時間が来た。
「ねぇ、そろそろ時間だね。」
「だね。」
「スマホって持ってる?」
「うん、持ってるけど?」
「貸して?」
「はい。」
私は彼を操るように急かした。
私は、彼の無防備のスマホからチャットアプリを開いて私のアカウントを登録した。
「これで、いつでも連絡取れるよ。」
少し焦った様だった彼の顔は、少しだけ緩んで私に気を許すようだった。
「あ、ありがと。」
私たちは静かに駅へと向かった。
彼はこの感動が覚め切らない様子で。
私は、彼とのこの瞬間にも小さな不幸を望む心持で。
各々の帰路へと向かうのだった。
どこにでもある系列店だ。
彼はまるで、罠に引き込まれる小動物のようで愛らしい。
「ねぇ、カラオケ行ったことある?」
「あんまりないかな。」
少し照れるような、悲しみの顔をしている。
「よかったぁ~。実は私もあんまり来たことないんだ。」
私は、弱者の振りをする。
「じゃあ、一緒だね。」
少し明るい顔になって、彼は微笑んでいる。
早く、その顔を歪めさせたい。
だが、嫌われてしまっては、もう近づかせてはくれないだろう。
それが悔しいので、私は彼にやさしく振舞うのだ。
「ねぇ、部屋ここみたいだね。」
「だね。」
彼は、ゆっくりとその魔の扉を開ける。
彼はあまりにも、警戒心がない。
私は、彼の後に続いて部屋に入る。
私が、扉を閉める。
この瞬間をたまらなく好きだと思えた。
私が一番扉から近く、この部屋の一番の道を塞いでいる。
彼の行動権を掴んでいるといっても、おかしくないだろう。
「ねぇ、わかってる?」
「なにが?」
純粋な顔で彼は答える。
「二人っきりだね。」
彼の少し赤くなる耳を見て、彼の心音が聞こえてきそうだ。
不気味な笑みが私からこぼれそうになったが、何とか抑えて彼の横に座る。
二人用の部屋はあまりにも狭く、自然と距離が近くなってしまう。
「そ、そうだね。」
彼の声は、震えている。
あまりにも可愛いその姿は、見逃せない。
私の筆箱からおもむろに鋏(はさみ)を取り出し、そのまま彼の目に突き立ててやりたい。
「ねぇ、何歌うの?」
私は、彼に選曲させた。
彼に機械を手渡す。
私の手から機械を受け取り、彼は曲をゆっくりと選ぶ。
彼の眼球。
彼の頬。
彼の首。
彼の手首。
彼の指先。
彼の弱いところばかりが、気になって仕方がない。
ハサミ。
シャーペン。
ボールペン。
分厚い本。
私が持ちうる、危ないものの確認が始まった。
この衝動に私は動揺する。
私は、あまりにもおかしいようだ。
「ごめんね。喉か湧いちゃったから、先に飲み物取ってくるね。」
「うん。いっておいで。」
そう言って、私は逃げるようにその場から離れる。
コップを手に取り、サーバーの前に立つ。
きっと、今このタイミングで私に鏡を向けられたなら、どんなに普通の顔だとしても私の顔が嫌になるだろう。
私の顔は悪い方ではないはずだ。
美女というには少し違うが、ブスとは言えないはずだ。
そこら辺に歩いている女がいたら、それくらいの顔だ。
私は、甘く冷たいココアを持ってあの部屋へと戻る。
彼はまだ、決め切れていない様子だ。
「ねぇ、まだ決まらないの?」
「人前で歌うって考えたら緊張しちゃって…。」
「別に攻めてないよ。」
彼は弱気になっている。
少しでも自信を持ってもらわないと。
「じゃぁ、先に歌ってみてもいい?」
「うん。いいよ。」
彼は少し感情を隠すような笑顔で答える。
「じゃあ、流行りの曲でも。」
私は、今教室で流行りの好きでもないアイドルソングを歌う。
つまらない交友関係のお陰で、曲や歌詞はとうの昔に覚えている。
私は、彼のことを視界の端で見ながら歌を歌う。
まんまと毒蜘蛛の餌となっている。
歌い終わった後、彼の顔を見る。
私以外に見えていないという目をしている。
そうして、彼の緊張の糸はだんだんほどけていった。
彼が頑張って歌っていた姿はとても可愛らしかった。
あの顔やのど元に目が行く。
「そういえば、今度から何て呼ぼうか?」
私たちは互いのことをよく知らない。
「苗字でも、名前でも好きに読んでいいよ。」
彼は砕けた言葉でそう答えた。
「じゃぁ、夏樹君って呼ぶね。」
「じゃあ、僕は…。」
「私のことは、美幸って呼んでいいよ?」
「美幸さん。」
「よろしい。」
私たちは時間いっぱい楽しんだ。
そして、時間が来た。
「ねぇ、そろそろ時間だね。」
「だね。」
「スマホって持ってる?」
「うん、持ってるけど?」
「貸して?」
「はい。」
私は彼を操るように急かした。
私は、彼の無防備のスマホからチャットアプリを開いて私のアカウントを登録した。
「これで、いつでも連絡取れるよ。」
少し焦った様だった彼の顔は、少しだけ緩んで私に気を許すようだった。
「あ、ありがと。」
私たちは静かに駅へと向かった。
彼はこの感動が覚め切らない様子で。
私は、彼とのこの瞬間にも小さな不幸を望む心持で。
各々の帰路へと向かうのだった。
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