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第二章
誘惑
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私は今日もゆったりと彼の顔を眺める。
当の本人は、そんなことを気にする余裕がない。
そこがいいのだ。
妄想の中で彼は、私の腕の中にいる。
あやされる赤子のような彼は、優しく私に抱きしめられている。
目の前にいるはずの彼は、とてもじゃないが近寄り難い。
いや、近寄りたくないといった方が正しいのかもしれない。
彼らの戯れを邪魔するには、あまりにも私は邪魔者のはずだ。
彼らが、そのじゃれあいに熱中するのならば、私はお目当ての彼を見つめるだけである。
私は、陰ながら彼を応援する。
もちろん応援の掛け声は、影の落とされたものばかりである。
欲を言えば、この手に持つ分厚い参考書を彼のもとに持って行き、その可哀そうな表情にアクセントを加えてやりたい。
彼は何とも言えない表情で驚いてくれるのなら、尚更いい。
対照的に私は、満ち足りるような笑顔が現れることだろう。
しかし、その彼の表情を私が作ってはならない。
どうしても作りたいと思う弱い私がいるが、ぐっと堪える。
私は、この距離がいいのだ。
遠くから眺められる距離であり、彼は私に一生無害である。
この特等席からの眺め以上に綺麗な景色を私は知らない。
私は静かにこの罵声をBGMとし、参考書の問題を解く。
問題を解くごとに時間は進む。
彼らの楽しみも終わりへと近づくのだ。
私は、ほかのクラスメイトがするように現状維持を守る。
私は、他のクラスメイトがしないように静かに耳を傾け、彼らの動向を静かに見守る。
目を閉じていても分かるその惨状は、綺麗なクラシック音楽に耳を澄ませる一観客のような気分にさせてくれる。
彼は毎日その惨めな遊戯が終わると、何とか立ち上がり自分の席へと戻るのだ。
私の心の中では、小さな声援と応援を織り交ぜて彼のことを見ている。
立ち上がることについてがメインではあるが、もっと傷つけばいいと思ってしまうこともある。
授業中は彼にとっての休息だ。
私が持つこのシャーペンを彼の首元に刺して、反応を見たいと思うタイミングではあるが、何とか抑え込んでいる。
何事にも緩急は大事だ。
そのおかげで、素晴らしい映画というのはとても見応えがあるというものになる。
くだらないラブロマンスになるかと思ったら、急なアクションシーンとなり観客は盛り上がる。
そういうことが大事なのだ。
先生は何事も知らない。
無知とは恐ろしく、彼が休みたくても授業のための最善の行動をとるのだ。
それが、教師なのだ。
私は、優等生でも劣等生でもない中層で静かに時を待っている。
あまりにも目立たない私は、最低限の話相手程度は存在する。
くだらないテレビの話題や、今読んでる小説について、あまりにもつまらない会話がそこで繰り広げられる。
素晴らしい作品も脇役が目立ちすぎては面白くない。
そういうことなのだ。
私の周りはつまらないが、少し先では心躍るそれが繰り広げられる。
ここが映画館であるのなら、ポップコーンの一つでも欲しいが残念だ。
私は、彼の何とも言えない表情をこの周りの脇役にも分け与えたくなる。
何が面白くてそんなに笑えているのかも分からない。
とりあえず私は、その場の空気とやらに合わせるだけだ。
彼は、今日もその荒波に揉まれながら退屈することのない日々を送るのだ。
やはり彼は素晴らしい。
その可哀そうな顔を私のみに向けてくれるなら今すぐにでも助けてあげたくなることだろう。
しかし、万が一そんなことがあっても彼の期待通り、私を含め誰も救いの手は出さない。
そういうものだ。
彼には十分に、現実に絶望してくれたなら嬉しい。
彼が自死したなら私は悲しんでしまうだろうから、それは避けたい。
お願いだから永く私のものでい続けてほしいと願うばかりだ。
彼は、これからもっとだれも信用できなくなるのかもしれない。
本当に学校に来れなくなるほど、壊れてしまうかもしれない。
その時は、私が出よう。
悪魔の使いとして、彼を救って見せよう。
この手で救い上げ、また静かに落とすのだ。
いつ、その瞬間が訪れてもいいようにと、私は今日も妄想を膨らませる。
