君を知るということ

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純真無垢

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湊から受け取った鞄を持って、後を追いかける。
教室を飛び出した先の方向はわかっているが、体育館に行った訳ではなさそうだ。

(…電話しても、出なそうだしな)

手当たり次第に周囲を模索する。
この学校で人気の少ない場所、一つ思い当たったのは、別館へと続く渡り廊下。
玄関口に近いそこのベンチに翔也は座っていた。

「…凪、なんで。部活は?」

「先輩には遅れるって言ってある。…荷物置いてきてどうすんだよ。」

目にうっすらと付いた涙の跡。
すれ違いが生んだ亀裂、もし自分だったら。
今とは違った、恋が叶わなかった未来を想像してみる。
偶然にも聞いてしまった告白を彼なりに受け入れようとしているのかもしれない。

「…湊に告られた。」

前に話した時には「そっとしておく」と言っていたが。
確かに、最近の湊は露骨に距離を取っていたし、嫌われたと解釈してしまっても無理もないだろう。

「…で、お前はあいつのこと、どう思ってんだ?」

「…湊は俺がやらかした時もフォローしてくれるし、…一人じゃ無理って事も出来る気がするんだ。
…だから、あいつを好きだった女子もいるのに、振られたって聞いてほっとしたっていうか。」

途切れ途切れになりながらも、翔也は言葉を紡ぐ。

「それは、好きだからだろ?」

「そりゃあもちろん。」

「…じゃなくて、恋してんのかって。」

一瞬間が空いて首を傾げる。
意味を理解した途端に、顔面が赤く染まった。

「…そうかもしれない。」

普段やかましいぐらいの大声とは対照的な呟き。
数ヶ月前まではあまりピンと来ていなかったようだが、とうとう自覚したか。
何故か感慨すら憶えた。

「凪もこんな感じだったのか?」

「…多分。」

龍一みたいに的確な助言は俺には出来ない。
でも、このままぎくしゃくした関係が続くのを心のどこかで拒んでいる。

「…俺はこれからもあいつと一緒にいたい。…でも、同じぐらい3人でいるのも好きだから。」

「なら、そうあいつに言えばいい。」

(…意識はしてるけど、その先はまだ曖昧か)


「凪ってホント良い奴だよな。神崎さんが好きになるのもわかるわ。」

「…何だよ、急に。」

「照れんなって。わざわざ俺のことおいかけてくれたんだろ?
優しくて、勉強も出来るとか最強じゃん!」

唐突に明言されると流石に照れくさい。
純粋とは恐ろしいと、改めて感じた。

「…まあ、どうでもいい奴の恋路まで普通は手伝わねえよ。」

小中と家庭の事情を後ろ盾にして周りを遠ざけていた俺に真っ向勝負で挑んできて、皆の輪へと引き込んだ。
学校という居場所があるのも、案外こいつのおかげだったりする。
それが、「友人」に値するのだろうか。

「…友達だろ?」

らしくもない台詞を吐く。
翔也の表情から陰りが消える。

「…親友だよ!」

「ちょっと、抱き着くなって。」

勢いと身体の重みでのけぞり、崩れたバランスを足を駆使して持ちこたえる。

「もっかいちゃんと話してくる。ありがとな!」

すっかりいつもの調子を取り戻したようで、溌溂とした笑みで駆けてゆく。
「廊下を走るな」と注意する声も届かない。
午後の陽気にあてられた廊下は、彼を導くように先を照らしていた。










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