今日も彼は変わらず被害者だ。
彼は反抗を知らない。
当の本人は、そんなことを気にする余裕がない。
そこがいいのだ。
妄想の中で彼は、私の腕の中にいる。
あやされる赤子のような彼は、優しく私に抱きしめられている。
目の前にいるはずの彼は、とてもじゃないが近寄り難い。
いや、近寄りたくないといった方が正しいのかもしれない。
彼らの戯れを邪魔するには、あまりにも私は邪魔者のはずだ。
彼らが、そのじゃれあいに熱中するのならば、私はお目当ての彼を見つめるだけである。
私は、陰ながら彼を応援する。
もちろん応援の掛け声は、影の落とされたものばかりである。
欲を言えば、この手に持つ分厚い参考書を彼のもとに持って行き、その可哀そうな表情にアクセントを加えてやりたい。
彼は何とも言えない表情で驚いてくれるのなら、尚更いい。
対照的に私は、満ち足りるような笑顔が現れることだろう。
しかし、その彼の表情を私が作ってはならない。
どうしても作りたいと思う弱い私がいるが、ぐっと堪える。
私は、この距離がいいのだ。
遠くから眺められる距離であり、彼は私に一生無害である。
この特等席からの眺め以上に綺麗な景色を私は知らない。
私は静かにこの罵声をBGMとし、参考書の問題を解く。
問題を解くごとに時間は進む。
彼らの楽しみも終わりへと近づくのだ。
私は、ほかのクラスメイトがするように現状維持を守る。
私は、他のクラスメイトがしないように静かに耳を傾け、彼らの動向を静かに見守る。
目を閉じていても分かるその惨状は、綺麗なクラシック音楽に耳を澄ませる一観客のような気分にさせてくれる。
彼は毎日その惨めな遊戯が終わると、何とか立ち上がり自分の席へと戻るのだ。
私の心の中では、小さな声援と応援を織り交ぜて彼のことを見ている。
立ち上がることについてがメインではあるが、もっと傷つけばいいと思ってしまうこともある。
授業中は彼にとっての休息だ。
私が持つこのシャーペンを彼の首元に刺して、反応を見たいと思うタイミングではあるが、何とか抑え込んでいる。
何事にも緩急は大事だ。
そのおかげで、素晴らしい映画というのはとても見応えがあるというものになる。
くだらないラブロマンスになるかと思ったら、急なアクションシーンとなり観客は盛り上がる。
そういうことが大事なのだ。
先生は何事も知らない。
無知とは恐ろしく、彼が休みたくても授業のための最善の行動をとるのだ。
それが、教師なのだ。
私は、優等生でも劣等生でもない中層で静かに時を待っている。
あまりにも目立たない私は、最低限の話相手程度は存在する。
くだらないテレビの話題や、今読んでる小説について、あまりにもつまらない会話がそこで繰り広げられる。
素晴らしい作品も脇役が目立ちすぎては面白くない。
そういうことなのだ。
私の周りはつまらないが、少し先では心躍るそれが繰り広げられる。
ここが映画館であるのなら、ポップコーンの一つでも欲しいが残念だ。
私は、彼の何とも言えない表情をこの周りの脇役にも分け与えたくなる。
何が面白くてそんなに笑えているのかも分からない。
とりあえず私は、その場の空気とやらに合わせるだけだ。
彼は、今日もその荒波に揉まれながら退屈することのない日々を送るのだ。
やはり彼は素晴らしい。
その可哀そうな顔を私のみに向けてくれるなら今すぐにでも助けてあげたくなることだろう。
しかし、万が一そんなことがあっても彼の期待通り、私を含め誰も救いの手は出さない。
そういうものだ。
彼には十分に、現実に絶望してくれたなら嬉しい。
彼が自死したなら私は悲しんでしまうだろうから、それは避けたい。
お願いだから永く私のものでい続けてほしいと願うばかりだ。
彼は、これからもっとだれも信用できなくなるのかもしれない。
本当に学校に来れなくなるほど、壊れてしまうかもしれない。
その時は、私が出よう。
悪魔の使いとして、彼を救って見せよう。
この手で救い上げ、また静かに落とすのだ。
いつ、その瞬間が訪れてもいいようにと、私は今日も妄想を膨らませる。
今日も彼は変わらず被害者だ。
彼は反抗を知らない。
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